ウルフ・ド・ローンリ ザ・レックス組 VS アース・デラックス ガイア・ジャイアント組

「レックス、くそやろーー」

 ガイアのラリアットがレックスの喉元をえぐる。レックスはその場で後ろに一回転して背中から落ちる。リング中央でレックス体は円を描いた。

 ワーじゃキャーの声援が大きくなる。

 レックスと組んで残りのシリーズ対戦してきて、今日はシリーズ最終戦。社長の話をした通り、アースとマッドの男性ホルモンズとのタッグマッチが最終戦で組まれた。試合を知らせるポスターやパンフレットにも男性ホルモンズと記載されていた。いつの間にか、正式名称にでもなったのだろうか。

 ジュニアヘビーのシングルのタイトルマッチ、エンパイアジュニアヘビー、華翔VSカオルも組まれていた。あの六人タッグの試合から、華もカオルも因縁を持ってこの試合が盛り上がるように前哨戦を戦っていた。どのような展開になるのか、俺もいちレスラーとして、楽しみである。

「ウルフー、ウルフー」

 もの思いにふけり、眼の前の試合を漠然と見ていたら、あまりにも漠然と見ていたので、レックスのピンチに気づいていなかった。

 ガイアとアースの二人に抱え上げられ、ダブルパワーボムの体勢になり、今にも叩きつけられる所だった。横ではレフェリーが二人攻撃は反則だぞと、意味も無い注意を繰り返している。

 レックスは空中でもがき、なんとか逃げようとして、すぐには叩きつけられないように抵抗している。

 慌てて、俺はリングインするとマッドとアースにミドルキックを一発づつ叩き込む。ダブルパワーボムの体勢からレックスが逃れた。

 レックスはガイアに対して後ろから胴体に抱きつく体勢を取り、俺は、アースに対して前から同じように抱きついた。

 レックスはジャーマン・スープレックス、俺はフロント・スープレックスを同じタイミングで繰り出した。

 レックスはラリアットもパワーボムもしない、スープレックス系が得意で、技の嗜好が似ている。それと、受け身がウチの団体でもトップクラスにうまいので、様々な選手の得意な技を受けきって、勝つのが得意のパターンだ。タッグを組んで見てより実感したことだが、技を受け切る、タフな部分に舌を巻くのは、この短期間でも何度もあった。なんとデビューしてからこの方、フォール負けをしたことがないことでも有名だ。

 この展開だと、レックスはガイアに技をかけるので、俺はアースを釘付けにしなければならない。倒れているアースの左足を俺の右脇に抱えると、倒れ込んでアキレス腱固めに移行した。もちろん、俺が本気で技をかければ、秒で極まってしまうので、ポイントをずらして技をかけた。

「ぐわっわわわわ」

 アースは声にならない声を発して、暴れている。

 レックスのほうを見ると、ガイアの背中側から両脇を差し、さらにガイアの首裏で手をクラッチした。ガイアを両手挙げられ、ちょうど翼を広げた状態になっている。

 これを後ろに投げれば、ドラゴン・スープレックスだ。もちろん、レックスが技をかけるので、ジュラシックスープレックスとかいう名前になって売り出している。

 アースは、その光景を見ながら、自分がヘルプに行くべきか、エスケープのタイミングを見計らっている。こいつは、油断ならない。技数は少なく、力まかせな動きが多い。しかし、試合の流れを読むのが抜群にうまい。特に、タッグや六人タッグの場合には抜群の動きをする。技やフォールのカット、場外戦へのタイミングなどは、間違えた事は無い。カオルがずっとタッグパートナーとして指名し続けるという事は、自分の見栄えをよくするためだけでは無いはずだ。

