浅川瑞樹の備忘録 5
2024年12月27日
このクソ忙しい年末に、ろくでもない事件が連続した。
まずは心瀬開との面談。あそこで俺は開に拒絶されてしまった……
嵐の中心となっている舞奈と舞音に、何としても会わねばならない。しかし開の拒絶により、それは望み薄となったと言っていい。
少し前までかなり協力的だったのに、彼は一体何故、あそこまで意固地になってしまったのか。俺には分からないが……
やはり、舞奈の大量出血事件が原因か。あれで開の心は逆に閉じてしまったのか。名前に反して。
そんな時に強引に攻めたのは俺のミスだったか。
住所も改めて書いてもらおうとしたが、やはり拒まれた。あの調子ではもし無理矢理聞きだしても、偽りの住所を書かれて終わるだけだろう。
気は進まないが、また警察の知己を頼るしかないか……
クリスマスイブと翌日には、さらにろくでもない事件がたてつづけに発生した。
コノハナ研究所の大火災。それに伴う、橘明人の死亡。
これにより、『舞音』の追跡がさらに困難になってしまった。
もとよりコノハナ研究所にはAIの不正利用――つまりAIを利用したハッキングなどの疑いで密かに警察の手が入り始めているという噂があった。そして近々、その捜査が本格的に行われるという話も俺は耳にしていたが――
まさかその矢先、研究所自体が消えるとは。そして『舞音』の生みの親たる橘明人までも。
何故そうなったのかは全く分からないが、ただひとつ確かなことがある。
それは、この先当分、『舞音』を追跡できるAIが生まれないという事実だ。
『舞音』を上回るAIはすぐに作ることが出来る――橘はそう豪語していたし、恐らくその研究も進んでいただろう。
だがそれらの技術は全て、炎に消えた。橘や研究員たちの優秀な頭脳ごと。
まるで、橘の自信を嘲笑うかのように。
そして俺が調べる限り、コノハナ研究所は国内、いや世界でも最高峰の技術を誇っていた。
それが失われたとなれば――
人間がAIを追うのは難しい。それはITオンチの俺にだって分かる。
だからAIに対抗するには、同じAIが必要だ。
しかし、わずか数年で驚異的な成長を果たした『舞音』。そんな彼女に追いつく為のAIを今から研究して作ろうったって、追いつけるわけがない。
コノハナに匹敵する人工知能研究施設がそうそうあるとも思えないし、あったとしても、対抗可能なAIを作っている間に『舞音』はその存在に気づき、片っ端から消滅させてしまうだろう。
コノハナや橘と同じように。
これは――
『舞音』を止められる最後の鍵が、この世から消失したのではないか。
それをきっかけに、何かが、致命的に変わってしまうのではないか。
そう考えた時、背筋にぶるっと走った寒気が忘れられない。
そして、たてつづけに飛び込んできたのが――
礼野美江と大沢誠、死亡の知らせだった。
ニュースでは名前は出ておらず、また人身事故かという感覚でしかなかった。だがあの二人だという情報を警察OB経由で知った時は、本当にひっくり返りそうになった。
急遽ザクシャルへ飛んでいったが、会社自体がシステムトラブルの連続で大騒ぎになっていたらしい。辛うじて話を聞けたのは組合の村野めぐみくらいだったが、その最中にも阿藤マネージャーが乗り込んできた。全社的にパソコンがおかしくなっているので、何とか無事なパソコンを強引に借りようとしたようだ。
阿藤が暴れたせいで、村野も俺も殴られた。迷惑極まりない。
どうやら彼の中では、遅延利息1円と他人の血では前者の方が圧倒的に重いようだ。
いや彼の場合、自分の身内全員の命を天秤にかけさせても、遅延利息の方が沈むかも知れん。
ともかく――
状況から推測するに、礼野美江は突如として大量のミスをやらかし、社内で退職寸前まで追い詰められた。かつて彼女が追い込んだ心瀬舞奈と同じように。
唯一庇ってくれた古島からさえ見捨てられほぼ発狂状態となり、大沢誠を巻き込んで死亡。
自業自得。そんな言葉も思い浮かんだが、それでも二人の最期の惨めさを思うと虚しさがこみあげる。
特に礼野は人としてのプライド、職業人としての誇りを散々破壊された上、最期には大沢からさえ裏切られ、ほぼ精神崩壊を起こしていたはずだ。
礼野が起こした大量のミスは恐らく『舞音』によるものと思われるが、証明する手段は何もない。俺には勿論だが、礼野にも大沢にも、古島にもなかった。
ザクシャルのIT部門がどれほど調査しても、それらしきハッキングの形跡は見られなかったという。これは田村美緒のケースと同じだ。
『舞音』は、その痕跡を当たり前のように丁寧に消しながら、少しずつザクシャルを破壊している。
だとすると、次に狙われるのは――
ちょっと関口が呼んでいる。またネットで何か起こったらしい。
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