第30話 修羅場と書いて恋バナと読む①

「やぁやぁ、お二人さん」


 扉を開き、部室に黒崎綾乃が部室に入ってくる。


「黒崎先輩が来るなんて珍しいですね」

「私だって部員の一人だからね、何かおかしいかい?」

「いえ、そんなつもりで言ったわけでは……」


 有栖川瀬奈は両手を振り慌てて否定する。


「黒崎さん、何か用かな?」

「月ヶ瀬ちゃんは相変わらず塩対応だなー、昔みたいにならないでよ」

「昔……?」


 有栖川は疑問を持ち、月ヶ瀬は何も答えなかった。


「さて、問題。 ここにいる三人の共通点は何でしょうか?」


 突然黒崎綾乃は人差し指を立てると二人に向けてクイズを出してくる。有栖川は紅茶を飲んだタイミングでクイズを出されたのですぐにペットボトルを離して口に含んだ水分を飲み込もうとする。しかし、問題について考えるよりも先に黒崎綾乃はその答えを口にする。


「正解は全員がヒロ君に好意を抱いているでした」

「ぶーっ!」


 有栖川は紅茶を噴出し、月ヶ瀬はカードに触れていた手をピタリと止めて黒崎綾乃を見つめた。


「あっは! 二人共想像通りのリアクションしてくれるね。 見ていて楽しいよ」

「げほっげほっ……い、今なんて?」

「だから、この場にいる有栖ちゃん、月ヶ瀬ちゃん、そして私の三人はヒロ君の事が好きだって言ったんだよ」

「なっ……えっ……二人も?」

「黒崎さん、何を言っているのかしら?」

「自分を否定しないあたり、有栖ちゃんは正直だねー。 月ヶ瀬ちゃんは素直じゃないなー」

「あなたは天野君と別れたのよね? それなのに今でも好意を?」

「うん、大好きだよ」

「だ、だいす……」


 黒崎の発言を聞いて有栖川はゆでだこのように顔が真っ赤になる。


「そうでもなければ、元カレのお願いなんてなんて聞くわけないだろ?」

「そうね……おかしいとは思っていたの」

「さっすが優等生、お見通しだったかー」


 あはははーと、わざとらしく黒崎綾乃は笑った。


「それで、わざわざそんな事を言いに来たのかしら?」

「口調が昔に戻ってるよ、月ヶ瀬ちゃん。 私はヒロ君に影響を受けた今のあなたの方が好きだな」

「話を逸らさないで」

「はいはい……もちろん違うよ。 ヒロ君がいない間に確かめようと思って」

「天野がいないってなんで知っているの?」

「これ、何か分かる?」


 有栖川の問いに対して黒崎は携帯のような機材を一つ取り出すと二人に見せてくる。赤色の点滅がディスプレイの中心で点滅していた。


「これって……」

「GPSね。 この点滅している場所は西校舎かしら? ……あなたまさか」

「うん、今ヒロ君は向こうの校舎にいるみたいだね」

「えっ!」


 有栖川のあまりにも理想的すぎる反応を見て黒崎はニヤリと笑う。


「ヒロ君はまだこっちにはこないみたいだから、今なら三人で安心して話せるよね?」

「…………!」

「安心して。 二人にはもうつけてないから」

「もうって……最初はつけていたって事ですか?」

「さぁ、どうだろうね?」

「黒崎さん、犯罪行為をしている自覚はあるの?」

「そんなのどうでもいいじゃん。 二人はヒロ君にとって大切な人みたいだから、これでも信頼しているんだよ? ……教えてほしいんだ。 二人はどうしてヒロ君を好きになったの?」

「えっ……」

「恋バナみたいなものだよ、コイバナー! ヒロ君って別に超絶イケメンってわけでもないでしょ? それなのに学年一秀才で美人と称されている元生徒会メンバーと今話題の美少女転校生から好かれている……常識的に考えてありえないよね?」


 ラノベや漫画じゃないんだからーと、黒崎綾乃は付け足しながら笑った。

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