幼年期の思い出

怒っている人は赤色。悲しんでいる人は青色。

それに、恋している人はピンク色だ。


僕には見ただけでその人が”色”でわかる。

人間だけじゃない。猫や犬、文字にも”色”が見える。

危険な文字は赤色、安全な文字は青色。この体質?(と呼べばいいのかな?)そのおかげでテストでいい点が取れるのだ。算数にはあまり効果はないけど。

 僕はこの体質のことはまだ誰にも言っていない。お母さんにもだ。


小学校に行って、給食をたべて、放課後には友達と一緒に遊んで、空が赤くなったら帰る。

僕はこの平穏な毎日が大好きだ。友達に言ったら「マセてるなぁ」って言われた。

日常を愛するというのは当たり前のことじゃないのかな。


ピンポーンと家のチャイムが鳴った。

どうやら僕の一番の友達が来たみたいだ。


「いまいくー」

僕は二階にある僕の部屋の窓から叫ぶ。この程度の大声なら外のあの子にも聞こえているだろう。いつもやっていることだからわかる。

 慌てて靴下を履いて、いつものカバンを持つ。準備万端だ。

階段をドスンドスンと二段飛ばしで駆け下りる。母親から「もうちょっと落ち着きなさい」と言われた。僕はそれにごめーんと返事して、玄関の扉を開ける。


「おまたせ」

「待つ暇もありませんでしたけど?」

「それならよかった」


少女はクスクスと笑って僕を出迎えてくれた。

この子は僕の一番の友達だ。

お父様はどこかの社長らしくて、結構なお金持ちらしい。つまりお嬢様だ。そのせいなのかどんな時でも敬語で喋る。敬語以外を聞いたことがない。同い年の僕にも敬語で喋るっていうんだから、敬語以外喋れないんじゃないかな。なんとなくそう思っている。

もちろん僕にはこの子の色だって見える。さっきの話の続きになるけど、僕にはその人の気持ちの他に、個性?なのかな。その人特有の色だって見える。少女は透明な空色だ。透明なのに何よりも深い色。ずっと眺めていたいほど綺麗な空色だ。