 アースは技を受け続けながら、ガイアの状態、俺とレックスとの距離感や、時間配分などを考えているはずだ。

 とにかく、ここは釘付けにしてジュラシックスープレックスを敢行してもらおう。少し、アキレス腱固めのポイントを極めて、足首を痛めにかかった。

 おそらく、ガイアのスタミナがエンプティーに近かったのだろう、まともに技を喰らえば、終わると読んだアースは技をほどきにかかった。

 普通に技を知らないやつなら、足をひっこ抜きにかかる所だが、逆に技をかけられている左足を突っ込んだ。

 よく知ってる。そのほうが技は決まらない。プロレス初めて、アキレス腱固めをちゃんとエスケープされたのは初めてだ。それもアースにされるとはな。

 足を突っ込んだ事で、俺との距離が近づく。それを利用して、エルボーを一発、二発繰り出すと、俺の技をほどけた。

 アースは、勢い良く立ち上がると、ジュラシックスープレックスをかけようとしていたレックスの背中を蹴り上げて、救出した。

「ガイア、ロープ、ダブル」

 アースは短く指示を出す。ガイアは入門前からアースにあこがれていた。そのため、モジャモジャの長髪やモサモサのヒゲ、技のチョイスなども大いに影響を受けている。タッグで組む事も多く、コンビネーションも多彩だ。

 二人で、レックスの右手、左手をそれぞれ持つとロープへと振る。戻ってきた所へ、ガイアがラリアット、倒れたレックスへアースがエルボーを落とす。

「グフッ」

 レックスにダメージを与えたことを確認すると、アースはガイアの方を見て、俺を指差す。ガイアはそれを見て、倒れている俺をストンピングすると、リング外へと蹴り出された。その間、アースはリング中央で、両手をグーにして前に突き出した。

「ブルン、ブルン、ブルン」

 バイクでエンジンをふかすようなパフォーマンスをはじめた。

 それに合わせて、気合の入ったアースファンの一陣がエンジン音のような声を上げ始めた。アースの趣味のバイクに合わせたものなのだろう。

 レックスは無理やり起こされると、アースにパワーボムの体勢にさせられた。

 俺は救出しようとリングへと復帰しようとするが、ガイアが両足で蹴ってきて動けない。

 レックスはアースに持ち上げられると、空中で静止した。間をしっかり使って、技の説得力を上げようとしている。

 多分、レックスはまだ大丈夫だ。タフさはあんなもんじゃない。

 バーーン。

 リング中央で、レックスはパワーボムを喰らった。

 アースはガイアに、レックスをフォールしろと指示する。タッグマッチでは、試合権利を持った人間がフォールやギブアップを取らないと勝利とはならない。今、現在はガイアが試合の権利を持っている。

 流石、アースだな。

 俺はほくそ笑む。ガイアがフォールに向かう事で、俺への妨害がなくなる。

 ガイアが、レックスを抑え込む。

「ワーーン」

 レフェリーのカウントが始まる。

「ツーー」

 スリーの影が迫るずいぶん前に、レックスは体を跳ね上げカウントスリーを逃れる。

「くそっ」

「チッ」

 悔しがる、男性ホルモンズをよそに俺は、リングに上がると、油断している、アースにミドルキックを叩き込む。アースはそのままリング外への退避した。

 ガイアへは、掌底のワンツーをかまし、コーナーへと追い込む。

「十分経過、十分経過」

 試合時間を知らせるアナウンスが流れる。

 そろそろ、終わりへの流れを作らないとな。

 左ハイキックをガイアへ打ち込むと、レックスの足を持ち、引きずって自陣コーナーへ持っててくる。俺は、一旦コーナーへ控えると近づいたレックスのリングシューズにタッチする。

 レフェリーが交代を認めると、俺はリングインする。

 代わりにレックスは場外へと転がっていった。

「ウオオオオオオオオ」

 リング中央で、狼が遠吠えするように膝をつき、声を出した。レックスが、一緒にトレーニングや練習をするようになって、それくらいしたほうがいいというアドバイスをしてきた事から、タッグを組むようになってから使用している。

