第35話 最高の誕生日プレゼント



 ……。



 …………。



「ん……やべ、寝ちまったわ」



 時間は昼前。そろそろ漫画喫茶の利用時間が終わる頃だ。



「って、お前も寝てるのか」



「すう、すう……ん、ご主人様……Zzz」



「誰がご主人様か」



 ルーナは初めての漫画喫茶がよほど新鮮だったのか、ドリンクバーで好きなジュースを混ぜて大はしゃぎ、ソフトクリームをめちゃめちゃ長く巻いて大喜び、漫画を読んで大笑い。

ロシアンたこ焼きを二つ頼んでお互いに食べさせ合い、先に相手に辛いのを食べさせた方が勝ちとかいう謎ゲームまでやらされた。

ちなみにお互い3個目で当たって悶絶しながらルーナの作った謎ジュースで流し込んだ。



「おいルーナ、そろそろ出る時間だぞ」



「ん~……あと3千年……」



「封印されし邪龍かおまえは」



 ―― ――



「ご、ご利用ありがとうございました……!」



「ど、どうも……」



 ルーナを起こし、シャワーを浴びてから部屋を出て会計を済ませ、半日ぶりの太陽を拝む。

入店したときにオレの身分証をみて恐縮していた店員が、会計時にルーナが出したブラックカードを見て更に恐縮していたのがちょっと気の毒だった。

まあ普通こんなお偉いさんとこの娘みたいなのが漫喫に来たりしないもんな。



「いや~最高に満喫したぞ! さすが漫喫なのだ!」



「普段ルーナくらい大満喫してるやつは中々いないと思うけどな」



 さて、オレはそろそろ駅に向かってサンブレイヴ聖国まで帰らないといけないわけだが……



「ルーナ、お前この後どうするんだ? オレは魔導列車で家に帰んなきゃなんだが」



「ん……大丈夫。昼過ぎに迎えが来るらしいのだ」



 迎えが来るらしい?



「家出してたわけじゃないのか?」



「いやまあ、家出というか、家出させられたというか……」



「家出させられた?」



 オレの少し前を歩いていたルーナがくるっと振り返り、なんとも言えない表情で話し出す。



「今日な、吾輩の12才の誕生日なのだ」



「そ、そうだったのか」



「それでな、家のしきたりで12才になったら一人で屋敷を出て社会を見てこいと父上に言われて、急に朝早く追い出されたのだ。能ある鷹は我が子を谷に落とすのだ」



「そうか……」



 なんか色々混ざってるけど、要は『可愛い子には旅をさせよ』ってやつだろうか。

にしても12才は早すぎると思うんだが。

ナンパオークに絡まれてたし。



「でも心配だから半日後に迎えを寄越すって言ってたのだ。この決済カードも持たされたし」



「過保護じゃねえか」



 半日旅させて何になるんだよ。

サプライズのバースデーパーティーの準備が終わるまで帰らせないようにしてるだけな気がしてきた。



「どうしたら良いか分からなくて駅の端で座ってたら変なやつらに絡まれるし、さっそく最終手段を使ってしまおうと思っていたところでルイが助けてくれたのだ。しかも漫喫とかいうめちゃめちゃ楽しい所に連れてってくれて……吾輩、家出して良かったのだ」



「そうか、それは良かっ……えっなに? 最終手段?」



「なんか発動すると相手は死ぬらしいのだ」



 なにそれ怖すぎる。

発動したら死ぬってなんだよ……帝国の新兵器か?



「それにしても、ルーナは今日が誕生日か……なんか漫喫とか行っちゃって申し訳ねえな」



「ルイと漫喫で過ごせてとっても楽しかったのだ。最高の誕生日プレゼントなのだ」



「嬉しい事言ってくれるじゃねえか」



「わはっ! くすぐったいのだ~」



 わしゃわしゃとルーナの頭を撫でてやる。

前髪が伸びてきているのか、目にかかって少し邪魔そうだけどクセの無い綺麗な長髪だ。



「あ、そうだ。ちょっと待ってな……よし、あそこにしよう」



「ん? なんなのだ?」



 昼になって駅前の通りの露店も活気が湧いている。

その中でヘアアクセを売っている屋台を見つけ、ルーナを連れて行く。



「オレからの誕生日プレゼントだ。どれかひとつ選んでくれ」



「よ、良いのか……?」



「誕生日は特別な日だからな。それに、奢ってもらいっぱなしも悪いしよ」



「ル、ルイ~!」



 感極まってガバっと抱き着いてくるルーナ。

この数時間で随分と懐いてくれたもんだ。



「それじゃあ、吾輩に似合うヤツをルイが選んでほしいのだ!」



「オレがか? そうだなあ……」



 正直女性のアクセサリーの似合う似合わないなんてよく分かんねえんだよな……



「お、これなんかルーナに似合うんじゃねえか?」



 オレが手に取ったのはシアンカラーの蝶の髪飾り。

濃い紫色をしたルーナの髪には合いそうだ。



「これ……うん。これにするのだ」



「ご主人、この髪飾りを」



「はいよ!」



 買ってすぐの髪飾りをさっそく嬉しそうに付けてくれるルーナ。



「どう? 似合ってるのだ?」



「ああ、よく似合ってて可愛いぞ」



「ふへへ……」



 それからオレたちは、彼女の迎えが来るまで駅前の通りでウィンドウショッピングを楽しんだのであった。

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