第22話「身柄交渉」

 ガシャーン!!



「なんでよぉぉぉおお!!」

「わーっはっはっはっは!」


 ──ざまぁ!


「ざまぁ!!」

「むっきー!! 二回いうなし!! つーか、出せ!! ここから出せえっぇええ!」


 ガンガンガンッ!!


 動物園のゴリラのように、檻の中でジタバタ暴れるレイラ。

 そう、ここはギルドの地下──拘置所だ。……動物園ともいうな。


「って、誰がゴリラじゃぁぁああ!──ごりら知らんけど」

「お前みたいな動物のことだよ」


 あはは似合ってるぅ!!


「むがぁっぁあ!! コイツ、マジむかつくぅぅう! わ、わ、私がいなきゃ、アンタ今頃橋の下でバーベキューにされてたんだからね!! 感謝こそされ、投獄されるいわれはないわよ!!」


 ガキーン!


「人斬りゴリラに言われても説得力ねーよ」


 な~にがバーベキューだ。

 汚物は消毒の間違いだろ────あ、そういや、アイツら死んだのかな?


「さ、さぁ? 死体も上がっていませんし、にゃ──まぁあの地区ですからにゃー」


 そう言うのは憔悴しきったメリザさん。


 なんでも減給処分ですんだとのこと──だけど、かわりにギルドマスターにはコ~ッテリ絞られたらしい。


「それで? どうしたんですにゃ? もう、マイトさんの疑いはなくなりましたし──晴れて無罪放免ですけどにゃぁ。こうして訴えが認められてレイラさんは捕まったわけですしぃ……にゃ」


 じとぉ。


「……いや、なんでそんな目で見られなきゃならないんです? 無罪もなにも、なんもしてませんから──つーか、あんたが最初に地図買った時に教えてくれればよかったんじゃ?」

「無茶言わないでほしいにゃ。他の冒険者が見てる前で、アイツらが狙ってるにゃー、なんて言えるわけないにゃ──」


 まぁ、そりゃそうかもしれんけどさー。

 色々やりようはあるだろうに、ったく──。


「そんで面会費・・・まで払ってどうしたんですにゃ?……あ、いくら被害者だからって、エッチなことできないにゃ」

「しねーよ!!」


 誰がするか!!

 こんなクソガキあいてに!!


「だれがクソガキかぁぁあ! アタシだって脱いだら結構ね」

「いや、脱いでも貧相だったぞ!」


 むがー!!


「──ねぇ、メリザぁ、ちょっと鍵開けて、コイツ絞めるから」

「わかったにゃ」


 ──おう。


「って、わかるな!!」

「冗談ニャー」


 こっわ!

 嘘つけ、若干本気だっただろ!! 目ぇ笑ってないんですけど、こっわ!!


「それで、どうしたんですんにゃ?……私も暇じゃないにゃー」

「ふん、ちょっと確認事項があってな──」


 目配せすると、メリザさんは何かを察したのかため息をついて、少し離れた位置に。

 その隙にマイトは檻に近づくと、レイラを見下ろす。


「……な、なによ!」

「警戒すんなって──ちょっと、な」


 そう言って、そっと懐から取り出したのは「コルトネィビィ」──。


「ひっ!! ま、まさかそれで私にエッチなこと──」

「しねーよ!! しっつけぇな!!」


 どうやってすんねん!

 逆に聞きたいわ────っていうか、この怯え方。


(……やっぱそうだわな。覚えてるよな)


 ガシガシッ。


 頭を掻きむしるマイト。

 このレイラの反応からするに、やはりマイトの一部始終を見ていたのは間違いない──。いっそワンチャン、うやむやで忘れてくれてればそれで・・よかったのが。どうもそうもいかないらしい。


(くそっ、今思えばこれを一度奪われた後で、回収して使ったのはまずかったな)


 ……さすがに、これ・・まで魔法だとの誤魔化しは効かないだろう。

 どう見ても、道具だし。


「まいったな……」

 銃をそっと仕舞いつつ頭を抱えるマイト──。


 ……実は、取り調べから解放された後、念のため『魔塔主』に連絡。

 銃について、思わず人に使ってしまったことを正直に明かしたのだ──。


 すると、

 それ自体は特に咎められなかったのだが、驚いたのは、それよりその後の彼女の発言だ。


 ──つまり、



   『なんと──もう、人に見られたのか? あ、いや。銃のことではないぞ? お主の「すきる」のことよ』



 そう言って画面の先で眉間を寄せる『魔塔主』。

 だらしない恰好で、足先でふとももの内側をポリポリ──見えるからやめい、色気もないくせに。



   『聞こえとるぞー。それで、銃のことは別にどうでもええ──召喚者が知識を持ち込んでおるでの、今更隠したところでどうにもなるまい』



 どうやら、銃そのものはマイトのくれてやった者なので煮るなり焼くなり好きにしろとのこと──まぁ再現できているのはあまり公にするものでもないらしいが、それよりも、マイトののスキルを見られたことの方がマズイらしい。