 観客も幾人かは、それに合わせて声を出してくれるようになった。

「スタイルも大事だ、個性も大事だ。でも、今のプロレスに合わせる事も大事だ。そのバランスよ」

 レックスは本を良く読んでいる。そのため、学があるような事を良く言う。このままでは悪いと思っていた俺としては、やって見ようと素直に思えるようになった。

 ニュートラルコーナーでノックアウト気味なガイアを見る。俺のパフォーマンスを待っていたようだ。

「ぬおおおお」

 狙いすました、ラリアットを俺にぶつけてきた。

 俺はそのラリアットの腕をくぐると、その腕を絡みとり捻り上げた。脇固めだ。リング中央、ロープエスケープにはかなり距離がある。それにこの技は、ポイントをずらして極める事が難しい。形に入れば、簡単に痛めてしまう。そんな技だ。

 どうせ来るだろう。

 すかさず、アースがリングインしてくる、俺の背中をストンピング。技は途中でほどかれた。

 レックスはまだ場外で転がっている。パワーボムをまともに喰らったのだから、タフなレックスとはいえもう少し時間かかるな。

 俺は、アースにマスクを引っ張られて立ち上がらされた。

 バチーーーン

 アースの逆水平チョップが俺の胸に直撃する。

「フン」

 アースはもう一度、力を込める。

 バチーーーーン

 二発目は特に良い音が鳴った気がした。

「ガイア、挟むぞ」

 アースはまた短く指示を出す。おそらく、ラリアットで挟まれる。

「おお」

 俺が極めた右腕をかばいながら、立ち上がるガイア。

 リング中央でフラフラ立つ俺に、二人はすれ違うように対角のロープに走り、その反動で戻ってきた所で、俺の首をダブルのラリアットで挟み込もとうした。

 その刹那。

 俺はしゃがんだ。同士討ちだ。お互いがお互いの右腕のラリアットを喰らった。二人はダメージからリング内をフラフラと歩いている。

 まずは、アースから。

 俺は、生かしておくと面倒なアースを後ろから抱えると、ジャーマンスープレックスで放り投げた。アースがそのまま場外へエスケープするのを見届けると、残りの力任せのガイアを料理しにかかった。

 ジャーマンをした事でガイアとの距離ができた事が幸いした。そのまま、ガイアへ一直線で走ると、くるりと体を回転させると、ニールキックの右足でガイアの頭部を襲った。

 同時に、自陣のコーナーからレックスが飛び出して来るのがわかった。

 この人は本当にタフだ。それに良く気がつく。

 レックスは、そのまリングを横切るとトップロープとセカンドロープの間を通り抜けて、場外で立ち上がったアースに向けて、ダイブ攻撃を敢行した。

 ジュラロケットだったであろうか。ネーミングセンスはずいぶんと気がきいていない。

 技を行われている時間と、客の余韻が終わるのを待って、俺はガイアを立ち上がらせる。右手で左足を掬い上げ、左手で頭を抱えるキャプチュードの体勢をとった。気配で後ろを見る。技が着地するのはリング中央。次の動きがいくつか頭の中で候補が出てきては消える。

「ぬがぬがぬがぬが」

 ガイアが空いている右手で俺の背中を叩く。

 まだ、抵抗する気かよ。

 技を解くと、左、右とローキックを放つ。

 負けじと、ガイアも左足の裏を使って俺を蹴って来る。

 俺はその足を捕まえると、もう一度仕切り直しで、キャプチュードの体勢を取ると、今度は間髪入れずに後ろに放り投げた。

 放り投げた勢いで、場外のレックスとガイアを見る。レックスがアースを抱えあげている所だった。しっかり釘付けにしているようだ。それを確認するとガイアの腕を極めにかかる。腕がらみ、もしくはキムラロックという柔道の技を仕掛けた。これも先ほどの脇固めと同じ肩を極める技で、瞬時に極まるポイントがある。両腕でガイアの右腕を絡めてロックすると、その腕をガイアの背中側へと動かす。

「グガガガガ」

 よくわからない声をガイアが出す。やはり、本当に痛い時はリアクションが違う。

 もう一度、場外へと目を向ける。アースがリングに戻ろうとしているが、上がれていない。背中側にレックスが食らいついて、アースの行動を妨害している。

 それを確認して、俺はガイアの腕をより捻り上げる。

「アガがガガガがが」

 ガイアはもっとよくわからない声を出すと、左手でリングをバンバンと叩いた。

「ギブアーーーーップ。ストーーーップ、ウルフストーップ」

 レフェリーが試合を止めた。

◯ウルフ、レックス組VSアース、●ガイア組 (十二分三十一秒 ギブアップ)

