第52話 責任ある立場

「リリアのやつ、一体どこに行ったんだ?」



 リリアのことを追いかけてはみたものの、どこに行ったのか見当がつかない。

 学生寮に戻ると言っていたけど、あの落ち込んだ姿を見た後ではとてもじゃないが自分の部屋に戻ったとは思えなかった。



「リリアのことだから別の場所にいるとは思うんだけど、一体どこにいるんだろう?」



 彼女は普段俺の家か学生寮の自室しか往復してない。なので行く場所は限られているはずだ。

 だからこの近くにいるはずなんだけど、彼女がいる場所に心当たりがなかった。



「あっ!? 1つだけ思い当たる場所があった!!」



 その場所は俺がリリアのことをたまたま見かけた場所だ。

 彼女がいる可能性は限りなく薄いけど、行ってみる価値はあるだろう。

 俺は一縷の望みにかけ、彼女がいると思われる場所へ向かった。



「やっぱりここにいたか!」


「クリスお兄ちゃん!?」


「学生寮には戻っていないと思っていたから、いつも朝練をしている場所に来てみたけど。どうやら俺の予想は当たっていたみたいだな」



 俺が向かった場所は学生寮の裏にある茂みの中である。

 そこは毎朝リリアが自主練習をしていた場所で、俺と偶然会った場所だ。




「お兄ちゃんは何であたしがここにいると思ったの?」


「なんとなくだよ」


「そうなの?」


「あぁ。リリアが行きそうな場所を考えていたら、この場所に行きついたんだ」



 なにはともあれリリアのことを無事にみつけることが出来てほっとした。

 ここにいなければ、学生寮に行っていただろう。

 それぐらい俺は彼女の居場所がわからず追い込まれていた。



「お兄ちゃんは何をしに来たの?」


「えっ!?」


「あたしのことを探してたなら、何か用事があるんじゃないの?」


「まぁ、一応な」



 居ても立っても居られずリリアの所に来てみたけど、彼女に何を伝えればいいんだろう。

 今日の摸擬戦の話をしても、彼女の傷口に塩を塗ってしまう気がする。



「(こういう時にアレンのような話術があればいいんだけどな)」



 あのぐらい話せれば俺もリリアのことを安心させられるはずだ。

 だが俺にはアレンのような話術はない。なのでリリアを安心させられる材料が何もなかった。



「さっきから黙ってるけど、お兄ちゃんの用件って何?」


「実は今日の合同授業の件だけど‥‥‥すまない」


「えっ!? 何でお兄ちゃんが謝るの!?」


「俺の指導が行き届いてないせいでリリアに悲しい思いをさせた。今日の試合結果は全て俺のせいだ」



 今まで俺は3人の基礎技術が高いということで、騎士団の新人に教えていた基礎的な訓練しかしてこなかった。

 本来ならもっと1対1になった時の戦闘方法を教えるべきだったのに。それを教えなかったのは俺の責任だ。



「お兄ちゃんが謝らないでよ!? 今日の結果はあたしが不甲斐ないせいだったんだから気にしないで!?」


「いや、全てはリリアの指導に当たった俺の責任だ。本当に申し訳ない!!」


「違うよ!? 今日はあたしの練習が足りなかっただけなんだから!? むしろあたしこそお兄ちゃんに恥をかかせてしまってごめんなさい!!」



 いつの間にか俺とリリアは頭を下げ合っている。

 その様子がなんだかおかしくて、いつの間にか彼女と顔を見合わせていた。



「ぷっ、あはははははははは!」


「何で笑うんだよ?」


「だってお互いに謝りあってるのが、ものすごく面白くてさ」


「そんなに面白いか?」


「うん! あたしお兄ちゃんが人に謝ってる所なんて初めて見た!」


「リリアに見せるのは初めてかもしれないけど、俺は頻繁に頭を下げてるよ」


「嘘!?」


「本当だよ。騎士団に入ってから、色々な所に頭を下げまくってる」


「なんか意外!? 騎士団長っていうから、ものすごく偉い人だと思ってた」


「それはリリアの誤解だよ。騎士団長はあくまで騎士団の責任者というだけで、別に偉いわけではない。だから各所で部下が迷惑をかけたら、その責任を取るために頭を下げて周るんだ」



 騎士団に入ってからというもの、他の部署の人達に何度頭を下げたかわからない。

 もちろん間違っている事に対しては毅然とした対応をしなければいけないけど、明らかにこちらが間違っていたらちゃんと謝らないとダメだ。

 俺はそのことを騎士団の中で学んだ。



「お兄ちゃんみたいな人でも人に頭を下げることはあるんだね」


「当たり前だろう。自分が悪いと思ったら人に謝るのは基本中の基本だ」


「あたしもそう思う! だから今度の摸擬戦では、お兄ちゃんが責任を感じないように頑張るね!」



 理由はわからないけど、さっきよりもリリアは元気を取り戻したように見える。

 まだ少しだけ落ち込んでいるように見えるけど、俺と話したことで少しは立ち直ってくれたようだ。



「お兄ちゃん」


「何だ?」


「いつもありがとう。あたしはお兄ちゃんのこと大好きだよ!」


「そういう言葉は本命の男が出来たら言ってくれ。勘違いするだろう」


「勘違いしてくれてもいいのに‥‥‥‥‥」



 リリアのいうことを本気にしてはいけない。俺は自分の心にそう戒める。

 確かにリリアは愛嬌があって可愛し料理も出来るので、彼女の彼氏になる人は幸せになるだろう。出来ることなら俺だってリリアの彼氏になってみたい。

 だけど俺達は年齢だって離れてるし、何より教師と生徒という立場だ。

 教師が生徒に手を出してはいけないので、その気持ちをぐっと堪えた。



「それじゃあそろそろ戻ろう。ノエルやレイラが心配してるよ」


「わかった。そしたら更衣室でシャワーを浴びてくるね。さすがのこの格好のまま外に行ったら風邪を引いちゃうから」


「それなら途中まで送って行くよ」


「ありがとう! そしたらお願いします!」



 それから俺はリリアを更衣室まで送り届けたあと部屋へと戻る。

 部屋の中で汗を流した俺はノエルやレイラと共にリリアのことを待ち、4人で夕食の買い出しへと向かった。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

次話はクリスとリリアの過去回想の続きを投稿します。

魔王軍の四天王から逃げた幼いリリアがクリスを助けるためにどのような行動を取るのか。続きを楽しみにしてて下さい。


最後になりますがこの作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや★★★の評価、応援をよろしくお願いします。


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