村野めぐみ(ザクシャル労働組合)の証言 2
はい。このところずっと、礼野美江さんからも相談をいただいておりました。
人事から転勤か退職かを迫られているという、あの心瀬さんのケースと同じような内容で。
大沢さんもですが、本当に……いたたまれないです。
古島さんの件もショックでしたが、まさか礼野さんが……電車の人身事故が酷いものだとは分かっていましたが、お顔を知っているかたがそうなると本当にキツイものがありますね。しかも、私は彼女から相談を受けていた身ですから。
お二人とも葬儀がこれからですが、親御さんの姿を想像するだけでもつらいです。
状況を詳しく聞く限り、完全に痴話喧嘩からのトラブルで一方がもう一方を突き飛ばしたようですね。
礼野さんは当日、自宅での業務を指示されていたようですが、何故かお昼になってオフィスに怒鳴りこんできたようです。
とんでもなくきわどいコスプレ衣装のままで会社に乗り込んで、大沢さんを怒鳴りつけていたそうで……数か月前までは頼りになるリーダー的存在だったはずなのに、一体どうしてそこまでになってしまったのでしょう。
「何で昨夜来てくれなかったんだ!私の犬のくせに!!」と散々な罵詈雑言を浴びせた上、「どうせあんたも、心瀬舞奈と何かやって私を貶めてるんでしょ! どいつもこいつも、何であんな女ばかり!!」などと、全く無関係の心瀬さんを持ちだしたとか。
そういえばその日はクリスマスイブでしたね。色々忙しくてすっかり忘れていましたが……
ともかく、礼野さんは完全に獣みたいだったそうですよ。
大沢さんも売り言葉に買い言葉で、「クソババア」だの「てめぇの介護要員なんて絶対ゴメンだ」だのと、やたら口調が乱暴になっていったらしいですね。
それで警備員まで呼ぶ大騒ぎになって、大沢さんから礼野さんを何とか引き剥がし、会社から追い出したはいいのですが……
大沢さんの業務時間終了直後に事故が起こった点からすると、恐らくその後も礼野さんは大沢さんの業務終了を見越して、物陰に隠れて待ち構えていた。
彼が会社から出て駅のホームまで来たのをつかまえて、そのまま再び口論に発展……というところでしょうか。
なるほど。ザクシャル関係者では組合、つまり私としか連絡が取れなかったと……そうですか。
確かにそうでしょうね。今や社内はどの部署もインシデントの嵐で、パニックになっていますから。
組合のパソコンが比較的無事なのが不思議なくらいです。
……あれ?
すみません、内線電話が……少々お待ちくださいね。
……え? 阿藤さん?
今すぐ組合のパソコンを使わせろ? いや、そんな無茶な……
えっ? 部署中のパソコンが全部落ちた? それはITに言ってください、私どもに言われましてもどうにもなりません!
……えぇ、サーバーも全部? そんな、締め切りがどうのと言われてもですね、組合のパソコンでは出来ることも限られてます。無茶です、今からなんて――
(ドアが乱暴に開かれる音。以下、会話が続く)
「村野さん! いいからさっさとパソコンを貸してください!
今やらないと、来週の締め日に到底間に合わない! 遅延利息の大量発生が免れないんだ、これ以上事故が続いたら、金融庁から何を言われるか!」
「やめてください、阿藤さん!
というか貴方この前、奥さんが過労で倒れられたそうじゃないですか。今日ぐらい帰って
……きゃあっ!?」
「家内が倒れたぐらいで仕事を止められるか!
ITによれば今、社内で使えるパソコンはここにあるものだけだそうです。無理にでも使わせてもらいますよ!」
「そんな。組合でもこれから業務がありますし、今も面談中ですので……」
「面談?
あぁ……浅川さん。また貴方ですか!
そういえば貴方に心瀬舞奈の件を話した頃から、わが社ではおかしなことばかり起こっている!
田村さんがあんなことになったのも、貴方と心瀬舞奈が関わっているんじゃないのか! 彼女は決してあんなミスを犯す社員じゃなかったのに!!」
「阿藤さん、やめてください。阿藤さんってば!!」
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