「今日は公園に行きませんか?」

「わかったー」



~~



いつもの公園、僕と少女はいつもここで遊ぶ。

昨日は鬼ごっこをしたっけ。少女は女の子なのに僕より足が早い。それがちょっと悔しい。僕だってクラスでは速い方なのに。


「昨日は鬼ごっこしましたっけ?じゃあ今日は私が決める番ですね」

「そ、そうだっけ?」

「ソウデスヨー」

「やっぱり、お、おままごと……?」

「あら?よく分かりましたね」

「いつもおままごとばっかりだからそりゃあ分かるよ!」

もう小学生にもなっておままごとはさすがにちょっと恥ずかしい。

「まぁ、遊びを決めるのは交代制って約束ですからねー従ってもらいますよー」

「ぐぅ……」

「ということで、私はお母さん役をしますね」

「それじゃあ僕は隣の家のおじさ」

「お父さん」

「はい」

「よろしい」

あの子はニコニコしてこっちを見る。有無を言わせない素晴らしい眼力をお持ちだ。

「トントントン、トントン」

少女が空中にチョップを繰り返し続けている。

もう始まったらしい。

「トントン、コトコト」

チョップをやめ、腕を弧を描くように動かして牽制している。

なにしてるんだろ。

「シャドーボクシング?」

「料理作っているんですよ!!」

「ひぃっ、ごめんなさい」

「トントントン」

少女はふたびチョップの動きに戻る。

あ、これって包丁で何かを切っている動きなのかな。

どう入ろうか?まぁ普通に入ればいいか。

「ただいまー今帰ったぞー」

おままごとにテンプレがあるのかはよくわからないけど、多分テンプレらしきセリフで始める。

「おかえりなさい!今日もお仕事お疲れ様です♪」

「がー疲れたー」

「お風呂にしますか?ご飯にしますか?それとも……///」

どこかで聞いたことのある流れだ。だったらこの流れに乗るしかない。


「今宵の晩餐は何かな?」

「今宵は不死鳥の生き血と漆黒の肉塊のロティールですわ」

「私の暴食の王(グラトニー)もお腹を空かせているようだ。早めに食事にしよう」

「もう準備は出来ていますわ。始めましょうこの世界の鎮魂歌(ワールドオブレクイエム)のために」

「祝杯を上げよう」

僕らは公園の水をペットボトルに入れ、土で出来た団子を目の前に置き手を合わせた。

そして何度か食べるを真似し、高らかに叫ぶ。

「我が血肉と成れたことを感謝するが良い!!」

「血が沸き肉踊るようですわ!!!酒池肉林ですわ!!!」

「もうじきこの世界は私のものだ。気分がいいなぁ!!のぅ?」

「その通りでございます。暴食の王(グラトニー)様。私も欣喜雀躍(きんきじゃくやく)です!!思わず手舞足踏(しゅぶそくとう)してしまいます!!」

「フハハハハハハ、なに言っているか全然わからーん!!」

「オーホッホッホッホーーー」

「フハハハハハハ、酒を持ってこーい!!」

「ハッ、暴食の王(グラトニー)様ココに!!」

そう言い終わるのが早いか、水が入ったペットボトルを僕の口元に押し付けてきた。

僕はその意図に従い、その水を飲み込む。

「これただのお水じゃないか!!!」

「お水ですわ!!」

「……」

「……」

「お水じゃないか!!!」

「だからお水ですわ!!」

「……」

「……」

「お水…」

「お水です!!!」

「……」

「……」

目を閉じ天を仰ぐ、そして静かに食事の終了を告げる。

「ジェスウ」

「ジェスウ」


こうして僕たちの闇の談話(ダークオブカンバセイション)は終わった……

そう、闇と供に……


何やってんだ僕ら


~~


『もうすぐ6時になります。事故などに気をつけて、早くお家に帰りましょう___』


僕たちは急に流れたその放送に聞き入る。町内の定時放送だ。もうこんな時間になっていたのか。そろそろ帰らなければ親に怒られてしまう。まだ遊びたい気持ちが残って意図せず渋い顔になる。だけどしょうがない。

「今日はもう帰ろう」

「はい、そうですね」

僕たちは同じ帰り道を歩く。

気がつくとあたりは夕日の朱色に染まっていた。朱色の公園、朱色の道路、朱色のコンクリート塀、いつも行く駄菓子屋まで朱色になっている。僕はこの風景が大好きだ。とても色鮮やかで美しい。なんて言うか、のすたるじー?ってやつだ。よくわからないけど。

「もう今日はお別れですね」

「うん……」

同じ帰り道はここで終わりみたいだ。あの子は少し前に進んでくるっと振り返った。あの子の姿は少し青く見えた。きっとあの子も家に帰るのが悲しいのかな。なんだか一緒の気持ちだってことがわかってちょっと嬉しくなる。

「また明日も遊ぼうぜ!!」

「もちろんです!また、おままごとをしましょう」

「ちょっとそれは遠慮したいかな〜」

「ええ〜たのしかったじゃないですか〜おままごと〜」

「否定はできないけど……なにかが違った気がする……おままごとっていうか、なんて言うか……」

「あれは誰がなんと言おうとおままごとです!!私が保証します」

「ほしょう・・・?」

「つまりは安心してください」

「すっごく安心だなぁ、一体なにが安心なのかわからないけど」

あの子の色が黄色に近づいた気がする。元気になったようでよかった。あの子は明るい色が似合ってると思う。

「じゃあ、また明日なー」

「また明日です!」

あの子の色が夕日に溶け込むまで腕をブンブン振って、あの子を見送った。

そして僕は親が待っている家への道を進む。

きっと明日は今日よりもいい日になる。

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