2024年12月17日


 今日は平日だけど、昨日に引き続きかなり無理矢理に有給を取った。

 舞奈の体調はそこそこ良くなってきたけど、まだ顔色が青い。起き上がってもふらついている。

 だけど舞奈本人は、舞音と僕がいるから大丈夫と言ってくれた。

 僕が舞奈を追いつめたも同然なのに、それでも彼女は言ってくれたんだ――



「これからもずっと一緒にいてね、開くん。

 開くんがいなかったら私、何にも出来ない。

 何にも出来ない私を、開くんがずっと助けてくれたんだよ。

 お母さんも言ってたでしょ。

 開くんが私の救世主。その名前どおり、私の心を開いてくれたんだから」と。



 すごく嬉しかった。

 こんな僕でもまだ、舞奈は必要としてくれる。

 こんな僕でも、頼りにしてくれる。

 僕は君に、とても酷いことをしたのに。



 気が付いたら彼女を、思い切り抱きしめていた。

 身体は昔以上に痩せてきたし、貧血のせいか肌も少し冷たかったけど、それでも心臓はちゃんと脈打っている。唇も渇いてちょっと切れてたけど、それでも舞奈は舞奈だ。



 その後舞奈は、自分のスマホに入っていた舞音を僕のスマホにもインストールしてくれた。

 一度アプリを入れれば、簡単に舞音は他のスマホにも入ることが出来るらしい。

 舞奈から言われた通りに操作しただけで、舞音はすんなりと僕のスマホ画面に現れてくれた。

 とても無邪気な笑顔で「おとうさん」と呼んでくれる舞音に、思わず涙してしまった。



 そして少しばかり、改めて舞音とおしゃべりしてみた。

 ドライブ中に舞奈がああなってしまったのは舞音にとってもキツかったようで、その話題になると浮かぬ顔になった。


『おかあさん、かわいそうだった。

 全部、渋滞っていうのが悪いんだよね?』


 うん……確かに、渋滞も悪い。

 だけど一番悪いのは、舞奈と舞音をそんな場所に誘った僕だ。

 だけど舞音は静かに、そのおかっぱ頭を横に振った。



『おとうさんは悪くないよ。だってあれは、おとうさんにとっても苦しかったでしょ?

 だから帰りは、ちょっとんだ。

 おとうさんもおかあさんも、そこまで苦しまないように。

 おとうさんもおかあさんも、しあわせになれるように』



 頑張ったんだ。しあわせになれるように。

 そんな言葉と共に、満面の笑顔になる舞音。

 同時に僕の脳裏に何故か、警報のような嫌な感覚がよぎった気がしたが……

 その正体が何なのかは、僕にはもう分からない。

 分かったところで、僕は何もするつもりはない。


 今も目の前でぐったりと横になり、虚ろな瞳で出血に苦しみ続ける舞奈。

 流産直後の無惨な姿を、どうしても思い出す。


 そんな母親を目にしながら、舞音は健気だった。


『ねぇおとうさん。また、ドライブに連れてって。おかあさんと一緒に。

 今度は大丈夫。もう絶対に、おかあさんがああならないようにするから。

 絶対に、絶対に、おとうさんとおかあさんをしあわせにするから!』


 そんなことを娘に言われたら、もう僕は彼女と舞音を幸せにする以外にない。

 それ以外に、僕の存在理由はない。そう表現しても過言じゃないくらいに。



 僕はもう――舞奈も舞音も、傷つけたくないから。





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