 

レックスがやれやれと、リングに上って来る。二人でレフェリーに手を挙げられて、勝ち名乗りを上げた。

「早く助けに来いよ」

 リングの端で、ガイアはロープ越しに場外のアースに向かって声を荒げた。

 珍しい事だ。常に、ガイアはアースに対して、先輩以上の尊敬の念を持って接していた。今までのそれとは考えられないような行動だ。

「お前の動きが悪いからだ。不器用な技ばっかりしやがってよ!」

 今日は随分とガイアが突っかかる。

「何だと!」

 アースも呼応するようにリングへと上がって来た。

「へッ」

 ガイアが不敵に笑う。

 おいおいおい、俺等が勝ったというのに、リングを荒らすなよ。

 アースは、ロープの反動を利用して、得意のラリアットをガイアにお見舞いしようとした時だった。

 ガイアが逆にエルボーを喉元にぶちかまし、カウンターでアースをダウンさせた。そして、アースの髪の毛を掴んで無理やり立ち上がらせると、右手を水平に動かし、何か技を行うというアピールした。

 場内、固唾を飲んでガイアの動きを見ている。

 だから、俺達が勝ったんだよ。

 ガイアの左肩にアースをうつ伏せに担ぎ上げた。アースはかなり体重がある選手だ。それを、軽々と担ぎ上げるだけのパワーがあるのは流石だ。その場でクルクルまわり始めた。不意に止まると、ガイア自身が跳ねると担がれたアースは空に放り出された。ガイアはその頭部を右手で抑え、左手はそのまま胴体を抱え、自ら尻もちをつくようにして、アースを頭からマットに落とした。

 ダンデライオン、華翔の必殺技、フラワーファイトシリーズの超主力技だ。

「きゃああああああ」

 場内からは悲鳴が聞こえる。華のフラワーファイトシリーズの技を、この薄汚いガイアがやったことが、華ファンには屈辱に映ったのだろう。

 どうして? 俺の感想はそれだった。別に、パワーボムでもいいのにな。

「フン、フン」

 倒れているアースを二度ストンピングで痛めつけると、ガイアは俺達を睨みながらリングを降りた。

 俺とレックスは目を合わし、仕方無しにアースに肩を貸し、リングを降りた。

「すまんな」

 耳元でアースは俺に謝ってきた。

「別に」

 俺はどうでも良かったので、前を見据えて退場しようとした。

 帰りの花道には、唯理ちゃんが小さく手を振っていた。

 数ヶ月前にマスクを脱ぎ、素顔で練習場からコンビニに行こうとした所を呼び止められた。そろそろ、夏がやって来そうな雰囲気の午後だった。


「ウルフさんですよね。あ、今は服柵さんかぁ」

 道端で、それも素顔で声をかけられる事はほとんどない。よっぽどプロレス好き、フューリアスプロレス好き、ウルフ・ド・ローンリ好きじゃないとできない。そういう方程式が俺の中に組み立てられていた。昔のマスクマンは素顔や本名は公表していなかったが、最近はそういうことも無く、割りとオープンだった。

 両手を胸の前に組み、ベレー帽を被った、目が細めの子狐のような佇まいは、俺には彼女全体を柔らかなオーラが包んでいるように見えた。確かにその時、時間は止まった。そうなんだ。

「ウルフ選手のUWFリスペクトの戦い方好きです。頑張ってください」

 カバンから手帳を出すと、このページにサインをお願いしますと言われた。

 言われても無いが、写真はマスクを被って無いので、断った。そして喜んで、サインをした。力が入り過ぎて、借りたボールペンのインクが随分と滲んだ。

 唯理ちゃんは笑っていた。

 それから、会場にも何度も足を運んでくれているのを見た。

 もちろん、俺以外の華やカオルの試合を食い入るように見ているのも確認している。俺だけのファンという訳では無さそうだと言うことも知っている。俺のマスクが、素顔の実力という意味で、かなりイケメンでは無いという事もわかっている。そうでなければ、マスクなんて会社から被れなんて言われない。

