第50話 転移陣

 

 次の日、アマンダさんと冒険者ギルドで合流し、再び、マールダンジョンに向かう。


 昨日、ナナミさんと別れてから気付いたのだが、ナナミさんとの待ち合わせ場所を決めて無かった。


 ナナミさんの家に行ってもいいのだけど、それだと、また、40階層まで下るの面倒臭いし、ナナミさんの家から30階層に戻って、再び1階層に戻り、改めて、40階層の転移魔法陣で移動するのも時間のロスになってしまう。


 まあ、昨日のうちに話し合って無かった俺が悪いのだけど。

 それより、魔法の収納袋を貰って、それ所じゃなかったし。


 てな訳で、俺達はナナミさんの別宅がある31階層に向かったのだが、


「何だこれ?」


「うん。御屋敷が有るように見える」


「トト君! 私、夢を見てるの?これってお貴族様の御屋敷だよね!」


 そう。昨日までは、ただのフロアーボス部屋にしか見えなかったナナミさんの別宅が、豪華な御屋敷になってしまっていたのだ。


 御屋敷には扉はなく、中に入ると豪華なエントランスが広がる造りのようだ。一番奥には、32階層に下る階段があり、多分、一般冒険者も使える共用スペースなのだろう。


 だけどな……これ、普通の冒険者は落ち着かないだろう。

 フロアーボスが湧かないように扉が無いのは分かるが、1階と2階が吹き抜けになっていて、高い場所から豪華なシャンデリアが飾られてるし。


 しかも、床にはフカフカな赤絨毯。


 冒険者が休憩出来るよう、猫足のソファーやテーブルが、エントランスに4セットほど置いてある。


 まあ、それは良いとして、俺達のパーティールームなのだが、エントランス両サイトに赤絨毯が轢かれた吹き抜け階段があり、二階の踊り場に繋がる設計。


 何故か、その踊り場には、俺とサクラ姫とアマンダとナナミさんの肖像画が描かれた額が飾られていて、この御屋敷が、俺達『銀のカスタネット』のものであると、強く主張しているのだ。


「わー! 凄い! コレ、お貴族様の御屋敷のまんまだ!」


 何故か知らんが、アマンダさんが踊り場に飾られた俺達の肖像画を見て感動してるし。


 というか、俺の実家のカスタネット準男爵家の家には、こんなに無駄に広い踊り場も、シャンデリアも無かったのだけど……


 因みに、こんだけ広いスペースを1階と2階に使ってるので、勿論、俺達のパーティーハウスは3階建てになってたりする。


「アッ! みんな来てた」


 俺達が、無駄に美化されている自分達の肖像画を眺めてると、正面から見て、踊り場の左側にある扉からナナミさんが出てきた。


「ナナミさん、この御屋敷、1日で建てちゃったのか?」


「うん。これくらいなら余裕」


 ナナミさんは、事も無げに言う。


「ナナミさん! 早く案内してよ!」


 なんか、この中で一番はしゃいでるアマンダさんが、ナナミさんを急かす。


「じゃあ、簡単に説明する。一階は全ての冒険者に解放する共有スペース。

 真ん中はエントランス。両端に部屋があり、左端の部屋には、無料のトイレと洗面所とシャワースペースがある。

 そして右側の部屋は、宿屋スペース。こちらには4つのベットルームと浴場がある。1部屋1泊2万マールに設定してる」


「ん? ちょっと待ってよ。宿屋スペースとは?」


 アマンダさんが困惑してるし。

 というか、俺もサクラ姫も困惑してる。


「うん。私もカスタネット子爵家の一員になったのだから、家にお金を入れようと宿屋経営をしようと思って」


「カスタネット子爵家の一員とかいうくだりは置いといて、別に宿屋経営なんかしなくていいからな!」


 俺的には、3階建ての御屋敷を建ててくれただけで十分なのに、お金まで稼いでくれようとしてるナナミさんの行動に感動する。


「ううん。これからダンジョン探索が多くなってくると、研究費が足りなくなる。その為の資金稼ぎ」


 やっぱり、家には金入れないのかい!

 どうやら、完全に自分自身のお小遣い稼ぎだったようだ。


「でも、ここの階層って、誰も冒険者来ないだろ?」


 そう。この階層は人気なさ過ぎて、そもそも冒険者が来ないのだ。

 この階層に冒険者が、わざわざ泊まりに来るとは思えない。


「その辺なら大丈夫。昨日のうちに、この御屋敷から、30階層と40階層を繋ぐ転移魔法陣を設置しておいた!」


 ナナミさんは、フフン!と、胸を張る。

 えっと、この子、本当に何言ってるんだろ?

 転移魔法陣って、他国の常闇の魔女とかいう偉い魔女様しか設置できないんじゃなかったのか?


「ナナミさん! それは本当ですか?!」


 この国の王女様である、サクラ姫が興奮の面持ちで、ナナミさんに質問する。


 まあ、サクラ姫が興奮するのも分かる。だって、ナナミさんは、転移魔法陣を設置できる程の、簡単に言うと、常闇の魔女と同等の力を持ってる事になってしまうのだ。


 これは、マール王国にとって本当に喜ばしい事であって、ナナミさん個人が既に国の財産みたいなもんなのであって、多分、王様がこの事実を知ったら、マール王国から逃がさないように、絶対に何か仕掛けてくると思うし。


「魔法の収納袋の技術と、大体同じだから簡単。異空間をただ繋ぐだけのお仕事」


 相変わらず、ナナミさんは、とんでもない事をしてるのに涼しい顔。


「えっと、その転移魔法陣は、どこにあるんだ?」


 俺は気になって質問する。今の所、移転の魔法陣らしきものを見てないしね。


「それは、1階正面にある扉を使う。30と書いてる扉が、30階層に繋がり、40と書いてる扉が40階層に繋がる。そして、この鍵穴に1万マール入れると、30秒だけ30階層と40階層に設置してる扉に転移出来る仕組み!」


「トト! 試してみるよ!」


 なんか、急にサクラ姫が走り出す。

 まあ、マール王国の王女として、国の国益になる転移魔法陣が気になってしまうのだろう。


 俺的には、パーティーハウスの方が気になるが、そこはそこ。俺達は、サクラ姫に付き合う事にしたのである。


 ーーー


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