第4話 初デート



 そして、遂に土曜日。

マッチング魔道具で知り合ったミラさんと初めて会う日がやってきた。



「ふう、緊張するな……」



 待ち合わせ場所はアニスター共和国の観光都市『セブニング』の駅前広場。

アニスター共和国のセブニングは、オレが暮らしているサンブレイヴ聖国と敵対しているエビルムーン帝国の中立エリアとしての役割も担っている観光都市で、ここでなら仮に敵国同士のカップルがいたとしても何も憂いなく二人の時間を謳歌出来る。

ちなみにサンブレイヴ聖国からは高速馬車で約1時間半、エビルムーン帝国からは地竜鉄道で約2時間らしい。



「しかし、こんな時間からとはな……まあ初めて会うし、食事を一緒しながら話が出来ればって感じか」



 今回は相手の希望で、夕方に集合して二人でディナー。

お互いそのまま気が合いそうなら2軒目に行き、酒場で軽く飲んで解散というプランだ。

なんとなくこう、昼前に集合してランチからのウィンドウショッピング、カフェで休憩……みたいなのを想像してたんだが、オレの初デートのイメージって実は古いのかもしれない。



「えーと、『デスティニー』の待ち合わせ機能を使って……お、もう来てるみたいだな」



 マッチング魔道具『デスティニー』に内蔵されている待ち合わせ機能というものを使うと、待ち合わせ場所に指定しているエリアまで到着したときにお互いの位置情報が共有され、他の人と間違えたりしないで目当ての相手にたどり着くことが出来る。



「あそこの噴水の前にいるっぽいな……お、あの人がミラさん……か?」



 セブニングの駅前広場にある大きな噴水の前に、つばの広い帽子を被ったワンピースの女性が立っていた。

淡い金髪ロングに紅の瞳、整った目鼻立ち……たしかに、プロフィールに載せている顔写真の面影がある。しかし……



「なんか、思ってたより幼そうというか……普通に未成年じゃね?」



 噴水前で待つミラさん(仮)はかなり小柄だった。

あと顔もなんだかプロフィール写真より子供っぽいような気がする。

写真だとマスクで口元を隠してたけど、それだけでこんなに印象変わるもんなのか……?



「……なんか、犯罪的なやつじゃねえよな」



 オレが使用しているマッチング魔道具『デスティニー』は未成年は購入することが出来ないし、本人認証もしてるから、待ち合わせ機能でちゃんと反応が出ているということは彼女が本物のミラさんで間違いないはずなんだけど……



 そんな感じで少し遠目から彼女を伺っていると、向こうも待ち合わせ機能でこちらの存在に気付いたのか、パッと振り向いてお互いに目が合ってしまった。



「「あっ」」



 たったったった……



「あ、あのっ! ルイさん……ですよね?」



「は、はい、そちらは……ミラさん?」



「そうです! 初めまして! あっいや、デスティニーでは何度かやり取りしてるんですけどっ」



「い、いえこちらこそ! 今日はよろしくお願いしま……」



 そこでオレはとあることに気付いてしまった。

微笑んだ彼女の口元に、キバのようなものがチラリと見えたのだ。

種族は未登録にしていたため、なんとなく髪色や顔立ちでエルフ族辺りだと想像してたんだが、エルフにこんな鋭いキバは生えていない。

これは……



「ヴァンパイア族、ですか?」



「あっ、えへへ……やっぱ分かっちゃいました? プロフ画だと口元見せないようにしてたんですけど」



 ヴァンパイア族はエビルムーン帝国に属している魔人族の一種だ。

見た目は人間族に近いが、血を吸うための鋭いキバと、背中にコウモリのような翼を持っている。

今は服の下に隠しているみたいだが……



「魔人族……特にヴァンパイア族って、アニスター共和国でのイメージがあまり良くないので……」



「ああ、そういえば魔王軍の幹部の一人がヴァンパイア族でしたね」



「あっそうなんですそうなんです! ルイさんお詳しいんですね!」



「ええ、まあ……有名なので」



 有名っていうか、実際に戦ったことあるしな。



「たしか、カーミラ……〝鮮血のカーミラ〟ですよね」



「ふふ、そんな風に呼ばれたりもしてますよね」



 そう言ってミラさんは、チラリと鋭いキバをのぞかせながら可愛らしくはにかんだ。

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