39「魔力の状況」

 ――父の呪いが発動してからの僕の魔力なんですが、朝起きると魔力満タン、それから魔法を全く使わずに過ごしたとして、夜寝る頃には大体半分くらいに減っています。


 バケツに小さな穴が空いていて少しづつ水が漏れる感じ、と言えば分かりやすいでしょうか。


 まぁ、そういう日は全く問題ありません。ひと晩寝て起きれば魔力満タンですから。


 問題は、魔法を使った場合ですね。


 一番ベーシックで得意な魔法でもある「風の刃」。あれなら百発撃っても魔力枯渇を起こしません。平常時ならです。


 それがですね、父の呪いのせいで半分しか魔力が使えないとしても余裕で五十発は撃てるはずですが、実際は三十発ほどで枯渇してしまいます。


 魔法一回当たりの消費量が大きくなっている様ですね。


 もちろん状況次第で魔法の威力や展開時間など使い分けますので、単純に三十発、とは言い切れませんが――


「とまぁ、以上が今の僕の魔力の状態ですね」


『質問でござる!』

「はい、ロボ」

『父の呪いってなんでござるか?』


 あ、ロボには説明していませんでしたね。


「僕の父、ブラムの事は以前に話しましたね」

『聞いたでござる。結界でこの世界を守ってくれている五英雄の一人でござるな』


「その父が、この世界を守るために魔術を使ってタロウを異世界から召喚したのも伝えましたね」

『聞いたでござる』


「その召喚の際に大量の魔力を消費してしまったんです。その回復の為に眠りにつき、その間、僕からも少しずつ魔力を吸収している様なんですよ。だから僕は今、人生最大の絶不調です」


『そうなんでござるか……。それでもあんなに強いヴァン殿、素敵でござる!』


 そう言って貰えると照れますね。

 しかしそろそろ父に目を覚まして欲しいですね。



 マヘンプクの洞穴のすぐそばの沢です。

 昼まで休憩してからロッコノ村を目指すつもりでしたが、この十日程の疲労を取る事を優先して、明朝の出発としました。


 空き時間を利用してタロウとロボに魔法についての授業を行い、ロップス殿とプックルに食糧採取をお願いしています。


「で、ヴァンさん。俺の魔力は一体どうなってるんすか?」


 そうなんですよね。どうなってるんでしょう。


 僕と違ってタロウの魔力は日々回復しているはずなので、いくら器が大きくてもいつかは満ちるはずです。もしかしたら既に満タンの可能性もあり得ます。

 しかし現在の魔力量については、今は忘れておきましょう。


 問題は魔力を感じられない、魔力感知が出来ない事ですから。


「このままでもバラ色のニート生活が出来るんなら、俺はどっちでも良いんすけど」


 確かにそう。

 五大礎結界の仕組みが『生け贄に充分な魔力量があれば良い』であれば、魔力量さえ回復すれば問題ありません。


 しかし、『充分な魔力量の生け贄が、その自分の魔力を使う』という仕組みだと魔力感知が出来ないと難しいでしょうね。


 その辺り、アンセム様にもう少し詳しくお伺いすれば良かったですね。

 あの時は竜の因子のお陰で全て解決したかに思っていましたから。


「父の所まで辿り着きさえすれば解決できるとは思うんですが、一応練習は続けるしかないでしょうね」

「そっすかー。まーしょうがないっすね」


 ちなみにロボは精霊力の感知にすでに成功しています。プックルの帰リタクナル魔法を防ぐ練習の際ですね。タロウはロップスさんの魔力を使っていましたっけ。

 やはりこちらの世界生まれだと簡単にできるという事でしょうか。


 画期的な練習法でもあれば良いんですが、あいにくと僕は思いつきません。

 五英雄のどなたか、ガゼル様はあまり魔法が得意な方ではありませんので期待薄ですが、父やファネル様なら魔法も得意ですし、タイタニア様はアンセム様以上に長生きな方です。どなたかのお知恵にすがるしかないですね。


『ヴァン殿! 見て欲しいでござる!』


 ロボの全身が淡く薄い桃色に染まっています。


『上手に循環できてるでござろ?』

「上手になりましたね」


「それロボの精霊力なんすか?」

「そうです。例外もありますが、獣人や魔獣の魔力は赤系統が多いんです。霊獣もそうなのかも知れませんね」

「ふーん、そういうものっすか」


 ロボに先を越されて、少しいじけている様ですね。


「魔力の循環や応用に関しては、ロボより断然、タロウの方が上手ですね」

「…………やっぱそうっすか?」


 鏡で自分に見せたいですね。それはニヤケ過ぎでしょう。


「めげずに魔力感知の練習しましょうね」

「おす!」



 ロップス殿とプックルが戻って来ました。


『喜ベ、大量』

「タロウ喜べ、マヘンプクも獲ってきたぞ」


 ……マヘンプクは二人だけで食べて下さいよ。


 肉や野草や木の実など、二人のお陰で大分と備蓄が増えました。これならしばらくは大丈夫でしょう。


 昼食を摂り、昼寝も授業もたっぷりして、さらに夕食も摂りました。


 明朝出発したとして、トラブルが無ければ明後日にはロッコノ村に着くでしょう。


 ………………


 ロッコノ村到着です。

 全くトラブルもありませんでした。


 聞けばマヘンプクが出没する様になってからは、アンセム領からの旅人は初めてだそうです。


 でしょうねぇ。


 僕の作った地図では、ヴィッケルからロッコノ村までの危険度ランクは「下の上げのじょう」とありました。

 普通の旅人がキチンと準備すれば通れる程度を想定しています。

 毎夜訪れるマヘンプクの群れは、明らかに「上の中じょうのちゅう」です。普通の旅人が通れる訳がありませんね。



「なんもない村っすね」


 失礼ですよ、タロウ。

 実際なんにもない、至って普通の村ですけどね。


「あ、でも水は美味いっす。ペリメ村もヴィッケルの町も美味かったっすけど、ロッコウ村が一番口に合うっす」


 

 ……良く分かりませんが、それについてはノーコメントです。

 それに、ロッコウ村でなくロッコノ村ですよ。


「納屋つきの空き家をお借りできましたので、今夜はみんな屋根の下で眠れますよ」

「ひゃっほう! つってもキャンプみたいで屋外も楽しいっすけど!」


 タロウはいつでも楽しそうで微笑ましいです。

 彼、生け贄になる為の旅の真っ最中なんですよ、あれで。

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