緋月行人


 ピピピッ…ピピピッ…と目覚まし時計が鳴り続けるが、この部屋で寝てる男はいっこうに起きる気配がない。


 突然部屋の扉が勢いよく開かれる。


「『   』いつまで寝てるの、早く起きないと終業式に遅れるでしょ」


 女性は、怒りながらベッドに近づくと男は涎をたらしながら寝言を言う。


「後、3時間……」


「『   』3時間も寝てたら終業式に間に合わないでしょ」


 女性は、もう我慢の限界にきたのか、男がくるまってる掛け布団を勢いよく取り上げる。


「うっ、寒い死ぬ」


 男は、わざとらしく体を丸めてぶるぶると震える様にし始める。


「いつまでそんなくだらない事をしてるの、いい加減起きないとぶつよ」


 と言われ男は、バッと慌ててベッドから飛び起きる。


「はいっ、今すぐ着替えます」


 男は、ベッドの上で正座をし、女性に部屋の外に出てもらう。


「ふーっ、危ない危ないあれ以上睦月を怒らしたら何をされるか」


 男は、想像してしまい体を震わせる。

 

 ベッドから下りて部屋の壁に掛けてる制服に着替えて一階にいる睦月の所に下りていく。


 男は、朝ご飯を食べずに睦月と玄関から出て学校に向かう。



「『   』、最近学校で変な噂があるんだけど知ってる?」


「変な噂?知らないな」


 男は、首を左右に振り睦月にどんな噂か聞く


「それがね、学校の窓に女の子が写るんだって」


 睦月は、手を前にたらし左右に揺らす。


「た、ただ写ってるだけなら後ろに人が立ってただけかもしれないだろ」


 男は、ぶるっと体を震わせる。


「いや~、それがね女の子は黒い何かから逃げる様に走ってるんだって。で、見た子が後ろを見ても誰もいなかったんだって」


 睦月は、顔を笑顔にしながら、顔を近づける。


 男は、睦月を押し返し走ってその場から逃げる。


「ちょっと待ってよ」


 睦月は、男を追いかけて走り出す。



 男と睦月は、急いだお陰でぎりぎり終業式に間に合い、無事に終業式を終えて教室に入るとクラスメイト達は、夏休みの予定を話していた。


 男と睦月も夏休みの予定について話す。


「ねえ『   』朝話してた噂を調べるの手伝ってよ」


「いや無理、夏休みは家でゆっくり寝るという大事な予定が入ってるから」


「はあ~、じゃあ予定はないのね」


「いや、だから家でゆっくり寝る予定があるんだって」


 男は、腕を組み睦月に文句を言う。


「じゃあ、明日『   』の家に行くからちゃんと起きていなさいよ」


「いや、人の話し聞いてた?」


 男は、睦月に頭大丈夫かと思ってるとガラガラっと扉が開く。


 おーい静かにしろーと言いながら教室に先生が入ってきた。



 そして、先生は夏休みの宿題と注意事項を話し終わるとさっさと教室から出ていく。


「『   』私達も帰りましょ」


「そうだな帰るか」


 男と睦月は、鞄に宿題とプリントを片付けて教室を出る。



 校門から1歩足を踏み出した時、周りの音が一瞬消える。


「『   』どうかした?」


 何か変だと思ったけど気のせいだと思い睦月に何でもないと言い睦月の隣を歩く。


「ふーん、何かあるならちゃんと言ってよ」


「あ、ああ分かった何かあったら言うよ」



 家の前で睦月と別れて家にただいまーと言いながら入る。


「あっ、そういえば今日母さん仕事で居ないんだった」


 男は、キッチンに向かい何か無いかと冷蔵庫を開ける。


「うーん、何も無いな。コンビニで何か買ってくるか」


 男は、二階に上がり服を着替えて財布を持って外に出る。



 コンビニに向かって歩いてると前から歩いてきたおばばに話しかけられた。


「こんにちは『   』ちゃん明日から夏休みだね~また寝て過ごすの?」


「いやーそれが睦月のせいで寝て過ごす予定がなくたったんだよ」


 男は、肩を落としため息を吐きながらおばばに話す。


「まあ、睦月ちゃんと遊ぶのね仲が良くて良いわね」


 おばばは手を合わせて微笑む。


 まあ仲が良いのはたしかだけど、おばばに言われると恥ずかしくなり、じゃあまたねと言い逃げる様に走りだす。



 コンビニに着き店内に入る。


 中はすごく静かで誰も居なかった。


 大きな声で呼びかけても店員は、出てこなかった。


「おかしいな客も店員も居ないって」


 不安になり急いでコンビニから出る。


 取り敢えず家に帰ろうと思い走って、来た道を戻る。



 家に帰り自分の部屋にあるベッドに倒れるように寝転ぶ。


「そうだ、睦月に電話してみるか」


 電話をかけても音は鳴らず繋がらなかった。


「繋がらないな」


 スマホを枕の横に置くと急に眠くなる。

 

 

 目が覚めると部屋は、薄暗く空に月が出ていた。


 男は、何気なく外を見ると道の真ん中にゆらゆら揺れながら歩く黒い何かがいた。


「あれは、何だ?」


「あれは、名の無いものよ」


 急に後ろから話しかけられびっくりして、誰だと言いながら勢いよく後ろを見ると、自分と同い年くらいの女の子が立っていた。


「私?私はナナ。君は?」


「『   』…」


「ふーん、君は名を無くしたものなのね」


 自分は、言ってる意味が分からずナナと言う女の子に名を無くしたものについて聞き返す。


「私には、君の名前だけ聞こえなかったから私は、そういうものを名を無くしたものと言ってるの」


 自分は、もっと詳しく教えてくれとナナに言う。


「たしかにあれだけでは、説明が足りなかったね、さっきの説明を詳しく言うと世界に刻まれていたものが、何かあって無くなってしまったから君の名前は、聞こえなかった。それに、世界にとって名の無い君みたいなのは、異物みたいなものだからここにいるの」


 じゃあ、どうやったら元の世界に戻る事が出来るかナナに聞く。


「うーん、分からない。でも取り敢えずここでの君の名前を決めましょう」


 自分が名前を考えているとナナが


「あなたの名前はハチ。これで決定、異論は認めないから」


「いや、何でハチ?もう少しカッコいい名前にしてよ。さすがにハチはちょっと…」


「良いじゃない、私がナナだからあなたはハチ良いわね」


 ナナは顔を近づけ目が笑ってない笑顔で自分に言う。


 何故か睦月の顔が頭に浮かぶ。


「分かったハチで良いからその顔をやめてくれ」


 結局名前はハチで決まってしまって自分は少し肩を落とす。


 




 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る