第5話 億ション

 一郎が住んでいるマンションは東京都の中心から外れた位置にある。

 具体的に言うと東京都町田市から八王子市にまたがる場所あたりだ。


 最寄りの駅は小田急唐木田からきだ駅か小田急多摩たまセンター、もしくは京王多摩センター駅。

 あの有名なタヌキたちが主人公のアニメの舞台にもなっているあたりを想像してもらうと分かりやすいと思う。


 そんな地域の他から少しだけはなれた場所。

 眼下がんかに多摩モノレール線がのぞめる位置にそのマンションは存在した。


 全高約60mの20階建て。

 部屋は全て2LDK。


 敷地しきち内にファミリー用の公園を完備かんび

 マンション居住者専用のプールやサウナも作られており、コンシュルジュも常駐じょうちゅうしているためセキュリティも万全。


 小高い丘の上に作られているため、部屋からの展望てんぼうは言わずもがな。

 専用の立体駐車場、近所にコンビニと、いたれりくせりな好条件。


 お値段は低階層ていかいそうでも月額30万円と割高わりだかな、富裕層ふゆうそう向けの高級マンション。

 住んでいるだけでステータスになりえる、そんな物件を目指して作られたところの最上階に彼は住んでいる。

 条件付きだがもちろんタダで。


「わぁ……すっごい良いところ!」

「だろ?」


「ここの最上階だっけ? 普通の学生どころか社会人にだって住める部屋じゃなくない?」

「まあな。親がオーナーの特権とっけんだよ」


「公園どころかプールもサウナもあるじゃん! こんなところに一人暮らしとか超セレブ! 女友達にエッチな格好かっこうさせて車の洗車とかやらせてそう!」


「きみ、俺のことバカだと思ってない? 時々話題になる海外セレブたちのバカボンと同列に思ってない?」


「全然そんなこと思ってないって。あ、っていうかさ、そういえば田中くんって女友達いなかったよね。そんなことありえないか。あははははは(笑)」


「家賃の割引七割じゃなくて五割にするよ?」

「飲み屋で言われたお返しですぅ。まあ、五割引でも破格だけどね」


 ここに住めるんだぁ……とつぶやく幽子。

 取り付けられた最新型のエレベーターのドアが5秒もたずに開くと、「早く早く♪」と一郎をかす。

 一郎は担当のコンシュルジュからマスターキーを受け取り彼女の後に続いた。


「何階にする?」

「19階! 月二万七千円でいいなら、できるだけ高い所に住みたいからね!」

「はいよ、了解」


 ワクワクしながら到着とうちゃくを待つ幽子に背を向けながら、一郎はニヤリとほくそ笑んだ。


 ――そのワクワクがあと何分もつかな?

 ――まあ、経験上あと30分ってところか。


 そんな風に思っているうちに19階にエレベーターが止まった。

 2人はエレベーターを降りると角部屋に向かった。

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