PHASE7 剥かれた牙は灼熱に燃える
田村美緒(元・ステートメントチームリーダー)の証言 2
あぁ、はい……申し訳ありません、こんな状態で。
ちょっと入院してまして……いや、大丈夫です。薬を飲みすぎて自宅で昏倒していたらしくて。
鉄道トラブル、結構日にちが経ったのにまだ続いてますね。探偵さんもお仕事大変でしょう。
私はなかなか出勤出来てない状況ですし、あまり関係ないんですが。というか出勤するなと言われてるも同然ですしね、あは、あはは。
えぇ……あの後すぐ会社でインシデントが大量にあって、しかもそれがピークの時期に連続して。
私、今じゃリーダー降ろされて普通に派遣社員と同じ業務をやってます。少し休んだ方がいいと阿藤マネージャーに言われまして。あは、あの人に言われたらオシマイですよね。
むしろこっちの方が気楽だったりしますね。責任負わなくてすむ、それだけでこんなに安心できるとは思わなかったです。
インシデントについてですか?
そう、私……ちょうど心瀬さんと同じようなスケジュールのミスを大量にやっていたんです。
いや……違う。違うんです。私のミスじゃ、ない。
きちんと期日どおりに入力したはずのデータが消失して、未入力同然の状態に戻っていたという事態が頻発しまして。
勿論私は全データをチェックして、余裕で期日に間に合うようスケジュールをたてたはずなんです……なのに、その殆どが入っていなかった。
全部、ではなく殆どが、です。つまり一部は入っていたんです。全体の1~2割くらいですけど。
そこに規則性は何もなかった。それが余計に、私の確認不足によるミスという疑惑を高めてしまいました。
IT部門にも勿論調査してもらいましたけどシステムに異常は発見されず、どんなに詰め寄っても「そちらの認識不足による単純ミスでしょう」と言われるばかりでした。あの畜生ども……!
阿藤マネージャーや他の上司も同僚たちも、最初は私のミスではありえないと言ってくれました。
いつぞやの心瀬さんならともかく、私がこんなスケジュールを無視したミスをするのはありえないと。やっぱり長年積み上げた信頼って大きいものだと、その時は思いましたよ。
だけど同じようなことが、その次の月もまた続いて……
その頃でしょうか――あの、例の悪魔か幽霊みたいな幻覚が見え始めたのは。
はい、パソコンの画面上におかしなものが見え始めたんです。それは……
あぁ、もう思い出したくもない! 未だに見るんです、あの子!
あの子が出ると必ずその後、インシデントが起こるんです!
上野さんにも聞いてください、彼女もたまたま一緒に見たはずですから! お願いします、彼女だけなんです、他にあの悪魔を見た人は!!
あ、はぁ、ああぁ、吐き気が……すみません。
ちょっと、薬飲みますね。
今じゃすっかり信頼が落ちて、阿藤マネージャーにはしばらく在宅勤務を言い渡されました。私の代わりに上野さんがリーダーをやってます。
毎日上野さんに、私のスケジュールチェックをしてもらってますよ……
えぇ、私が心瀬さんにやってたのと全く同じように。
でも、上野さんたら酷いんです。
昨日も私はちゃんとAという業務を50件こなしたはずなのに、「本当にやりましたか? また嘘ついてるんじゃないですか?」って何度も聞いてくるんですよ。
あぁ……せっかく入力したデータが翌日にはきれいに消えてるなんて現象、私のところでしか起こってないから上野さんには分からないんだ!!
「ちゃんと病院に行ってますか」「お薬飲んでますか」って、阿藤マネージャーや他の上司にも何度も詰められて……
「そもそも、どうしてこのデータがこの日までに必要か。田村さんは理解してますか?」って、改まって阿藤マネージャーからも上野さんからも言われるし!
当たり前じゃない、私はリーダーやってたんだから! 心瀬さんとは違うんだから!
私はミスなんかしてないし締切破りもしてない、全部あの悪魔のせい!!
助けてください……今でも夢に見るんです。
あの、パソコンに出てきた変なアバターみたいな子供。
私の画面にだけ現れて、「勉強会、やろう?」って笑いかけてきて……
他の人に何度言っても、IT部門に調べてほしいって訴えても、全然信じてもらえないんです! あのアバターのこと!! 私のところにしか出てきてないから!!
勉強会……べんきょう……か……べんきょ……
あ、あぁ、あああぁああぁあぁあぁあああああぁああああぁああぁあああああうがああああぁあああぁああああああああ
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