橘明人(コノハナ研究所所長兼情報研究課第三チーム主任)の証言 1



 あぁ……心瀬舞奈さんのことですか。

 はい、確かに彼女はY沢医院さんからの紹介でウチに来ました。

 刑事さんなら既にご存じとは思いますが、彼女はザクシャル勤務中に妊娠、そして流産。

 それでも心機一転会社で頑張ろうとしたら、実質退職を強要されてうつ状態に陥った。

 しかし社内健診で全く異常は認められず、その段階で彼女はウチの門をくぐったんですよ。


 最初に来られた時、彼女は随分うわごとを言ってましたね。

 こんな世界はイヤだ、もう会社はイヤだ、子供に会いたい、子供に会いたい、子供を産みたかったと……

 旦那さんから詳しく事情をうかがいましたが、なるほどそうなるのも無理はないという状況でした。

 心瀬さん、恐らく元々は大人しめではあるけどかなり可愛らしい女性だったんだろうと思いますが、ここに来られた時はげっそり痩せてしまわれて。眼の下はクマが浮いていたし、顔色も真っ白……というか血の気がなかったです。

 何故あの状態が健診で異常なしとされるのか、私にも疑問でした。


 しかし――

 私たちのプロジェクトにとっては、願ってもない人材だったんです。彼女は。

 それについては……申し訳ないが、さすがにお教えすることはできませんね。企業秘密に関することなので。

 え? 最近全国で頻発しているネットのシステムトラブルと……彼女が? 何故?

 ……いや、まさか。あのAIにそこまでの――



(これ以降、記録音声が乱れて聞き取れない)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る