第36話 帝国帰り、いつもの店
「それで、ルーナを迎えに来たお屋敷の人たちってのがグラサンスーツの竜人族でさあ……ガチビビったわ」
「竜人族って帝国軍で1番強い部隊の人たちでしょ~? さすが貴族様の使用人だね~」
激動のエビルムーン帝国遠征イベントを終えてサンブレイヴ聖国に帰還したオレは、流石に疲労が溜まっていたということもあって、仕事の時以外はしばらく家で大人しくしていた。
いやまあ、義妹のフランキスカがよく構いにきたので遊んでやったりはしたんだが。
今は仕事終わりの休日前。
いつもの『喫茶ハロゥ』に寄って、いつものハチェット相手に戦果報告をしていた。
「それにしても、エビルムーン帝国の公認身分証まで手に入れちゃったんだ。すごいねルイソンくん~あ、今はルイだっけ?」
「オレは今も昔もルイソンだよ」
カーミラの件でエビルムーン帝国に入る為に作ってもらった偽名の身分証。
偽名なんだけど帝国軍公認の特殊身分証という、よく分からない代物になっている。
「いやあ、昼過ぎに帝国から帰って来るって聞いてたのに、まさかの一泊して夜遅くに帰って来るんだもん、しかもその日にナンパした未成年の女の子とお泊りって……いつの間にそんなチャラ男になっちゃったんだい? お母さんは悲しいよ」
「誰がお母さんか。話を誇張しすぎだろ」
「でも未成年の女の子とお泊りはしたんでしょ?」
「ま、漫喫で寝落ちしただけだって……」
漫喫のカップルシートで一緒に飯食って漫画読んで寝落ちしただけ。
これってセーフですよね?
「これがオレからの誕生日プレゼントさっ……で、やることやってきたんでしょ。10か月後が楽しみだねえ」
「孕ませてねえよ。さすがにえぐすぎるだろ」
ハチェットのやつ、見た目は小柄で可愛らしいのに酔っぱらうとすぐこれだからな……伊達にスラム街の喫茶店で潰れずにやってきているだけはある。
「でもそのルーナちゃんって貴族の女の子、竜人族じゃないんでしょ?」
「ああ。なんだろうな、見たことない亜人、いや魔人族だったな……リトルデーモン族に近いっちゃ近かったから、身体の一部が特殊な形態をしている家系なのか、はたまた先祖返りとかなのか……」
しかも迎えに来た使用人がこの世界で最強の亜人と言われている竜人族。
相対した感じ、かなりの実力者だと思う。
下手したら帝国軍の十三邪将に匹敵するレベルかもしれない。
「カーミラちゃんとチュ~した翌朝にルーナちゃんと添い寝かあ……やっぱチャラ男になってない? ルイソンく~ん」
「カ、カーミラとのは演戯だから……」
さすがにディープキスをしたことまでは言えなかった。
いやまあ、キスしたことも言う必要なかったかもしれないけど。
「カーミラちゃんを貴族の悪いお坊ちゃんから助けて、ルーナちゃんも悪いオークのチンピラから助けて、しかも誕生日プレゼントまで買ってあげたんだよね。ルイソンくん、さすがにそれはもう王子様だよ。それならまあ、色々とお礼にムフフなことをしてもらっていてもおかしくないか~」
「いやおかしいだろ。ナンパ男から助けて自分も同じような事やってたら」
そんなことを言いながらハチェットの方を振り向くと、彼女の胸元にきらりと光るクローバーのペンダントが目に入る。
「……それ、まだ付けてくれてたんだな」
「ん~? あ、このペンダント? これお気に入りなんだよね~」
オレがまだスラムで暮らしていた子供の頃、ハチェットの誕生日にスラムの闇市で買ってあげたものだ。
元は四つ葉のクローバーの形をしていたものが、ひとつ欠けて3.5つ葉くらいになってしまっている。
ちなみに買ったときから欠けていた。さすが闇市クオリティー。
「そういやハチェット、もう少しで誕生日だったな。なにか欲しい物あるか?」
「欲しい物~? うむむ……」
ペンダントも結構かすれて古くなってきてるみたいだし、ルーナの時みたいに店に連れてって選んでもらおうか。
「あ、喫茶店で使う新しい食器が欲しいかな~。アフタヌーンティー用の三段重ねのやつ」
「それはマスターに買ってもらえよ……」
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