第19話 第7師団長のお悩み相談室
「……というわけで、昨晩の戦況報告は以上になります」
「そうか……そんなことが」
夜間の任務を終えて、将軍であるインロック義父さんや他のエリアで警備にあたっていた師団長らに旧紛争地帯で発生したカーミラとの接触について報告をする。
「帝国も最近はおとなしかったんだがな……」
「不意を突いた組織的な侵略というより、カーミラが単騎で突撃してきてひと暴れして引き上げていったという形なのであまり深く考えても答えは出ないかと」
「そうだな……魔王の配下にいる奴らの考えは我々には理解に苦しむことも多いからな」
多分オレが彼女の機嫌を損ねたせいなんです、とか言えないしなあ……まあ、エビルムーン帝国軍のやつらは突発的に襲撃して戦況が悪くなるとしれっと撤退することとかたまにあるから、今回もそんな感じで処理されるだろう。
「ルイソン師団長、任務ご苦労だった。ゆっくり休みなさい」
「失礼いたします」
…………。
「ふう……」
「お疲れ、ルイソン」
「……ん? おお、カッシートか」
戦況報告を終えて会議室を退出すると、一人の師団長に声をかけられる。
コイツはカッシートという、騎馬隊で構成された第7師団の長を務める男で、彼自身はケンタウロス族という下半身が馬、上半身が人の亜人族だ。
8つの師団の中で人間族以外の者が師団長を任されているのは、オレの第8師団とカッシートの第7師団、そしてエルフ族の魔法部隊で構成された第6師団の3つ。
この3つの師団は他の5つの師団よりも小規模な部隊で、エルフ族以外の亜人族は人間族から若干下に見られているということもあって軍の中でも肩身が狭いため、カッシートとは肩身が狭い師団の長同士、仲良くやらせてもらっている。
「そっちはこれから仕事か? 朝からご苦労なこった」
「自分としては夜間警備のほうが大変だと思うがな」
「カッシートはオレと違って朝型だからな」
カツ、カツ、カツとカッシートの蹄が石畳の床を蹴る音が子気味良い。
赤髪のケンタウロス族である彼は『豪炎の重戦車』の異名を持ち、大柄なケンタウロス族の中でも一回り大きな体躯と強靭な脚を使って敵を蹴散らしながら突き進む聖国軍でも指折りの実力者だ。
瞬発力ならオレの方に分があるが、純粋なパワーとフィジカルでは彼に勝てないだろう。
「それで、昨晩はどうだったんだ? あの『鮮血のカーミラ』とやりあったのだろう?」
「ああ、まあな……だいぶイラついてる感じだった」
「ほう。仮面で素顔を隠してはいるが、感情までは隠しきれんか……悠久の時を生きる吸血鬼といえど、気持ちが昂るときもあるのだな」
「そうかもな」
たとえばマッチング魔道具で知り合った男が唐突に泥酔してる知らん女と撮ったツーショット写真送ってきたりな。
「……なあカッシート。不慮の事故で女性を怒らせてしまったうえに、表面上は謝って許してもらっても内心ではイラついてそうな時ってどう対処したら良いと思う?」
「随分と急な上に回答が難しそうな質問だな。なんだ、誰か怒らせたのか?」
「まあ、おそらく」
具体的な状況説明は伏せつつ、昨晩起こったことを彼に説明する。
カッシートは妻帯者なので、今回のようなやらかしも昔経験しているかもしれない。
「なるほど、他の女性とのツーショット写真を……まあルイソンのことだし、どうせ喫茶ハロゥでハチェットと飲んでたのだろう?」
「な、なぜそう思う……」
「お前がサシで泥酔するまで酒を飲む相手なんぞ、アイツくらいしかいないだろう」
カッシートとは何度か一緒に喫茶ハロゥへ行ったことがあるから、オレとハチェットの関係や距離感なども大まかに把握している。
まあ実際、サンブレイヴ聖国で深夜に女性と二人で酒を飲みかわして騒ぐなんてことはハチェットとしかできないしな。
「よし、そんな絶賛崖っぷち状態のルイソンに自分から一言アドバイスだ」
「おお、それはありがたい」
さすが妻帯者、人生の先輩であるカッシートだ。
彼のありがたい助言を漏らさず聞いておこう。
「直接会って、髪型と服装を褒めて、飯を奢って、相手が許してくれるまで謝り倒す。以上だ」
「……えらいシンプルだな」
「いくら文章で状況説明をしてもダメだ。そんなものはグダグダ言い訳をしているとみなされて余計に相手のイライラゲージが溜まるだけだからな。サッと罪を認めてパッと謝る。大切なのは誠意を見せることだ」
「なるほど、それは一理ある」
「というわけで、次の休日にでも会って謝罪してこい」
「……ああ。アドバイス感謝する」
さすが人生の先輩、とても男らしい助言だ。
「ちなみに自分は先日、ハーピィ族のキャバクラに行ったことが妻にバレて3時間土下座し続けた」
「お前もかよ」
……ケンタウロス族ってどうやって土下座すんの?
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