第11話 国家魔術官試験ー4

「「はぁぁぁぁぁ!?」」


 会場から当たり前のように、そんな声が聞こえた。

 ここまでとは思ってなかったが、まさかこんなに俺の魔力が強いとは。

 これもママの愛情おっぱいの為せる技か。


「や、や、や、夜虎君!?」

「僕の血、何かやっちゃいました?」

「やっちゃったよ! なにこれ! なにこの血! どんな魔力が込められてるの!? これでも僕、相当魔力量が多い方なんだけど!? まるで爆撃されたみたいにはじけ飛んだけど、僕の血!」


 土田さんが助けを求めるように、俺の父さんと母さんを見る。

 するとパッパが、グッジョブとサムズアップしてた。マッマはずっとエアハグしてとファンサうちわを見せてくる。


「土田さん土田さん! 僕、上級ですか!」

「え? そりゃもちろん。上級の僕の血が爆散したから……いや、だけども! 一体これなんて報告すれば」

「大丈夫です! 父さんと母さんの息子は天才でしたって報告で」

「はぁ……とりあえず。じゃあ……白虎夜虎君。上級魔術官までの受験を認めます」

「やった!」


 困り果てている土田さんと、ざわつく会場。

 一応、魔力測定試験は終了した。


 俺は静香お姉ちゃんの元に戻った。

 なんか放心していた。


「……静香お姉ちゃん?」

「はっ!! 少しぼーっとしていたわ。それにしても……あなた……とんでもない魔力を持ってるのね。稀に魔力のない両親から強い魔力を持つ子が生まれるように、突然変異的な成長をみせると聞いたことがあるけど……それにしても異常よ」

「あはは、そうなんですね。よくわからないです」

「……でも、魔力だけで強さは決まらない。魔力が強いばかりに、油断してシンに殺された魔術官は数えきれないのだから。しっかり、精進しなさい。あなたには才能がある」

「はい!」


 少しばかり波乱とお約束のあった魔力測定試験も無事合格した。

 次は実技試験が行われる。

 

「えぇ。ごほん、では初級の方は、部屋を出て面接にお進みください。中級以上の資格のある方はただいまより実技試験を行います」


 そして100人ぐらいいた受験者は、俺と静香お姉ちゃん含めて10人ぐらいになった。

 中級相当の魔力を持つ……というだけでこれほど減るのだ。

 一般人がシンと戦うのが難しいのがよくわかる。


「10人ですね。試験は模擬戦闘を行います。祓魔刀、五行霊符等、自由に使って結構」


 どうやら試験監督は土田さんのままのようだ。

 すると、試験場の端のブルーシートが外され、そこには大量の砂があった。

 

「では、始めます。土人形壱式」


 土田さんが手をかざすと、その大量の砂が一人でに動き出し、2メートル前後はある大きな体格の成人男性ほどの土で出来た人形が10体ほど産まれた。

 なるほど、土属性は魔力で土を操ると書いてあったが、ゴーレムか。

 そして実技というからには、あの人形を倒すのが試験なのだろう。それにしても10体の土人形を操るなんてすごい技術だな。


「この土人形の強さは、およそ罪度ギルティチュード2のシンと同等です。倒した人を合格とします」


 だから土属性の魔術官が必要だと父さんが言ってたのか。

 うん、模擬戦闘なら相手を傷つける恐れがあるが、これなら思いっきりやれるしな。

 すると俺の隣の受験者が前に出た。


「よっしゃ! 今年こそ!!」


 すると持ってきた布に撒かれた荷物をほどく。

 中には、日本刀のような刀があった。

 あれが祓魔刀か。身体強化が得意でない人や、魔力が弱い人が補助的に使うと父さんに聞いたことがある。


「おらぁぁぁ!!」


 そしてその人が切りかかる。

 おぉ、土人形の片腕を切り落とした。……が。


「ぐふっ!?」


 もう片方の腕で殴り返されて、みぞおちに一撃。

 膝をついて、そして下がった顔面を蹴られて気絶した。

 人間なら最初の一撃で、相手がひるむし、隙ができるだろうが相手は土人形だ。

 腕がなくなったぐらいで止まらない。そしてシンもその程度では止まらない。

 

「そう思うと結構、理にかなったテストだな。なるほど……あの人は可哀そうだけど不合格かな」


 俺がふむふむと唸っていると、横で静香お姉ちゃんが前に出た。

 

「夜虎君、魔力測定試験は何も言わなかったけれど、この試験はケガをするから、今日は見学だけで帰りなさい」


 ツンと俺を突き放すように厳しい言葉を言う。

 でもそれは優しさだとなんとなくわかる。


「静香お姉ちゃんって優しいんですね」

「――!? ベ、別に小学生だから少し優しくしてあげただけよ」


 すると少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまう静香お姉ちゃん。

 なるほど、美人お嬢様系ツンデレ属性と。メモメモ。

 