 マイトとしては、あれは魔法──ということで誤魔化せると思っていたのだが……。



   『アッホじゃのー。そりゃ、盗賊だのモンスター相手に使って──村人程度に見られたなら何とでもなろうが、相手はギルドにBランク冒険者じゃろ? そんなもんすぐに召喚者のスキルじゃと勘づく。……そも、お主はその女子おなごを傷モノにしておる──。いくら誤魔化したつもりでも本格的な調査が入ったらバレるぞ』



 ──だから言い方ぁ。



 好きで怪我させたたんじゃねーよ……。

 とはいえ、もっともすぎるその指摘を聞いて、今更ながら青ざめたマイト。

 考えてみればあたり前だ。向こうだって見た目でマイトを召喚者だと気付いていたし、マイト自身それをとくに否定もしなかった──そして、Eランクと宣言しつつも、なんだかんだで、あの場・・・を切り抜けている。


 そんなの、なにかあったと思うわな。

 ……そして、そんなもん召喚者のスキルに決まってるわな!!


 あーくっそ!


 あのギルド憲兵がボケだっただけで、レイラの調査が本格的に進めば、マイトのことは多分……確実にバレる。


 そして、

 銃の存在も、スキルで攻撃したことも──。


 いや、それ自体は正当防衛なので別に問題ないだろうが、

 その先が問題だ──。


 ギルドがマイトのことをどう判断するか。


 ……さすがに、あの段階でダンジョンまで破壊できるのはわからないだろうが、スキルのことには興味を持つに違いない。武器も同様。

 いや、解らないと決めつけるのも早計か。

 ギルドなら、ステータスを除くアイテムくらい持っているだろうし、

 最悪の場合──万が一の可能性ではあるがグラシアス・フォートでの爆音騒動と関連付ける者がいないとも限らない。


 ──その場合は最悪。


 なにせ、グラシアス・フォートではダンジョン『微風の塔』が倒壊したことは大騒ぎになっていたからな。それをやったのがマイトだとバレたらもうどうなることやら……。

 ギルドだけで収まればいいが、ギルドはこう見えて情報がザルだからなー。

 レイラやマイトへの取り調べの様子からも分かるように、それが専門ではないため、あまり情報統制に関心を払っているようにも見えない。

 召喚者の声で多少は個人情報の概念もあるのだろうが、個人情報の重要性ば認識されていたのも、元の世界でも実は割と最近──。


 平成初期のころなんて、

 電話帳にびっしり個人情報がのってたし、インターネットでHPを作るのが流行り出したころは、家族の情報までずらずら書かれていたらしい──。


 つまり、ギルドの個人情報管理はあてにならない……。

 ということは──。



    『……お主、割と詰んでおるぞ』



 ですよねー!!


 魔塔主の指摘に、さすがにマイトも頭を抱える羽目になる。

 それはもう、 


 NO!!

 OH NO!! の~~~~う!! とその辺にガンガンと叩きつけるほどに!


(──クっソー!)


 な~んでこんなに次々と詰むねん。

 詰みすぎでしょ!! クソゲーか!


 せっかくスキルの使い方が分かって応用の仕方も見当がついて、これからって時にもう!


(それもこれも──……)


   めらぁぁあ……!


 一見して闘志の様でいて、どこかねちょっとした瘴気を纏うマイトくん。

 それを目の当たりにしたレイラが檻の中で一歩下がる。


「な、なによ!! や、やる気──! はっ、まさか、」

それ・・はない!!」


 ──そうだ。全部、この色ボケアホ女のせいだ!!!


 だから、

 これをこうして、こうして──こうだ!!



   ばさっ!!



「ひぃ!!…………って、なによ、それ?」

「ちょ、マイトさん! 何を出してるにゃ!! そう言うのはさすがに見過ごせ──にゃ?」


 いや、何も出しとらんがな!!

