第55話 手合わせ、そして和解

 

 俺達は、一波乱あった後、家の応接間に迎えられ、一通り、俺が子爵になり、サクラ姫とアマンダさんと、ナナミさんと婚約した事を、父親と継母とリーナに伝える。


 勿論、長男カークは居ない。カークは自分の部屋で謹慎してるように、父親に厳命されている。

 アホ過ぎるカークの場合、また、サクラ姫に無礼を働いちゃうかもしれないからね。


 俺としては、一生、部屋に謹慎してもらいたぐらい。カークは人の世に出たら、他人に迷惑しか掛けないタイプの人間だしね。


 そのまま謹慎を続けて、出来の良い次男のニコルがカスタネット準男爵家を継げば良いと本気に思うし。


 実際、次男ニコルは、本当に優秀だったのだ。

 歴代最高の成績で、マール王立学園に編入したと、昨日、マール王立学園の学園長のステラさんから連絡があったし。


 まあ、学園長自らが家庭教師をやってた訳だから、当然と言えば当然だと思うけど。

 ニコル兄も、相当、自分を追い込み集中して勉強してたに違いない。


 多分、この国のお姫様であるサクラ姫と婚約した俺と、家庭教師までしてくれたサクラ姫の叔母さんであるステラ学園長の顔を潰さない為に。


 ニコル兄って、そういう所でクソ真面目なんだよね。父親に似て。


 でもって、ニコル兄は、現在、14歳なんだけど、13歳の生徒達と混ざって、一年生に編入したとか。二年生は、既に専門科目が始まってしまってるので、その為の措置らしい。


 因みに、クレア姫と同じく、一番頭が良い優秀な生徒が集まるSクラスに編入したのだとか。


 しかも、学科試験は満点だったのは当たり前で、実技の試験も有り得ない成績を叩き出したらしい。


 実技試験は、持ってるスキルによって、やる試験が決まるのだが、ニコル兄の場合は、弓スキルを持ってるので、弓矢の試験になったのだが、その弓矢の試験で百発百中。有り得ない集中力を発揮して、それはもう凄かったとか。


