第19話 心配

 俺の予想は良い意味で裏切られ、グランドショッピングモールにあるカードショップ内で必要なカードは揃えられたので外に出る必要はなくなった。

 久しぶりに来ると品揃えもずいぶんと変わっているなぁ……今度は大和田と一緒にここに来てみよう。


「さてと、かなり早めに終わったな」


 携帯を取り出して時刻を見ると正午になる少し手前だった。一日かかると想定していたのでこれは誤算だった。


「有栖川、おなか空いてる?」

「んー、ぼちぼち」

「同じ階にフードコート、一階に行けば個店があるけどどうする?」

「うーん、お金も結構使ったし、フードコートで済まそうかな」

「りょーかい。 それじゃ行くか」


 俺と有栖川はフードコートへと向かう。土曜日なだけあって館内を歩く人が多い。有栖川は前から歩いてくる同年代、それこそほとんどの男性から目を引いていた。隣で歩くとよくわかるなー、これ。


「子供の頃来たことはあったけど、ずいぶんと変わったわね」


 集まる視線を気にも留めず有栖川は口を開く。こういった複合施設はお店の入れ替わりがよく起きる。ここには市外からも人が訪れるので利用度が高い分、競争率も激しいのだろう。


「さーて、ついたけど……激込みだな」


 ちょうどお昼を食べる頃合いなのもあってフードコートは人でごった返していた。


「先に席を確保したほうが良さそうね」

「それなら俺が見つけたらラインで連絡するから、先に選んでくれ」

「そう? ありがとう」


 有栖川と別れて俺は空いている席を探し始めた。ここには何度か足を運んでいるので俺が食べようとしているものは決まっている。一方の有栖川はまずお店から決めないといけない。それなら俺が先に場所をとっておいたほうが効率良い。


「空いてる場所、空いてる場所……」


 フードコート内をぐるぐると散策しているとタイミングよく食事を終えた男女が席を立った。すかさず俺は入れ替わるように席にカバンを置いて場所を確保する。後は有栖川を待つだけだ。

 ラインで俺がいる場所を有栖川に伝え終えたので彼女が来るまでSNSを見始める。



 うわ、さっき有栖川が当てたカードお店によっては三万円で買い取りしているのか……そういえば月ヶ瀬先輩は今日午前から大会に出ているみたいだけど結果は……まだわからないか。


 先輩は大会でまだ結果を残せていなかった。半分以上は俺が彼女の前に立ちはだかったのが原因ではある。真剣勝負の場で俺に負けて悔しがる先輩ときたら……確かにあれは愉悦に浸るのもよくわかる。


「……少し遅いな」


 この場所を取るのに十分ほど、ネットの海を泳ぎ始めてから少なくとも五分以上は過ぎていた。各店に列はできているが、どこも流れは順調で食べるものを決めたらそこまで時間はかからないはずだ。

 何を買うのかよっぽど悩んでいるかと思った矢先、有栖川からラインが届く。


「天野、助けて」

「……!」


 その文章を見るなり立ち上がって周囲を見渡した。俺と違って彼女は目立つ。どこにいるかはすぐにわかった。

 俺は彼女のもとへと走り出す。有栖川の周囲には同い年ぐらいの男性が何人か彼女を囲うように集まっていた。


「一人なんでしょ?」

「俺たち暇なんだよ」

「もし良かったらこの後、俺たちと遊ばない?」


「有栖川!」


 なんとも古典的なナンパの掛け声をしている男どもの間に入り、有栖川の腕をつかんだ。


「あ、天野」


 背後から腕をつかまれて一瞬肩を震わせたが俺の声と顔を見てすぐに表情が和らいだ。


「あ? 誰だよ、お前?」

「こいつ……ほら今噂のサイテー男だよ」


 え、俺の噂って校外にまで広まってるの?


「こいつ、学校の外でも有栖川さんに付きまとっているのか?」

「サイテー人間、とんでもない奴だな」


 ここまでの会話の流れでようやく有栖川に群がっていた男達が同じ学校の生徒だと理解する。そうだよな、さすがに別の学校にまで広がってないよな?

 ……あんなデマが伝わっていたら泣くわ。


「違うの、今日は天野と一緒に買い物してたの」


 有栖川が俺のそばに寄りながら男どもに説明する。


「ほ、本当ですか、有栖川さん?」

「そいつに騙されているんじゃ……」

「一体どんな弱みを握られているんですか!」


 おいこら。なんで俺が有栖川の弱みに付け込んでいる前提なんだ。


「行こう、有栖川」


 俺は彼女の手を引っ張ってそのまま男たちから離れた。背後から彼らに何か色々と言われているが、これ以上面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁と無視をする。


「ごめん、天野。 どのお店にしようか悩んでいたら同じ学校の人に声をかけられて、話をしていたら離れるタイミング無くなって、ラインであんな文章を返しちゃった」

「有栖川に何かあったのかと焦ったけど、安心したよ。 何もされてないよな?」

「うん、ありがとう」

「良かった」


 俺は胸をなでおろす。あの文章だけ見たら誰だって不安になる。


「あ、あの……腕」

「す、すまん」


「あっ……」


 いつまで掴んでいるのかと指摘された俺は慌てて手を離して謝罪する。彼女が転校してきた初日も似たような事したな……

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