第一章


先日、食文化館という建物でめのう細工を経験した俺は

小浜市の北方面へとバイクを走らせていた。

「今日はいい天気だな」

空には雲一つない青空が広がっている

これなら昨日のように「いきなり大雨が降る」という

不運は起こらないだろう

ただ一つ不安なことがあるとすれば昨日の体験による筋肉痛がまだ完全に治りきっていないということだが……

「地図を見る限りなら…直進か」

今俺が向かっているのは伊勢屋いせやという店だ。

どうやら1830年(天保元年)からやっている老舗の和菓子屋らしい。

「せっかく来たんだし有名なもんが食べたいなあ」

そんなことを思っていたら左手に伊勢屋と書かれた垂れ幕が見えた。

「ここか……」

近くに駐車場があったのでそこにバイクを止め、店へと向かった。

「なかなか迫力があるな」

店に入ってまず目に入ってきたのはきれいな白で統一された店内と、

様々な和菓子が入っているかごやショーケースだった。

左の方には和風なカフェ?のようなものが見えた。

「くずまんじゅうというものが美味しいと聞いたがどこにあるんだ?」

店内をぶらりと歩き、お目当てのものを見つけ、俺は思った

「これはほんとにまんじゅうなのか?」

俺の視界の中には、「ゼリーのような生地で包んだあんこ」としか言いようのないものがあった。

だが、せっかくここまできたのだ。

まずは買ってみるしかないと思ったのでレジで

「くずまんじゅう一つください」と伝え、

120円を店員さんに渡して店を出た。

ついでに何かを買おうかと思ったが、夏の暑さもまだほんのりと残っているためやめておいた。

バイクを止めてある駐車場に戻ってきた俺は近くのブロックに座り、

早速いただくことにした。

「いただきます」

少しずつ食べようかとも思ったが、せっかくなのでかぶりつくことにした。

食べた瞬間、暑さをふっとばすような冷たさが口に広がった。

最初に想像していたよりもまんじゅうという感じがし、夏にぴったりの冷たい和菓子

と言うには十分だった。

「なかなか美味かったな」

夢中で食べていたらすぐに無くなってしまった。

後何個か食べたいと思ったが、今日の予定もあるため、

また近くを通りかかったら買おうと思った。


駐車場を出た俺は、バイクを手で押しながら橋をわたっていた。

海に近いからか、浜風がとても気持ちよく吹き抜けていく。

「バイク倒さねえようにしねえと…」

橋を渡り、しばらくすると左手の方に神社が見えた。

「こんなところに神社があんのか…せっかくだし寄っていくか」

神社の方向に続く道を歩き、バイクを駐車場に止め、一礼をしてから鳥居をくぐった。

「すごいとこから水が出てるのな」

俺がこう思ったのには理由がある。

まずは手を清めようと、手水舎に寄ったのだが…

そこにある水の出どころが龍の口だったのだ。

あまり想像がつかないだろうが、俺も初めて見たのだからそうとしか説明のしようがない。

とりあえず柄杓で手を洗い、拝殿の方へと足を進めた。

「遠くにあるのは…石垣か?」

奥の方には稲荷神社もあり、城跡の中に神社があるという初めての光景に驚いたが…

まあ今はあまり時間もないし後でまた見に行こう。

賽銭箱の前に立った俺は、

賽銭箱には縁があるようにと五円玉を入れ、二礼二拍手一礼をしっかりして

念入りにお参りをしておいた。

(とりあえず不幸を少しでも抑えられるように頼んどこう…)

参拝も終わったので、さらに北の方へと進むため少し急ぎ足でバイクを押して進んだ。


橋をいくつか渡り、ようやくバイクに乗って走れる道路に出た。

「やっぱ筋肉痛が痛え」

かなり腕にきて思わず口に出してしまった。

(今日は西津地区?というところまで行くか)

早速バイクに乗り、道路を走っていった。

俺が西津地区というところに行く理由としては…地蔵じぞうを見るためである。

聞いたところによると、化粧をされてカラフルになった地蔵がいるらしい。

「ほんとにそんなもんいるのか…?」

ほとんど信用していないが、どのみちこの方向には行く予定があったので

ちょうどいいだろう。

最初はそんなふうに思っていたが、今となってはそれもあまり意味のない心配だった。

スマホの地図を見ながらバイクを走らせ、すぐに到着した俺は目を疑った。

地蔵は地蔵なのだが、絵の具?か何かで色を付けられまるで服を着ているかのような地蔵があった。

赤、青、黄色…と色とりどりである。

他の道に行っても、さまざまな地蔵があるので俺は深く考えないようにした。

(ここまで多いと逆に怖いな…)

そんな事を思っていると空の端が赤く染まっているのが見えた。

(そろそろ戻ろうか…)

ついでに地蔵にも何かを願っておこうかと思ったが、欲張り過ぎかと思いやめておいた。

そうして様々な地蔵たちに軽く頭を下げ、住宅街を抜けていった。


(せっかくだし、海辺の道を走るか)

そう思った俺は路地の道を抜け、右を向けば海が見える道を走り出した。

海には夕日が落ちてきていて、赤く染まっているのがわかる。

「綺麗だなぁ…」

感動が口に出たのもつかの間、俺は考えてしまった。

(今日は不幸じゃねえな……)

そう思ったのもつかの間、道路に茶色いものが横切っていくのが見えた。

よく見るとそれは一つではなく二、三と次々に走っていくのだ。

(今回もなかなかに面倒くさそうだなぁ)

道路に来た茶色の物の正体は猿だった。

(早く帰りたいんだけどなぁ……)

強行突破するわけにもいかず、猿と俺は数分睨み合った。

数分後に猿は山の方へと帰っていった。

後ろから車が来なかったので、事故らなかったのは不幸中の幸いといったところだろう。

(まあ、危害が加えられるよりはいいだろう)

そして俺は宿泊場所へと再度走り出した。

途中で、看板が倒れてきたことがあったが……

慣れとは怖いものでほとんど何も感じなくなっていた。

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