 ナニを出すと思ってんだよ、ったく。


 そして、マイトが突き出したモノ・・・・・・・を見て目を丸くするレイラ。


「え、えーっと……」

「ふん。文字くらいは読めるんだろ?……アンタこのままだと確実に有罪らしいな? しかも、それだけじゃなく詳しく調べられるとまずいんだって?」


 ──どきっ!!


 あからさまに顔色を変えたレイラ──どうやら図星だったのかダラダラ汗を流し顔顔面蒼白。


 どうやら本当にあたり・・・らしい──さすが魔塔主。

 脅しのネタと交渉の仕方をよく知ってるわー。


「そんで? これからどうする? それら諸々が換算されると投獄十年以上──下手すりゃ、島流しか痛くない処刑・・・・・・の可能性もあるんだって?」


 ドッキーン!


「な、なんでそれを……!」

 この世の終わりみたい顔をしたレイラが、まるで魔王にでも遭遇したかのように檻の隅で怯えて縮こまる。


(……いや、いや、効きすぎでしょ)


 つーか、魔塔主の受け売りを話してみたけど、

 痛くない処刑・・・・・・ってなんだよ、痛くない処刑ってよー!


 そも、痛い処刑もあるのかよ?!……こっわ!!


「クッ! な、ななんなななによ! そ、それがどうしたってのよ!!」


 うーわ、『ザ・強がり』やんけ。

 足、ガクガク震えてとるやん。


 ……まぁ、職業『盗賊』だもんなー。

 多分、色々やったりやらかしたりしてるんだろうなー。


 なにせ戦闘職に位置する盗賊は、火力よりもスピードタイプだ。

 冒険者としては、斥候や罠解除などのスキルに優れ、パーティではなくてはならない存在ともいえる。

 それだけ聞けば結構花形職にもみえるが──……半面、火力が足りず、逆にいえば冒険者のようなパーティに所属していなければさほど強くもないともいえる。


 そして、当然、単独でモンスターを倒すには心もとなく、探索も覚束ない。


 そのため盗賊職は、基本的にパーティを組むもので、多人数と行動することで初めて真価を発揮するといわれる。


 しかし、もし誰とも組んでいないソロの冒険者がいるとすれば──……。



   『まぁ、十中八九、普段も犯罪行為に手を染めておるよ──空き巣なんぞ日常的にやっとるだろうな』



 ……だろうねー。


 だから、この反応も納得。

 それに先の事件でマイトさんの持ち物パクるのめっちゃ手馴れてたもんな──そんでもって楽しそうだったし、他にも『鉄の牙』とチンピラが争ってるとき、全~然気付かれてなかったもんあー。


 おそらく、なんかこう……気配を消す系のスキルを持っているのだろう。



 ──で、ソロと来ました。



 おまけに、そこそこ凄腕っぽいけど、腕っぷし自体は多分微妙。

 ぶっちゃけ滅茶苦茶強いなら、マイトを助けるつもりであの場の全員を制圧していただろう。


 つまり、状況的にみてもレイラの奴は、魔塔主に言う通りになんらかの犯罪を日常的に行っているのだろう。

 あるいは、ギルドのランクもその過程で手に入れたものかもしれない。


 つまり叩けば埃の出る犯罪者

 いや、グレー寄りのギリギリ犯罪者じゃないライン


 ……なるほど。


 たしかに、採取系や探索、物探し系なんかは得意そうだもんな──。

 そりゃこっそり現地を見てくるだけや、人様の物をパクッて回収するだけならねー。Bランクにもなろうというものだ。


「ふん、強がんなよ。……ほれ、わざわざお前のために用意してきたんだよ──」


 そう、さっきからマイトが今手にいしてるナニ──じゃなくては、ギルドの正式書面──。


 その名も……。


「う、うそ……。どうしてアンタが」

「おーよ、『被害届の取下書』と、『嘆願書』──それに、保釈金の小切手だ」

 ひらひらひらっ。

「ん、んなぁっぁああああああああああ! な、なななな、なんで──」



 なんでだぁ?



「──決まってんだろ」


 ニヤリ。


「はっ、まさか──えっちな……、」

「ッちっげーわ、アホ!! なんでそっちに持っていくねん、むしろ、されたいのか!」


 しねーけどな!!


「……あーもう。その辺の事情はおいおい話す、でどうする? 条件を飲むならコイツを提出してやる──つまり、」



 ジロリ。



「……このまま実刑くらうか、俺の言うこと聞いて保釈されるかの二択だ。どーする?」

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