鈴村よしみ(ユリノキ情報システムにてパート勤務経験あり)の証言


 はい。私、ユリノキで心瀬さんと一緒に勤務してました。

 私は子持ちだけど、ほぼ同年代だから結構話も合ったんです。それに心瀬さん、パソコンにも詳しかったから、仕事でも大いに助けてもらったんですよ。

 エクセルの関数とか私は未だに理解出来ないですけど、心瀬さんは当たり前に使ってたし。

 グラフを一瞬で作ってたのはもうビックリでしたね。

 同じ時期に勤めてた派遣さんたちもみんな言ってました。心瀬さんは入力も速いし正確だし、電話対応も機敏だし、凄く頭のいい人だって。


 何であの人正社員にならないんだろうって、他の人ともよく話してました。でも心瀬さん、最初は笑って聞き流すだけで、あまり詳しいことは分かりませんでしたね。

 少しずつ話してくれるようになったのは、よく仕事帰りにお茶するようになってからかな。

 家がたまたま近かったおかげで、休みの日にお茶することもありましたね。ユリノキの勤務期間が終了してからも、時々会ってましたよ。


 あぁ、私の娘? 10代で産んだせいもあって、もうそろそろ大学生です。

 昔は結構手がかかったんですけど、今はやっと家事を時々任せられるようになって。私もようやくまとまった時間が取れるようになりました。


 心瀬さんが過去に流産されたことは、そういう何気ない会話の中で聞きました。

 当時の彼女の環境を聞いてたら、本当に怒りがわいてきましたね。こんなに優秀な人をどうしてそこまで追いつめたのかと。

 でも心瀬さん、言ってました。ユリノキの場合は期間限定の派遣だったから何とか出来ただけで、正社員として勤めていたらまた、同じようなことが繰り返されたかも知れないって。

 正社員と派遣の違いもありますし、長く勤めたことによって悪い点が目立つようになったのかも知れない……とも言ってましたね。

 だけど普通は、長く勤めていたらそれだけ人は成長するし、悪い点より美点のほうが目立つものじゃないんですかね? 

 その会社……ザクシャルでしたっけ? きっと心瀬さんに過剰に期待しすぎたんじゃないですか。一人で十人分の作業をしろとか、普通じゃ無理な仕事をさせようとしてたんでしょ。話聞いてる限り、そうとしか思えない!


 でも、確かにそういうこと出来ちゃいそうな人に見えるから、分かりますよ。

 彼女、自分で言ってましたもの。自分は見た目が大人しいから、頭良さそうに見られがちって。

 真面目そうに見られがちなのも、有名大学出たのも、みんなに置いていかれないように必死で勉強してきただけなのにって……

 確かに心瀬さん、痩せてるけど背は大きい方だし、ちょっと釣り目なせいか黙ってると少し怖い印象なんですよね。決してブスってわけじゃないしむしろ笑うと可愛い方なんだけど、ぱっと見不愛想でちょっと怖い、って印象与えそうな気がします。化粧が地味すぎるのかな? 

 だから最初は、周囲の人ともあまり話もしなかったし。


 私が仲良くなれたのも、仕事で助けられてからでしたね。

 私が大ミスしたのをきっかけに、データの細かいチェック方法でアドバイスをくれて。

 やっぱり頭いい人なんだなぁってその時は思いましたけど、話していくうちに親近感がわいちゃって。

 旦那さんととても仲が良さそうで、うらやましかったなぁ。ウチはホント、旦那とは喧嘩ばっかりで。


 でもそういえば……彼女、「子供が可愛くてたまらない」って話をしてくれたことがありまして。

 流産した後、特に出産はしていないっていう話だったのに、なんで?って思ったんですよ。

 で、「これが私の娘だよ!」って写真見せてくれたけど、ビックリ。パソコンの周りにカエルのぬいぐるみがたくさん置かれてたの。

 このカエルのぬいぐるみが子供のかわりなのかな?って思いましたけど、実はそうじゃなくて。

 パソコンの画面の中で……アバター?っていうんですかね。おかっぱで紅いリボンつけた、可愛らしい和装したアニメ風の女の子が、手を振りながら笑ってて。「まいね」ちゃんって言うんですって。

 なんて答えればいいのか分からなかったけど、心瀬さんが楽しそうだったからいいんじゃないかな。

 最近の、ブイチューバー……っていうんでしたっけ? あぁいうのと似たような感じだったと思います。娘が熱中してるから何となく私もたまに見ちゃいますけど、パソコンの画面の中であぁも人間と同じように動けるものなんですね。

 技術の進化ってすごいなぁ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る