7「魔力ゼロ?」
「さっぱりですか?」
「もう全くさっぱりっす」
村の子供たちも同じ方法で感覚を掴んだんですが。子供たちよりもタロウの方が循環させる能力は相当に高いと思いましたが、なぜでしょう。
「予定より早く進んでいますので今日はここで野営にするとして、もう一度魔力を入れてみましょうか」
街道から少し外れ、適当な木の根元に荷物を降ろします。
そして荷物からテントの替りに使う布を出し、二本の木に結わえて垂らす。風向きを考慮して、結わえた布で荷物を巻き、荷物の重さで押さえます。これで簡易的にテント張りは終了です。
風もそう強くないし、雨も降らなそうですし、充分二人寝られるでしょう。
「ほー。ヴァンさんて何でも器用にやりますねー」
「このくらい誰でもやるでしょう?」
「そうっすか? 俺はやったことないすけど」
まぁタロウはないかも知れません。引きこもりですし。
「食事は後で適当に作るとして、魔力循環の練習しましょうか」
「おねがっす!」
オネガッス。
これはなんとなく分かりました。少し慣れてきましたね。
手に魔力を纏わせタロウの手へと移します。今回は深すぎず浅すぎずのちょうど良い呼吸です。
タロウの全身が淡く輝いています。ゆっくりですが、丁寧な良い魔力循環ですね。
しばらく続けても乱れません。大したものです。
――そろそろ集中力の限界ですね。循環が乱れ、魔力が全身から霧散しそうです。
霧散しました。
「ふぅー。呼吸に気をつけただけで全然違うっすね」
「今度は自分の魔力を意識してやってみて下さい」
「おす!」
輝きませんね。
ふぅぅふぅぅと呼吸を繰り返すだけで兆しがありません。
八十年以上生きた中で、魔力を持たない人を見た事がないんですが、まさかタロウが初めてのそれなんでしょうか。
「やっぱ俺って魔力ないんすか?」
うーん、参りました。
結界の礎になるには大量の魔力量がいるはずなんです。
五英雄の中で最も魔力量の少ない『獣人の王』ガゼル様でさえ僕の倍ほどだそうです。
父が僕を礎に選ばずにタロウを選んだ事からも、少なくとも僕以上の魔力量がタロウにはあるはずなんですが。
これは悩んでもしょうがなさそうですね。アンセム様に会った時に相談してみましょう。
「タロウ、心配しなくても魔力の無い人なんていません。まだコツが掴めていないだけでしょう」
「そっすか? それなら良いんすけど……」
魔法で火を熾し、干し肉や保存用のパンを串に刺して火の側に立てます。今夜は簡単に済ませましょう。
「ヴァンさん、質問良いっすか?」
「構いませんよ」
「循環の練習で、とりあえず自分のではないですけど魔力の雰囲気は分かったっす」
「えぇ」
「そんでっすね、その魔力で火とか水とか出せる意味が分かんないんすけど」
へぇ。
ここは大袈裟に褒めておきましょう。村の子供たちにするのと同じ様に。
「鋭いです」
「え? そう?」
タロウがはにかむ。
「やはり魔法の才能があるんじゃないでしょうか」
「いやそんな俺なんてそんなことそんな」
めちゃめちゃ照れてるじゃないですか。褒められ慣れていませんね。
「いや実際に鋭いです。火や水を魔力で作っている訳ではないんです」
「どゆこと?」
疑問顔ですね。
「火の魔法には火の媒介が、水の魔法には水の媒介が必要です」
「え? でもヴァンさんが魔法使う時って何も持ってないっすよね?」
これまた鋭いです。良く見てますね。
「はい、その通り何も持っていません。いつも体が触れている、ある所に存在する媒介を使っています」
「分かったっす!」
さすがタロウ。本当に鋭いですね。
「服っすね!」
ズッコケそうになりました。メガネがちょっとズレたじゃないですか。
これは全く鋭くありません。期待し過ぎでしたか。
「ハズレです。答えは、この空気です」
「空気……、空気に火も水もないっすけど……」
そう思いますよね。けれどそれがあるんです。この世界で魔法を使う者みんなが分かっている事なので、もったいつけるほどの事ではありませんが。
「雨の日には空気が湿っていませんか?」
「湿ってるっす」
「焚き火に近づくと火の粉が舞いませんか?」
「舞うっす」
「目には見えませんが、空気には様々な要素が溶け合っています。それを選び取り、魔力によって増幅や操作をするのが魔法です」
「なるほどっす。なんとなく科学的な気がするっす」
カガク? それはちょっと分かりませんが、タロウは理解が早いですね。
「また、魔力を使うという点では、魔法とは異なる
「もっと難しいのもあるんすか」
干し肉もパンも良い香りがしてきましたね。
「とりあえず食べて、明日も歩き通しですので早目に寝ましょうか」
食事を済ませ、簡易テントに入ってマントを被って就寝です。
「ヴァンさん、寝る前にもう一回だけ魔力入れて貰っても良いですか?」
「もちろんです」
練習熱心で感心です。
再度タロウの右手に魔力を移しました。
やはり魔力を循環させる能力は大したものですね。全身の隅々までしっかりと循環しています。
「ちょっとやってみるっす」
そう言うとタロウは右手の人差し指を顔の前に立て、循環させていた僕の魔力を指先に集中させます。
うーん、と唸ったタロウが――
「火!」
――小さくそう唱えたタロウの指先から、細い火の柱が真上へ立ち登り、そのまま空へと吸い込まれて行きました。
「出たっすヴァンさん! 火出たっす!」
さすがの僕もこれは驚きました。まさかまだ自分の魔力も感じられないタロウが、借り物の魔力を使って火の魔法を使うとは。
「正直に言って驚きました」
「俺もっす!」
魔法を使うセンスには相当非凡なものがあるようですね。
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