第14話 学園長

 

 俺が、サクラ姫を小脇に抱え城から出ると、サクラ姫の護衛達も慌てて追い掛けてくる。


 護衛の格好も、なんかチグハグ。

 俺とサクラ姫が、今日も自由市場に行くと思って庶民の格好に変装してた護衛達も、まさか俺とサクラ姫がマール王立学園に行くとは思っていない。


 因みにマール王立学園は、王都中心部の城から見て北側に位置して、結構近い。

 貴族や、金持ちの商人の息子や娘。それから、レアスキルを持ってる庶民とか、成績優秀な特待生とかが通う、選ばれたエリートが通う学園なのである。


 それなのに、護衛の格好が庶民の格好だなんて……

 護衛達も、マール王立学園の守衛に止められて、必死に説明してるし。自分達は、サクラ姫の護衛だから、マール王立学園に入れてくれって。


 俺とサクラ姫はというと、さすがは王族。

 フリーパスで、マール王立学園に入れてしまった。

 やはり、この国で王族の証である銀髪は、効果がある。守衛のおじさんなんて、サクラ姫に、ビシッ!と、敬礼してたし。


 それにしても、マール王立学園は、貴族の子息が通う学校なので、本当に豪華。王城と遜色ないし。


 サクラ姫は、マール王立学園の事をよく知ってるようで、学園長室に俺を案内してくれる。なんでも何回か学園長室に行った事があるらしい。


 クレア姫と、それからまだ会った事のない兄ちゃんの皇太子様が入学してるので、一緒に挨拶がてら学園に来たことがあったのかもしれない。


 トントン。


「ステラ叔母様! サクラが参りました!」


「どうぞ」


 サクラ姫が、ノックをして声を掛けると、中から、女性の声が聞こえてくる。


 それを聞くと、サクラ姫は、慣れた手つきでドアを開け中に入ると、王妃様によく似た女性が手を拡げて待ち構えていた。


「サクラちゃん!」


「叔母様ー!!」


 サクラ姫は、その女性に抱きついた。


 歳は40歳前後。魔法使いの三角帽子と紫色のロープを着た、王妃と同じ金髪の女性。

 まあ、サクラ姫が叔母と言ってたので、王妃様のお姉さんで間違いないだろう。


「サクラちゃん。本当に良かったわ!」


 サクラ姫の叔母さん。多分、学園長が良かった良かったと、ウンウン言いながらサクラ姫の頭を撫でる。


「私の未来の旦那様のトトが、私を助けてくれたの!」


 ここで、サクラ姫が、俺を紹介してくれる。というか、未来の旦那様?コレは、もう確定事項なのか?


「そう。貴方がトト君ね。妹から聞いてるわ。サクラちゃんの命を救ってくれた、サクラちゃんの白馬の王子様よね。本当に、サクラちゃんの叔母として、感謝してるのよ」


 白馬の王子様って……

 俺、そもそも馬なんか乗った事ないし、白馬の王子様って柄でもないし……


 まあ、長男のカークは貴族の嗜みとして、乗馬の訓練してたけど、俺が、実家で訓練というか、してたのって、井戸掘りだけだし。


「はあ……」


 まあ、はあ……としか言えないよね。

 そうです。私がサクラ姫の白馬の王子様なんです! とか、口が裂けても言えないし。


「叔母様、今日は、トトが叔母様にお願いがあって来たの!」


 俺の代わり、サクラ姫が気を利かして話を進めてくれる。どこの馬の骨とも知れぬ奴の話より、可愛い姪っ子からの話の方が聞いてくれると思うので助かった。


「そう。サクラちゃんの命の恩人の頼みなら、私ができる範囲なら、なんだって叶えてあげるわよ!」


 なんか、話が早い。これなら、ニコル兄をマール王立学園に入れてもらうのは簡単そうだ。


「ええと。お願いというのは、実は俺の兄貴じゃなくて、兄のニコル・カスタネットを、マール王立学園に入学させてあげたいのです」


「ええと。貴方じゃなくて、お兄さん?

 てっきり、貴方がマール王立学園に入学したいのだと思ってたわ。だけれども認めましょう。貴方は、サクラちゃんの命の恩人です!貴方のお兄さんニコル・カスタネットをマール王立学園の特待生として入学させてあげます!」


「ええと……特待生とは?」


「成績優秀者や、レアスキル持ちが、特例で中途編入できる制度です!」



 いやいやいや。ニコル兄は、確かに優秀だが、全国から生徒が集まるマール王立学園では優秀かどうか分からない。

 だって、カスタネット準男爵家は勉強をする環境が全くもって整っていないのである。

 長男以外は、何もしてくれない家だぜ。


 しかも、レアスキルなんて、勿論、持ってない。まあ、攻撃スキルなら持ってるけど、貴族なら誰でも攻撃スキル持ってるから、マール王立学園では普通のスキルと言っていい。


「あの……ええと、ニコル兄は、そんなに凄いスキルなど持ってないのですが……貴族として一般的な攻撃スキルしか持ってないのですけど……」


「あら、トトさんのお兄さんなら、特殊なスキルを持ってると思ったのに、それは大変ね……そしたら、成績優秀者枠で入れるしかないわね……因みに、お兄さんは、頭が良いほう?」


「俺から見たら、優秀な兄ですけど、世間一般にみたら分かりません。なにせ、うちの家は、長男だけが教育を受けて、それ以外は勉強するより働けという家ですから……」


「うーん……これは、この国の長男至上主義と、攻撃スキル至上主義からくる弊害ね……

 トト君のような優秀なレアスキル保持者を見逃し、学園に入学させなかったというのも問題だけど。なにより、勉強したい貴族の次男三男をマール王立学園に入学させないのは、国の損失よ!

 アホな長男より、ヤル気のある次男三男もマール王立学園に入学させて鍛える方が国の為になるのに。そして、一番優秀な子息を跡取り息子にして家を継がせれば、その家も発展すると思うのにね」


 この意見には、俺も賛成だ。アホなカークより、優秀でヤル気もあるニコル兄の方が、カスタネット準男爵家の跡取りとして相応しいと思うし。

 実際、領民からも、アホで自堕落なカークより、ニコル兄の方が信頼も尊敬もされてるしね。


「そうね……流石に、学園のルールを私の一存で変える訳にもいかないし……

 そしたら、こうしましょう!

 私が家庭教師になって、ニコル君を成績優秀者にしてしまいましょ!そしたら、誰も文句が言えなくなるわ!

 早速、ニコル君を王都に上京させなさい!そして、私の家に来るように言いなさい!みっちり住み込みで勉強させて、見事、マール王立学園始まって以来の成績優秀者として、マール王立学園に編入させてあげます!」


 何故か、学園長のがヤル気が漲っている。


 大好きな姪っ子の為。その大好きな姪っ子の恩人である俺の為。

 そして、この国の長男至上主義に一石を投じる為に、

 学園長のヤル気は、業火の如く燃え盛ってしまったようだった。


 ーーー


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