第18話 八つ当たり



 深夜の旧紛争地帯で警備業務にあたっていたオレたちサンブレイヴ聖国軍第8師団。

このまま何事もなく夜明けを迎えるかと思いきや、なんとエビルムーン帝国の十三邪将『鮮血のカーミラ』が単騎で突撃してきたと前線にいる斥候から連絡が入ったのだ。



「団長! なんかカーミラが『瞬撃の鎧騎士を出せば無暗な人死には出さない』って叫んでるらしいよ!」



「誰だよそのダサい異名のやつ」



「団長でしょ」



「そうでした」



 そういやオレ『瞬撃の鎧騎士』とか呼ばれてるんだった。

なんか、全身鎧なのに動きがめっちゃ素早いとかそんな理由らしい。



「つまり、実質幹部同士の決闘形式戦ってことか……」



「団長大丈夫? 手心加えちゃわない?」



「だ……大丈夫だ」



「ちょっと不安だなあ」



 実際の決闘形式戦はどちらかが死ぬか、降参、撤退するまで戦い続けるものだ。

場合によってはお互いの損耗具合をみて引き分けとする場合もある。

……正直、なんとか話し合いで済ませたい気分だ。



「それじゃあ行ってくる。他の兵が勝手に手出ししないように通達しといてくれ」



「りょうかーい」



 ミラさんこと『鮮血のカーミラ』は魔王軍の中でも屈指の実力を誇る夜戦兵だ。

うちの師団兵が弱いとは言わないが、考えなしに挑んでも返り討ちに遭うだけだろう。



「はあ、このタイミングでオレの正体バラしたら撤退してくれねえかなあ……」



 まあ、昨日のこともあるから逆に火に油ってことも考えられるんだが。



 ―― ――



「……来てやったぞ、いったいどういうつも」



「遅い!!」



「あっすいません」



 旧紛争地帯である夜の荒野を駆け、カーミラが待つ戦闘区域へと到着すると、オレを待っていたであろう彼女からさっそくお叱りの言葉が。

ちなみにオレは全身鎧のうえ、兜の内側には声質を変える魔道具を仕込ませているため、見た目も声も彼女がマッチング魔道具で知り合った『ルイさん』とは重ならない……はずだ。



「……カーミラよ、なにをそんなに憤慨しているんだ」



「黙れ、貴様には関係のない事だ」



「……もしや、男関係」



「は?」



「なんでもないです」



 おいめっちゃイライラしてるわ鮮血のカーミラさん。

絶対正体バラせないわこれ。



「……魔王軍からは決闘形式戦の申し込みは受けていない。なぜ来た」



「我の事情に口をはさむな。貴様はここで生死を賭けて我と戦う、それだけだ」



「……そうか」



 そういやカーミラって自分の事『我』って言うんだよな。

ミラさんの時は『私』なのはやっぱあれか、出会いの場では女性らしくしようみたいなのがあるのか。



「我はエビルムーン帝国軍十三邪将、気高きヴァンパイア族のカーミラ! 貴様に決闘を申し込む!」



「オレはサンブレイヴ聖国軍第8師団長、ルイソン! その決闘、受けてたとう!」



「ルイソン……ルイ、さん……」



「ま、参るっ!!」



 なぜかカーミラがオレの名前に引っかかっていたのでこれ以上なにかを考えさせる前に先手を切る。



「っ!! 不意を衝くとは卑怯な真似を……!!」



「決闘中に考えに耽るなど言語道断!」



 それからオレとカーミラは何度も撃ち合い、ひたすらに互角の勝負を続ける。

前に決闘した時もこんな感じだった気がするな……あのときは結局夜明けまで戦い続け、日光が苦手なヴァンパイア族のカーミラが撤退していった。

昨晩の深酒でちょっとしんどいので出来れば今回はもっと早めに撤退してくれると嬉しいんだが……



「どうしたカーミラ、以前よりも攻撃が単調になっているんじゃないかっ?」



「黙れっ!!」



「もしかして男にでも振られたのかっ……あ」



「…………」



 やばい、激しい戦いで頭に血が上ってつい煽ってしまった。



「い、今のはちょっとした冗談」



「鎧を食いちぎって貴様の血を吸いつくしてやるっ!!」



 結局そのまま夜明け近くまでオレとカーミラの戦いは続き、日の出のタイムリミットが来たカーミラは仮面越しにどこかスッキリしたような表情で戦闘区域から撤退していった。

もしかして昨晩のモヤモヤの八つ当たりというか、サンドバッグ相手が欲しかったのだろうか。

ある意味その相手がオレで良かったかもしれない……



「……今度、直接会って謝罪するか」



 オレは戦い疲れた身体にムチを打って戦場を後にした。

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