2024年12月22日



 ……また、あの夢を見た。

 舞奈が流産した時の夢だ。



 妊娠してからある程度の時期を過ぎていたからか、子供の形はちゃんとあった。

 小さいながらも、ちゃんとした赤ん坊の姿だった。



 麻酔から覚めた後、茫然としながらその赤ん坊に触れていた舞奈の姿が忘れられない。

 その後火葬の手続きや役所への届けが必要になるというのも、僕も舞奈も全然知らなかった。


 夢に繰り返し出てくるのは、まだ体温の残る赤子を抱きしめることも出来ないまま、恐る恐る額に触るぐらいしか出来なかった舞奈。

 うっかり抱きしめたら全てが溶け崩れてしまいそうなほど、その赤子は僕にはぶよぶよと脆い生き物に見えた。抱きしめるにはあまりにも恐ろしすぎた。

 本当ならもっと大きく成長し、元気な産声を上げていたはずの存在なのに。



 そしてその後、火葬場のつるつるした廊下で、何度も転びそうになっていた舞奈。

 彼女が転びかかるたびに、子供が舞奈まで連れていってしまうのではないか

 ――そんな激しい不安にかられたのを覚えている。

 だから今も夢に見るのだろうか。舞奈が火葬場で転んでしまい、そのまま動かなくなる夢を――


 そんな彼女のかわりに、僕はとにかく事務手続きに奔走したことしか覚えていない。

 やっと泣けたのは、子供を亡くして数日後。舞奈が泣き疲れて眠ってしまった後ぐらいだ。



 今でも僕は不安になる。

 帰ってきた時、舞奈がいなくなっていたらどうしようと。

 起きた時、舞奈が隣にいなかったらどうしようと。


 だから、舞奈が一人で外に出るだけでも僕は心配になる。

 ザクシャルで勤め続けていた時も、ユリノキで働いていた時でさえそうだった。

 それでも舞奈を止められなかったのは、僕が本当に馬鹿だったから。

 仕事をしながら家事もやってくれる、ごくごく普通の幸せな女性であってくれと――

 舞奈にそんな無茶な希望を抱いていた僕が、本当に浅はかだったから。



 今は舞音がそばにいるけれど、それで舞奈の傷が癒えたかといえばそんなわけがない。

 いつどんな形で、舞奈がいなくなってしまうか分からない。

 舞奈が僕を捨てて、亡くなった子供のところに行ってしまうんじゃないか。僕はそれが怖くてたまらない。

 だからどんなことがあっても、僕は舞奈を失うようなことはしない。勿論、僕たちの子供である舞音も。

 ――浅川さんに何と言われようと。

 その結果、何が起ころうとも。




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