 それでも、自分の気持ちというのはその日から唯理ちゃんに向いているのは間違い無い。


 俺は、うんうん、と唯理ちゃんの方に二度うなずき、できるだけ気持ちがある事を伝えたつもりだ。

 勝ったし、唯理ちゃんに手も振ってもらったし気分良く控室に帰った。

 そこへ若手が荷物を持って控室に入ってくる。

「どうした?」

 レックスが尋ねる。

「あ、アースさんのです。今日からこっちだって、アルクホールの人達が」

「え?」

「え?」

「あ?」

 俺とレックスは「え?」でアースは「あ?」だった。

「どういうこと?」

 俺の質問に、若手は

「ダストさんが、今のでアースはウルフ群な、という話でした」

「まじか・・・」

 これは、アースの言葉。何度も言うが、こんな風貌でアルクホールの参謀や軍師のようなポジションだった男が、ほっぽりだされるとはよっぽどの事だった。

「なんかしたの?」

 俺の質問に、アースは首をひねる。

「俺はジュースタイスだったからよくわからないが、ダストさんの機嫌をそこねるような事したんじゃないのか?」

 レックスの質問にも、腕を組んでまま、虚空を見つめるばかり。アースは心当たりは無さそうだ。

 ガチャリ

 誰か来たと、俺達は入口を見る。そこには、社長が渋い顔で立っていた。

「ウルフ、お前を首にしたいのに仲間増やすな」

 悪態だ。本音を言い過ぎだ。

「拾ったんですよ。このでかいの」

 俺は視線をアースに向ける。

「でも、飛び技やらないとお前は首だからな。はは。いくら仲間増やしても意味は無いぞ。いろいろ理由つけてやめさせるからな。人気無いんだから、いいな」

 バタン。

 返事も何も求めないまま、言いたい事だけ言うと、さっさと控室を出ていった。

「飛び技って何?あとお前、クビ寸前なの? なんだ、しまったな」

 アースは汗を吹き出しながら、荷物を整理して着替えようとしている。

「俺のスタイルがジュニアには合わないので、飛べって言われてて。次のシリーズで飛び技しないとクビって言われている」

 ちょうど俺はマスクを脱ぎ終えた所だ。

「あと、一人ユニットだと扱いづらいから、チームメイトを増やさないと首って言われてて。レックスがチームに入って無かったら、クビになってた」

 マスクをカバンに静かにしまった。

「お前、崖っぷちなんだな」

 レックスが素顔をこちらにむける。相変わらず、トカゲ顔だな。

「社長と、同業のレスラーとの評価は違うんだな」

 アースは脇を上げて、汚い体からあふれる汗を拭いている。

「ああ、それはそうだな」

 レックスも、Tシャツを準備しながら、同調する。

「どういうこと?」

 どうも、俺だけよくわかっていない。

「お前の評価は割と高い」

 アースはこちらを見ない。

「そだな、唯一無二のスタイル。しっかりとしたレスリング。試合しても面白いし、一緒に組んで見ても思うな」

 そうなの? 俺は随分と気恥ずかしくなってきた。

「え、じゃあ、あの」

「それでも、クビ寸前なら仕方ない」

 レックスはTシャツを着て、着替えは終盤を迎えている。

「俺もダストさんに頭下げて、戻してもらうだけだ」

 アースもようやく汚い体の汗拭きが終わったようだ。

「ちょ、ちょっと、まてよ、もう少しウルフ群・・・」

「とにかく、飛び技練習しろよ」

 レックスは簡易のマスクを被ると、控室から出ようしていた。

「それか、就職活動」

 アースもTシャツを着ると、レックスに続いて退出の準備をしていた。

「俺、高所恐怖症で・・・」

「知らない」

 レックスとアースはユニゾンで、返事すると、バタンと音がしてドアが閉まった。部屋は一人になった。また一人だ。

 飛び技かぁ。確かにそうなのかもしれないが。

 想像しただけで、足が震えていた。あの時の事を思い出したのだ

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