第7話 キラキラ金曜日
「……そう、思っていたんだけどな」
教室の片隅、自分の机で一人パンをかじりながら俺は呟いた。本日は休みの日の前日、学生たちにとってはテンションの上がるキラキラ金曜日……そう、金曜日である。
気がついたら今日を迎えていた。決して何もしなかったわけではない。むしろあの日から俺は誰かにお願いできないかと活動を始めたぐらいだ。しかし……
「なんか、前よりも俺に対する視線が一層キツくなってるよね」
なんでも今話題の転校生を初日に拉致して空き教室に連れ込んだという噂が広まっているらしい。微妙に真実が入り混じっているせいで余計に質が悪い。
生徒指導の教員に呼ばれた時は退学を覚悟したよね……事情を把握していたオガ先が助けてくれたので免れたが、オガ先はオガ先で今の状況を知って爆笑していたし……えぇい! 俺に味方はいないのか!
クラスメイトは絶対に俺と有栖川を近づけないように常に壁を作っていた。彼女は誤解だと周囲に話しているみたいだが……
「天野に脅されてるのか?」
「怖かったね、でももう大丈夫だよ有栖さん!」
「天野はサイテー人間」
誰一人として信じてくれないらしい。イソップ物語の主人公かな? ここまで来るとむしろすがすがしい。
もしも俺の机の上にいたずら書きとかスリッパを隠されたら流石に問題になるが、そこまでは発展していないので良しとする。カードゲーマーたるもの、この程度の逆境を跳ね返してこそなのだ!
ちなみに、この噂はすでに他のクラス、他学年まで広がっているらしい。ごめん、やっぱつれぇわ……
「部員……どうするかなぁ」
このままでは廃部になりかねない。あそこまで啖呵を切ってしまった以上後には引けない。せっかく入部してくれた有栖川にも、部活を作ってくれた先輩にもこのままではメンツが立たない。
「俺が話せる相手か……」
消去法で行くとまっさきに消えるのは一度も会話をしていない人間である。初対面の相手に「部活入らない? 名前だけでもいいから」と言われたらどう思うだろうか? ましてや女の子を監禁したなんて噂が流れている相手から。
もし俺が相手側だったら逃げるね、うん……怖すぎるわ。
次に可能性があるとすれば俺を知っている人。例えば同じクラスにいる人たちが当てはまるが無論、誰も俺の言葉など信じないだろう。それでも俺はやってない……
俺を知っている人から派生すると中学が同じ人も候補に挙がる……いないわけではないが、同じ中学出身の人は個人的な理由で誘いづらい。よって不可。
大和田がいてくれたら一瞬で解決したというのに、あいにくあいつは別の高校だ……畜生、まさかあいつの事がこんなに恋しくなるなんて。
「後は……」
いないわけではない。実を言うとたった一人だけ候補が存在する。しかし……
「いくらなんでも、それだけはなぁ……」
常人であれば絶対に頼まない。というか普通の思考をしていたらその答えにはたどり着かない。
「でも、それしかないか」
頼めば承諾してくれる可能性が高い。俺の知っているあの人はそういう人間だ。
「背に腹は代えられない……よな」
俺は覚悟を決めて席を立つ。立ち上がった瞬間に教室内の視線が一斉にこちらを向いた。昼休憩中なので何もおかしな行動ではないはずだけど……ほんともう、どれだけ警戒されているのかな俺!
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