遥かなるムーンサルト

新堂路務

トレーニング


 足が震える。

 本当に震えるんだな。こうやって誰もいない道場で、コーナーポストに登る。ブルブルしてる。

 そして、別人格のように動きが止まらない。

 止まれ! 止まれ! 止まれ! じゃないと次の段階へは行けない。

 なおさら、その次の、その次の、その次の段階なんて行けやしない。

 俺は両膝を叱った。

 しかし、震えが収まる気配は無い。

 クソっ。

 悪態をつくと、俺はコーナーポストから下りた。念のために敷かれたマット。恨めしそうにその青さを見つめた。

 そんなマットに背を向けると、膝を少し曲げて両手を大きく振った。

 少しして、俺の腹はその青いマットに腹打ちした。なんとか回転したようだ。これくらいならバク宙できるようになった。それだから、なおさら、コーナーポストの高さが憎い。

 いつまでもマットと戯れる気は無い。俺は立ち上がり、マットを片付けるとサンドバックへと向かった。

 こっちのほうがいい。

 そう、自分に言い聞かせた。

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