第2話「目覚め」




――…ター――




(……)




――…スター――




(……なんだよ。もう少し寝かせてくれ……)




「マスターッ! いい加減起きてください!」




「ッ!」




「……マスター? 大丈夫ですか?」






 マスターと呼ばれた黒髪の美青年――春は混乱の最中であった。


 先程、睡魔に襲われ自宅の机に突っ伏していたが、何時の間にか書斎と思われる場所で知らない人に起こされたからである。


 混乱している春であったが、目の前の人――少女は話を続ける。






「先程マスターが行なった魔物配合によって我々エターナル・ヴェインの魔石保有量は半減以下になりました。……、一体何を合成したんですか? ここまでのエネルギー消費量は尋常じゃありませんよ」




「……。お前もしかしてアルファか?」




「何当たり前のこと言ってるんですか? もしかして寝ぼけてます?」




「いや、まぁそうだな、うん。悪いんだが、一人にしてくれないか?」




「現実逃避ですか? ……、分かりました。後でまた聞きますからね?」






 そういうと少女――アルファは部屋を後にしたと同時に春は頭を抱えながら机に突っ伏し叫んだ。






「おぃいい!!!! どうなってんのぉおおお!!! 何でEoCの世界にいるのぉおお!!?? 俺の体PCになってるんだけどぉおお!!!」






 春は混乱している頭を抑えながら現状を把握するために冷静になる。






「ふぅ……。落ち着こう。とりあえず、ここは執務室であることは間違いないだろう。俺がレイアウトした通りだし。次に今が何時なのかだけど、さっきアルファが魔物合成がって言ってた……、あ」






 現状を冷静に把握していくととあることに気付いた春。先程アルファは魔物配合が行なわれたと言っていた。春は先程、こちらの世界に渡る前にやっていたことがある。それは……。






「ラスボスの配合……。終わったかも……」






 ゲーム中は自主的に動くことがなかったNPCであったアルファが、まるで自我を持ったように動いていた。先程配合したラスボスであるマグナスだけが自我を持たず動かないとは考えにくいだろう。そして、マグナスは拠点に召喚したままである。




 顔を青ざめる春。何か対策をしなければと考えていたその時、部屋の扉がゆっくりと音を立てて開く。そこには、3対6枚の光翼を輝かせる幼女――マグナスとその後ろに顔を引きつらしたアルファが居た。




 まずいと思った春は、直ぐに対処できるように身構える。しかし、一向にマグナスは動かない。それどころか何故か春の顔を見て泣き出す。突然泣き出したマグナスにアルファは背中をさすりながら春を非難するように見る。






「……マスター。この子に何をしたんですか?」




「いや、何もしてねぇよ!?」




「では何故マスターの顔を見た瞬間にこの子が泣きだしたのですか?」




「は、はぁ!?」




「ヒック…ヒック…」




「よしよし。大丈夫ですよー? 私が付いていますからねー? ……マスター?」




「何か良くわからんが、申し訳ございませんでした!」






 状況が良く分からない春であったがここは謝らないといけないと何故か思い直に謝る。泣き止んだマグナスは泣いていた理由を説明する。






「ホムンクルスよ。わらわはもう大丈夫じゃ。それで主――ハルよ。ありがとうなのじゃ」




「わらわ? のじゃ? ……ラスボスってこんな喋り方だったのか……」




「そんなことはどうでもよいのじゃ! ハルよ! 主だけじゃ! 主だけがわらわを再びこの世に誕生させてくれたのじゃ! 感謝するぞ!」




「お、おう? よかったな?」






 何のことを言っているのか分からなかったが、とりあえず話を合わせることにした春――ハル。混乱の中であったが、合成後の魔物はレベルが1であるためマグナスが何かできるはずも無いと思いひとまず安心する。


 