 照れ隠しなのか、そのまま土人形の前に出た。

 そしてその手に雷を纏う。


「おぉ、やっぱり雷属性! さすが紫電家」

「――雷槍!!」


 その雷の槍が、土人形を貫いた。

 貫いた先から、ボロボロと崩れ落ちる土人形。


「さすが、10年に一人の天才と呼ばれる静香さん。文句なし、実技試験中級、合格です。続いて、上級に挑戦しますか?」

「ええ、お願い」

「では、少しお待ちください」


 静香お姉ちゃんはあっという間に、実技の中級試験に合格した。

 周りを見ると他の人も終わったようで、残すところは俺だけとなった。

 すると土田さんが俺の前に立っていた土人形の魔術を解いた。


 さらさらと砂になってしまう。


「夜虎君、棄権でいいね? 大丈夫、君はすぐに強くなる。あんなすごい魔力があるんだ。焦る必要はない」


 その眼は間違いなく子供を見る目で、息子を見るような優しい目だった。

 眼の下がくまだらけだが、やっぱり土田さんは本当に優しい人だ。


「いえ、やらしてください!」

「…………で、でもね。試験だからちゃんと攻撃しないといけないんだ。打ち所が悪ければケガで済まないかもしれないんだよ?」

「大丈夫です!」

「し、しかし……困ったな……年齢不問とはいえ……ケガをさせたくないし。どうしたもんか」


 うーん、中々許可がでないぞ。

 それは当たり前だし、土田さんの優しさをすごく感じるんだが。

 すると静香お姉ちゃんが俺の前にしゃがむ。


「やってみたいのね」

「……はい!」

「じゃあ一つ聞かせて。夜虎君…………あなたはなんで、強くなりたいの?」

「え?」

「お父さんとお母さんの期待に応えるため? それとも親の命令で仕方なく? あなたは何のためにシンと戦うの? あなたはその答えを持っているの?」


 俺は考えた。

 なんで強くなりたいかと言われば、最初は強くなりたいから強くなりたかった。

 速く走れるのはかっこいいし、魔術がある世界でそれを極めれるなら極めたい。

 そんな純粋な男心という奴だ。


 でも今は少しだけ違う。

 あの日母さんは死にかけた、そしてその脅威はいつでも襲ってくる。

 もしも罪度ギルティチュード7や8、そして9といった化け物が俺の大切な人の命を奪いそうなとき、何もできず奪われたとしたら俺はきっと死ぬほど後悔するだろう。

 こんなに愛情をもらって強く育ててもらったのに、俺はなにをしていたんだと。


 だから俺が強くなりたい理由は、今はこれだ。


「――大切な人を守れる力が欲しいから」


 俺は静香お姉ちゃんの眼をまっすぐ見て答えた。

 すると静香お姉ちゃんが優しく笑って俺の頭を撫でた。


「…………そう。わかったわ。夜虎君……いえ、白虎家次期当主、白虎夜虎。紫電家次期当主――紫電静香が許可します。頑張りなさい」

「いいんですか!」


 静香お姉ちゃんが優しく微笑み、土田さんの方をみる。


「危なくなれば私が助けに入ります。だから彼に受けさせてあげて」

「そ、そこまで言うなら…………わかりました! 夜虎君! これもまた経験だ! 負けたことがあるというのが、きっと大きな財産になる!」


 そして土田さんが手をかざして、俺の目の前に土人形が現れた。

 俺の身長が1メートルちょっとなので、本当に二倍はある巨大な土人形。

 俺の後ろでは、静香お姉ちゃんが雷を纏い、いつでも助け出せる準備をしている。

 土田さんは、とても心配そうな目をしている。


 周りの受験者も、両手を握って、我が子が今から運動会で50メートル走を走る前のような心配そうな目をしている。

 

「さぁいつでもいいぞ!!」

「はい! よーし! 頑張るぞ!!」


 バチッ……バチッ………………バチバチバチバチ!!!!


「性質変化!? うっそぉ!? 6歳で魔術が使える!?」

「なんなの……その異常な量の帯電は…………」


 俺は雷を全身に纏う。

 そして、その雷で強化した体で。


「――雷槍!」


 パン!!


 全力で踏み込み貫いた。

 鉄の地面はへしゃげ、俺が通った後には何も残らない。

 その土人形は、跡形もなく木っ端みじんに吹き飛んだ。

 吹き飛んだ小石が土田さんの眼鏡のレンズを割った。ごめんなさい。

 

 先ほどよりも、静まり返った試験場。

 土田さんの眼鏡が落ちて割れた音だけが響いた。


「さすが、俺の子だぁぁ!! 夜虎!! だが、まだ魔力制御が甘い!! しかし、さすが俺の子だぁぁぁ!」


 今度は、野太い声も試験場に響き渡った。

 また俺の両親だけが、嬉しそうにはしゃいでいる。

 とりあえず、父さんにはグータッチでにこっと笑っておいた。


「うぉぉぉぉぉぉ!! 夜虎ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 声でっかぁ。

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