ビル、朽ちぬ。

沼津平成

第1話 丫しき 戦略 【あしき・せんりゃく】

株式会社フカダ商社日豊路支部かぶしきがいしゃふかだしょうしゃにっぽうろ支部なんて、覚えきれねえよな……」


 と、つぶやいた諒平りょうへいの右肩を、天草あまくさが小突いた。「サンパウロだよ」

 大入諒平おおいりりょうへい、三十二歳。独身。ブラック企業に勤めて、はや三年。二十九歳までフリーター。【とう大】——”とうがん大”、卒。

 これが諒平の基本情報パーソナルデータだ。207X年、人類は履歴書・戸籍など、さまざまな管理をAIに任せるようになっていた。

 今日のフライトだって、諒平は3756C番、天草は3831F番のチケットをズボンにポケットに入れている。プラスチックで作られた紙は、擦り傷もひどくなっている。

 諒平と天草 悟美あまくさ さとみは幼馴染である。聡美は、「いい名前じゃない?」と笑った。

 諒平は、この問いを問われるといつも「そうだね……」と返す。「『お前、男なのに』」という時代からもう一世紀経っているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ビル、朽ちぬ。 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画