第2話
午前授業が終わって、真っ先に教室を出た。
三年C組へと向かうために。
「ちょっと待って! 六華ちゃん!」
それなのに、背後から佐倉さんに止められる。
足を止めて振り向けば、佐倉さんは首を左右に振ったあとに手招きをした。
それに従い近づくと、佐倉さんは私の肩を抱いて、耳に唇を寄せる。
「レオさんのとこに行くのは放課後にしたほうがいいよ」
「……?」
「とにかく今行くのはおすすめしないから」
小さな声でそれだけ言うと佐倉さんは私の問いには答えずに立ち去った。
と、言われましても。
私の目的は『悪魔』に会うこと。
というよりも、手に入れることだ。
つまり彼が休憩時間に何をしているかを知り、何を好み、どんな人なのかを知る必要がある。
だから行くなと言われても…
「ちょっと待って、六華ちゃん!!!」
「……?」
今度はなに?
佐倉さんは進み始めた私をまた呼び止める。
ゆっくり振り向けば、佐倉さんは切羽詰まったように、私の両肩に手を置いて目線を合わせた。
「あのね! 今はとにかく行かないでくださいっ!」
「……?」
どうして? と唇を動かせば、佐倉さんは気まずそうに視線をずらして、ため息をつく。
「男女の…ほにゃらら」
「……」
「だから…ダメ」
……あぁ、なるほど。
なるほどね。
だから止めるんだ。
なるほど。
「だからね、六華ちゃ…」
バイバイと手を振って見せると、佐倉さんはぶんぶんと首を振る。
「ダメだって。親御さんにも頼まれてるんだから」
声を潜めて言われて、振った手を下ろす。
父たちが止めるなら仕方ない、か。
確かに、そういう場面に出くわしてもいいことないだろうし、むしろ嫌な思いしかしないだろう。
佐倉さんの言う通り、放課後を狙おうかな。
こくりとうなずいて、手話で彼に『ありがとう』と伝える。
すると彼は安心したようにほっと息を吐いた。
…………
……
ようやく放課後になって、ホームルームが終わるのと同時に席をたった。
だけど、
「ねえねえ転校生ちゃん」
「これから一緒に遊ばない?」
彼のもとに行こうと思ったのに、数人の女子生徒に囲まれてしまった。
手話では通じないし…読唇も無理だよね。
なら筆記だ。
と思ってメモ帳を取り出したら、それを女の子に取り上げられた。
「そんなのいいからいこーよ!」
メモ帳も取り上げられたのでただ首を振るしかない。
だけど
「あんたに協力してもらいたいんだよねー」
ごめんなさいと唇を動かしながら首を振る。
だけど女の子たちはそんな私を無視して、両側から挟んで腕を組んだ。
そして引きずるようにして歩き出す。
どこに行くのかだけでも聞きたいのに聞けない。
あぁもう…声でないって本当に不便…。
「これでセンパイも満足してくれるよね~」
「この子使えば取り巻きもどうにかなるじゃん!」
「喋れないし便利すぎ」
なんかやばそう…。
だけど
「あぁ、これで宇月先輩に会える~!」
宇月…先輩…?
ってことは、
「ッ!」
この子たちについていけば会えるってことだ。
それに気づいた瞬間、私は自分の足で歩き出した。
こんなに早く会えるなんて彼女たちには感謝しかない。
「何この子…」
「急にテンションあげんじゃん」
「まさか宇月先輩を狙って…?」
「いや、でもこんな子気に入ってもらえるわけなくない? 喋れないし」
「確かに」
ひそひそと笑いながら話す彼女たちに私も心の中で笑みをこぼす。
あぁ、楽しみだなぁ。
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悪魔と声なき少女 透乃 ずい @zui-roze
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