悪魔と声なき少女
透乃 ずい
第1話
ヤンキー校と呼ばれる北校。
ここが…そうなのね。
確かに今までといた学校とは全く違う。
校門にも塀にも落書きされていて、校舎の窓はところどころ割れてるし…。
「
そんな声がして隣を見上げれば、心配そうに私の顔を覗き込む義兄の睦月がいる。
だいじょうぶ。
そう左胸から右胸へと手を当てて伝えれば、睦月は眉を下げながらもうなずいた。
「君はこうと決めたらこうだからね。…うん、もう止めないよ」
その言葉に笑みを返せば、睦月は私の両肩を軽く押して『いってらっしゃい』をした。
振り向いて手を振れば、私は新しい学び舎へと歩き出す。
見つけよう。悪魔を。
私の願いを叶えてくれる悪魔を手なずけるんだ。
…………
職員室へと向かったあと、担任の先生と校内を歩く。
授業が始まる前なのに、生徒は廊下に出ていた。
物珍しそうにこちらを見ては、ひそひそとする。
「この二年A組が
こくりとうなずいて先生と一緒に教室に入った。
するとそこは落書きだらけで、机も整列されていないなんともいえない光景が広がっている。
ここは本当に現実にある学校なのだろうか。
テレビでよく見る『ヤンキー校』そのものだ。
ふふっ…面白い。
「えーっと、今日は転校生を紹介します。
先生が代わりに挨拶をしてくれて、私は軽く会釈をする。
そのあとに『よろしく』と手話で挨拶をした。
「ここは支援学校じゃねーよ!」
「帰れ!」
「清楚ぶってキモイんだけど」
などなど、皆さん言いたい放題。
でもこんなのどうってことない。
目的を果たすためなら、これくらい問題ない。
「冴島は一番後ろの席なー。
宇月…と呼ばれる男子生徒は私をじろっとにらんで、舌打ちをした。
まぁなんというご挨拶。
さすが『彼』の弟だ。
よろしく、ともう一度手話をすると彼は机を蹴飛ばした。
そしてぐーを握ってこちらに飛ばしてくる。
だから私はそっと顔を傾けた。
避けてなかったらクリーンヒット。
危ない危ない。
「てめぇ…!」
そんな彼を無視して席に座った瞬間、目の前の机を蹴飛ばされた。
蹴飛ばした彼を見上げれば、もう一度拳が飛んでくる。
だけど
「はーい、そこまで」
その拳を止めたのはちゃらちゃらとした男子生徒。
彼は私にウインクをしてきて、宇月さんと私の間に入った。
「邪魔すんな!」
「女の子に手ぇだしちゃだーめ。この子、声でないんでしょ? 弱いものいじめしていいの?」
「はあ!? ぜってぇ弱くなんかねぇだろうが!」
「女の子という時点で守ってあげなくちゃ。つーか…トップの弟なんだから、こんな恥ずかしい真似すんなよ」
急に声のトーンを下げながら言う彼に教室の空気が冷たくなった。
……この人が協力者かな。
父がこの学校に転校するにあたって用意した協力者。
誰も守る人がいないのに、こんな野蛮な学校に転校を許されるはずがない。
協力者の名前は確か…
同じクラスって言ってたし、彼のことだろう。
腕に龍のタトゥーも入ってるし、特徴も似てるし。
それにしても
ふふっ…
ちいさいなぁ。
「おい! おまえ! 今小さいっつったな!」
……え? 私、しゃべってた…?
「あー。六華ちゃん、こいつ『小さい』に敏感だから視線とかでばれるよ」
なんと。
宇月さんは155センチの私よりも少し小さくて、とてもかわいらしい。
高校生男子だからこれから伸びるのかな…?
「あーむかつく! このくそ女!」
「あはは…。悪い奴じゃないから、仲良くしてあげてね。六華ちゃん」
そうかもしれない。
小さいって言葉に敏感で、それだけで頬を膨らませて怒っちゃうなんてとても可愛らしい。
佐倉さんにこくりとうなずきを返して、机の位置を正して席についた。
弟さんがこうなら、『悪魔』も小さいのだろうか。
早く会いたいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます