第79話 上客の皆さん

 

 俺達は、66階層を攻略して、ついに前人未到の67階層に続く階段を登った。


 俺達の戦いを見ていた『氷の貴公子』の面々は、一度67階層を見てから、すぐに帰って行った。


 まだ、自分達の実力じゃ67階層は無理と判断したようである。


 因みに、67階層は火山ステージ。

 ハッキリ言うと、暑すぎるのだ。


 俺達も、このまま冒険を続けるのは、流石に無理だという事で、取り敢えず、どこでも扉で、マールダンジョン31階層のパーティーハウスに帰って来たのだった。


 パーティーハウスというか、実際には31階層フロアーボス部屋に到着すると、何故か、『ドラゴンズアイ』の皆さんに待ち伏せされていた。

 というか、『ドラゴンズアイ』って、俺達がマールダンジョン55階層を攻略して、56階層に到達してから、ずっとナナミさんが作った宿泊施設を常宿にしてるんだよね。


 まあ、56階層に直接繋がる どこでも扉を設置してあって、便利だからなんだけど。


 余っ程、俺達『銀のカスタネット』に、マールダンジョン最終到達記録を抜かれたのが悔しかったらしい。


 それで、俺達の拠点を常宿って……

 なりふり構わず、マールダンジョンの最終到達記録を、俺達から奪回したかったようである。


「毎度あり~」


 宿泊施設と、どこでも扉を、たくさん使って貰えてウホウホなナナミさんが、珍しく自分から挨拶する。


「何が、毎度ありだ! アホンダラ!

 それより、俺達『ドラゴンズアイ』は、ついにやったぜ!

 お前達の持つ、マールダンジョン最終到達記録56階層を抜いてやったぜ!」


 リーダーのオッサンが、鼻息高く、俺達に言ってくる。


「あ……そうなんですか……おめでとうございます……」


「何ですと!」


 俺は、心からおめでとうと言ったのだが、何故か、ナナミさんが慌ててる。


 ナナミさんって、ダンジョン攻略とか、全く興味なさそうなのに……何で?


「我が主、ちょっと出掛けてくる」


「エッ? 火山ステージの装備作ってくれるんじゃなかったのか?」


「それより、大変な事が起こってしまった。僕にとっては、一世一代の大事」


 ナナミさんは、塔のダンジョンから帰った足で、急いでそのまま何処かに行ってしまったのだった。


 そして、その日の夜。

 丁度、寝る前ぐらいの時間に、ナナミさんは帰って来たのだった。


「58階層のフロアーボスを倒してきた!そして59階層も見て来た!

 これで『銀のカスタネット』が、最終攻略記録を更新した!」


 ナナミさんが、鼻息高く宣言する。


「て、1人で?」


 俺は、驚きながらも、ナナミさんに質問する。


「うん。『ドラゴンズアイ』は、上客。宿泊施設と、どこでも扉を使ってもらえないと、僕の研究費が削られる」


「そんな理由で、攻略して来たのか?」


「僕にとっては、死活問題。だけど一気に59階層まで行って来たから、暫くは安心」


「でも、また、冒険者ギルドに、59階層にどこでも扉を設置しろとか、お願いされるんじゃないのか?」


「56階層のどこでも扉を撤去して、代わりに57階層に設置してあげるつもり。『ドラゴンズアイ』には、59階層は、とてもじゃないけど無理だから」


 どうやら、ナナミさんは、お得意さんの『ドラゴンズアイ』を気遣っているようだ。


 確かに、下手に下層に行って全滅してしまったら、ナナミさんがお金を稼げなくなっちゃうし……て、やっぱり、お金だよね。


 まあ、ナナミさんって、基本、物作りの事しか考えてないから、お金をたくさん使うんだよね。

 作りたい物は、お金を気にせず作っちゃうから。


 その為に、ナナミは冒険者をしてると言える。

 元々、大好きな権蔵爺さんの素材集めの為に、冒険者をやってたぐらいだし。

 兎に角、ドワーフの爺さんと孫は、物凄くお金が掛かる人達なのである。


「『ドラゴンズアイ』の人達、多分、凄くショックを受けるだろうな……

 もしかして、ヤル気無くしちゃうかもしれないぞ……」


 まあ、俺だったらヤル気を無くす。

 やっとこさ、目標達成したのに、その次の日には、軽く抜かされてるんだから。

 しかも、たった1人の少女によって。


「その辺の所は、大丈夫! 宿泊施設の割引券と、どこで扉の割引券も作っておいたから!

 それをあげれば、あの人達は、喜んで攻略を続ける筈!」


 ナナミさんは、何故か、ドヤ顔で言い切った。


 ーーー


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