 ハルの安心をよそにマグナスの話は続く。






「うむ。それよりも忌々しい3神竜め……。生みの親が誰か忘れたのじゃあるまいな? わらわの体を使って世界を作りよってからに……。じゃが、再び肉体を得た。今に見ておれよ? ……、ハルよ。世界級の魔法が使えないのじゃが?」




「何物騒な魔法使おうとしてんだよ!? ってかあんたは今レベル1だし、なんならあんたを生み出すために3神竜使ったからもうこの世界にはいないぞ!?」




「何を馬鹿なことを言っておるのじゃ。3神竜はわらわと同じ不滅じゃ。わらわがそうあれと生み出したのじゃからな。それにわらわはレベルという概念に囚われることなどない。何故ならわらわが世界であるからじゃ! ユグドラシルの核に触れればこんな世界……、……こんな世界……。ぬぉおおお!!!???」




「今度は何だよ!?」




「無い! わらわの核がどこにもないのじゃ! わらわの力の根源が!」




「……、つまり?」




「ここは別世界だということじゃ馬鹿タレ!」




「いや、そんなもん最初から分かってたよ!」




「なぜそれを早く言わぬ!!??」






 口論する2人。かたや世界級の英雄であるダンジョンマスターのハル。かたや世界そのものである――あったマグナス。2人の口論に常人であればその恐ろしさに口を挟むことなどできないだろうが、ここには彼ら程の力は無くとも世界級の度胸を持つ少女――アルファが居た。




 パンッ! という両手で叩いた音が部屋に響く。口論していた2人は音がした方を向くとそこには無表情のアルファが居た。






「先程から何を言い争っているのですか?」




「い、いや、これは……」




「言い訳は必要ありません。マスター、魔石量が半減したのはこの子を誕生させたことが原因なんですね?」




「は、はい。そうです……」




「なんじゃ? わらわが原因みたいな「そうです」……そ、そんな食い気味で「事実です」……すまん」




「いえ、あなたが生まれたことは別に問題ありません。そもそもマスターの役割は多くの魔物を誕生させダンジョンをより強大な存在に昇華することですから。ですが、魔石量が半減するのはいただけません。魔石は拠点運営に必要なエネルギー源です。魔物配合装置を使う時は慎重にとあれほど注意したのに、マスターときたら……」




「あぁ。あれはアルファが言ってたのか」






 当然、アルファはリアルの存在ではないため忠告を受けたことが無いと思っていた。しかし、時折魔物配合をし過ぎて資源が枯渇しかけたときに「エネルギーが10%を切っています。利用は計画的にお願いします」と通知が来ていたことを思い出す。あれはアルファが送っていたのかと思うハルであったが、だからアルファの怒りが収まるわけではない。反省の色を見せないハルにアルファは告げる。






「マスター。新たな魔石入手手段を確立させるまで魔物配合を禁止します。勢力を拡大する以前にダンジョンを維持することができませんから」




「いやいや! ちょっと待てよ! 何勝手に決めてんの!? ってか魔石入手手段ってもう既にあるじゃん!? 魔物トラップを作って魔石集めしてるじゃん!?」




「私にダンジョン統括権限をお渡ししたことをお忘れですか? マスターが本気で望めば、返上いたしますが……よろしいので?」




「うぐッ……。いや、これからもよろしくお願いします。アルファ様……」




「はい、よろしくお願いいたします、マスター。それと魔物トラップですが、魔石量が一向に増えないことに気付き調査したところ外部にある全ての転移ポータルが反応しないことが分かりました」




「えっと。それって……」




「はい。我々エターナル・ヴェインは未知の大陸もしくは世界へ転移したとみてよろしいでしょう」




「ええええ!!?? それを早く言えよぉおお!!!!」




「さっきわらわも言ったはずじゃ!! この世界はユグドラシルではないと!!」




「アルファ! エターナル・ヴェインの防衛レベルを最大限にし、各大臣を玉座の間へ集めろ!」




「承知いたしました」

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