第3話 さっそくマッチングしたんだが
「うわマジかよ、もうスタンプ来てるじゃねえか」
風呂から上がって『デスティニー』を確認すると、さっそくオレのプロフィールに興味を持ってくれた女性からスタンプが来ていた。
この『スタンプ』を貰った相手にこちらからもスタンプを贈ることで、メッセージのやり取りが可能になる。
それにしても、まさか女性側から先に反応を貰えるとは思わなくてびっくりしてしまった。
「えっと、どれどれ……名前はミラさん、アニスター共和国住みの23才、種族は未登録……」
プロフィール欄には口元を隠した顔写真が載せられている。
淡い金髪ロングに紅の瞳、整った目鼻立ち……
「め、めちゃめちゃ美人さんじゃないか」
なんというか、セレブのお嬢様みたいな風格を感じる……いや知らんけど。
「趣味は夜の散歩をしながらのオシャレなバー開拓……なんか全体的にリッチだな」
オレも人狼族の習性上どちらかというと朝型ではなく夜型だし、仕事終わりに路地裏の静かな酒場でゆったりとした時間を過ごすのが好きだったりする。
「この人となら美味い酒が飲めるかもしれないな」
よし……少し緊張するが、初めてオレに興味を持ってくれた女性だし、ここは行くっきゃないだろ。
「スタンプを贈り返してメッセージのやり取りを承認……よし、これでマッチング完了だ」
―― ――
マッチング魔道具『デスティニー』を手に入れてから数週間。
オレの生活は激変……というほどではないが、多少は変化した。
華やかになった、と言い換えても良いかもしれない。
仕事終わりや休日にデスティニーを使って知り合ったミラさんとメッセージのやり取りをするというのが新たな習慣として出来たからだ。
実際にメッセージのやり取りをしてみると、ミラさんはプロフィールを見たときのセレブな感じというよりも、意外とくだけた雰囲気のある人なんだなと思った。
好きなお酒の種類とかで盛り上がったり、内容は濁しつつも、ちょっとした仕事の愚痴を言い合ったり……
気付けば、オレはかなりミラさんのことを気に入っていた。
そしてついに今週の土曜日、彼女と実際に会って遊ぶことが決まった。
「デートか……服装、どうすっかな」
女性と二人で出かけることなんてほとんどないからな……それなりにピシッとした服装の方が良いのか?
いや、初めてだし意識してます感を出さないようにカジュアルめで行くべきか……
「団長! 団長ってば!」
「花束とか……いやそれはさすがに引くか」
「だ・ん・ちょ・う~!!」
「わっ! な、なんだっ!? 敵襲か!?」
「ボクだよボク!!」
いきなりの大声に驚いて隣を見ると、そこには耳の長い褐色の少年が1人立っていた。
「なんだハルか」
「なんだとはなんだよ! 団長、ボクのこと無視してさ~!」
「すまんすまん、ちょっと考え事をしててな」
こいつはハル……本名は『ハルバード』という、ダークエルフ族と人間族のハーフの少年だ。
オレの率いるサンブレイヴ聖国軍第8師団の団員で、副師団長を務めてくれている。
「まあいいけどさっ。団長、今週の土曜日ヒマ? 一緒にアニスター共和国行って遊ばない?」
「土曜か……すまん、今週はちょっと用事があってな」
「そうなの? 団長いつもヒマしてるのに珍しいね」
「余計なお世話だオイ」
ニヤニヤしながらこちらを覗き込むハルバードの長い耳をぺちっと軽く指で弾く。
「あんっ」
「お前その反応やめろ」
「エ、エルフの耳はビンカンなんだよっ!」
ハルバードはオレに触られた耳を抑えながら涙目でこちらを見上げてくる。
なるほど、こういうあざとい感じが他の団員から人気の理由ってことか。
まあ、こいつ男だけど。
「それじゃあ、また今度ボクと一緒に遊んでくれる?」
「ああ。また今度、暇なときにな」
すまんなハルバード、今週の土曜だけはどうしても外せない用事があるんだ……
「ちなみになんだが、ハルは初めて一緒に遊びに行く相手が待ち合わせ場所に花束とか持って現れたらどう思う?」
「えっ? 普通に意味わかんなくて引くけど……」
そうですよね。
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