 多分、受験勉強で培った集中力であろう。

 ニコル兄なら、本当に、死ぬ気で集中してたに違いないしね。


 ある意味、真面目過ぎる所が父親に似ているのだ。

 ニコル兄は、絶対に父親とは似てないと否定すると思うけど。


 てな訳で、それとなく王様に、伝えとく事にした。

 うちの頑固親父に、カスタネット準男爵の跡取りは、優秀なニコル兄にするようにと。

 うちの親父も、王様の言う事なら絶対に聞くと思うしね。


 それに、俺はもう、カスタネット準男爵家の人間じゃないけど、一応、親戚筋にあたるカスタネット準男爵家の当主がカーク兄とか、俺自身も嫌だし、恥ずかしいし。


 何か、カーク兄が問題起こす度に、親戚だと思われなくないしね。


 当主が、ニコル兄になれば、その心配もなくなり、俺も安心して貴族ライフを送れるというもの。


 そんな感じで、一通りの挨拶が終わると、珍しく父親オドル・カスタネットが話し掛けてきた。


「カスタネット子爵。一つ、木刀で手合わせお願い出来ますか?」


 本当に、うちの父親はしっかりし過ぎている。

 俺は、妾の子供だけど、カスタネット準男爵の実の息子なのだ。

 それなのに、俺がカスタネット準男爵より地位が高い子爵になったら、しっかり貴族の慣例を遵守し、俺の事をカスタネット子爵と呼ぶのである。


 この家に住んでた頃、俺に対して本当に厳しかったけど、自分に対してもとても厳しい人なのだ。


 これが、人に厳しく、自分に甘い人なら、俺も嫌な気持ちになっちゃうけど、こういう態度がしっかり取れる所が、俺の父親カスタネット準男爵の尊敬出来る所。


「いいですよ」


 俺も、1人の貴族として、カスタネット準男爵に返事をする。


 そして、皆が見守る中、庭で手合わせが始まる。


 カスタネット準男爵は、王道の中段に構えてるが、全くスキがない。

 多分、剣術だけの腕前なら、アマンダさんの上を行ってると思われる。


 俺は、カスタネット準男爵の胸を借りる気持ちで、俺の方から仕掛ける。


 だが、俺の剣激を、カスタネット準男爵は、足さばきと、剣さばきを上手く使い、ヌルッと躱す。


 やはり、俺の父親カスタネット準男爵は相当強い。

 カスタネット準男爵が剣スキルを持ってる事は知ってたが、これ程の実力があったとは、全く見抜けなかった。


 これもそれも、剣を持てば剣豪になれる派生スキルを持ってたから分かる事で、持ってなかったら絶対に分からなかった事であろう。


 だけれども、やはり、剣を持てば剣豪になれる派生スキルを持ってる俺の方が上。


 俺は、カスタネット準男爵に、目にも止まらない連撃を繰り出してやる。

 カスタネット準男爵は、防戦一方。

 皆の目には、防戦一方なカスタネット準男爵が弱いと思うかもしれないが、俺と対峙出来るだけで大したものなのだ。


 武器を持った戦いでは、もしかしたら金級上位の実力者であるナナミさんと同レベルかもしれない。

 まあ、パワーでは、絶対にナナミさんに勝てないけどね。


 取り敢えずは、最終的にカスタネット準男爵の木刀をはね上げ、カスタネット準男爵の首筋に木刀を突きつけ勝負あった。


「私の負けです。カスタネット子爵。いや、敢えてこの場は、私の息子トトと呼ばせて貰う。

 トトよ。お前の真の実力を気付いてやれなくて、本当にすまなかった。私は、マール王国貴族としても、親としても失格だったようだ」


 俺の父親、カスタネット準男爵が真剣な顔をして、俺に頭を下げた。

 本当に、心から反省してるようである。

 間違った事に気付いて、自分から頭を下げれる人間って、本当に少ないのだ。


 しかも、歳下の自分の息子に対して、心から頭を下げれる人なんて皆無だろう。


 しかも、こんなにも威厳がある父親を演じてた人がだよ……

 なんか、いたたまれなくなってくる……


「そうよ! 私の婚約者のトトは、本当に凄いの!」


 サクラ姫が、王族の態度ではなく、普段、俺に接する態度で、カスタネット準男爵に言い放つ。

 サクラ姫も、カスタネット準男爵が、俺の父親として接したので、それに準じたのだろう。


「そう! トト君は凄いんだから!」


 アマンダも、サクラ姫に続く。


「おっととトト君の顔は、私の好み」


 なんか、ナナミさんはズレてる気がするが、いつも通りのナナミ節である。


「お兄ちゃんは、最初から凄かったの! 井戸掘りなんか、もう、プロ級なんだから!」


 リーナまで、参戦してきた。


「えーと……」


 継母も、なんか言おうとしたが止めたようである。多分、俺の良い所を思いつかなかったのだろう。

 一体、何なんだろう? 便乗しようと思うな屑女。


「本当に、すまなかった」


 俺は、あの厳格過ぎる父親が頭を下げて謝る姿を見るのが、何だか、いたたまれず耐えられなくなってしまう。


「もう、いいよ! 俺自身は、自分が凄いと思ってないし、所詮はスキルの力だからね。

 これからは、スキルだけで人を判断しない方が良いと思うよ!

 カーク兄みたいに、良いスキル持ってても、使いこなせなければ、クソの役にも立たないしね!」


「ああ。お前を見て、よく分かった。それにしてもお前は、本当に強くなった。

 これなら、どこに出しても恥ずかしくない。

 サクラ姫様。どうか、我が愚息を、よしなにお願い致します!」


 カスタネット準男爵は、サクラ姫の方に向き直し、より一層、深々と頭を下げた。

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