第12話 相撲大会

 

「トト!私が宣伝してあげるね!」


 なんか、サクラ姫が俄然、張り切っている。

 どうやら、遊び気分のようだ。

 普通、王族の姫様は商売なんてやらないし、ちょっと久しぶりに、城から出てテンションが上がってるようである。


「よし! それじゃあ任せた!」


「うん!私、トトの為に頑張る!」


「ああ。頑張れよ! 儲かったら、売上げで何でも好きなもの買ってやるからな!まあ、売り上げの範疇の話だけど」


 俺は、言った側から、予防線を張る。

 よく考えたら、サクラ姫は王族。庶民の金銭感覚なさそうだし。イキナリ何千万もする宝石を買ってくれと言われたら困るし。


「やったー! 初めてのトトからのプレゼント!」


 まだ、何も買ってやってないのに、サクラ姫は喜んでいる。

 そして、その喜びも、3分後に消し飛んじゃうのだが、それはどうでも良い話。


「腕相撲に勝ったら1万マール貰えちゃいますよ! 参加費は、たったの500マール! そこのお兄さん、ちょっと腕相撲やって行かないですか~?」


 サクラ姫は、張り切って呼び込みをする。


 そして、俺は、喜び勇んでサクラ姫が連れて来た客に盛大に負けて、1万マールを進呈したのであった。


「うおぉぉぉーー! 負けちまった~!」


「想像以上によぇーぞ! 何で、こんな商売してるんだ?」


「トトーー! 何で負けちゃうの! 自信があったんじゃないのーー!」


 もう、サクラ姫は涙目だ。

 そりゃあ、自分のプレゼントが掛かってたので、尚更である。


「俺の生まれ故郷の町では、そこそこ腕相撲は強い方だったんだよ!」


「生まれ故郷の町って、ここは王都なのよ! 田舎の町に比べたら力持ちなんか、たくさん居るんだから!」


「だけれども、負けたまんまじゃ帰れないだろ?場所代と今の負けた分で、マイナス1万500マールも赤字なんだから!」


「もう、止めようよ」


 既に、サクラ姫は弱気である。


「いや! 俺はやる! 絶対に黒字になるまで、やり続けるんだ!」


 てな感じの寸劇を、サクラ姫とやり、俺は腕相撲を続けたのだった。

 サクラ姫には悪いが、サクラ姫にはサクラになって貰った。

 まあ、俺って『握手』スキルの派生スキル。手を握り潰すスキルや、握力増し増しスキル、それから単純に腕相撲無双スキルも持ってるから、その気になれば、絶対に腕相撲で負けないんだよね。


 そんな感じで、たまに負けてやる感じでやってたら、結構、カモじゃなくてお客さんがいっぱいやってきて、1000回くらい腕相撲したかな?そして、49回負けて、丁度、5000マールの利益を得て、今日の商売は終わりにした。


「サクラ! やったぞ! 5000マールの売り上げだ!」


「うぅぅぅ……トト、49回も負けて、悔しくないの?」


 なんか知らんが、サクラ姫は、俺が負けた回数を数えてたようだ。


「サクラ。やはりトト様は凄いお方のようです」


 クレア姫は、どうやら俺のやってた事を理解してたようである。


「そもそも、普通、1000回も連続して腕相撲など出来ません。腕相撲をやった事がある人なら分かる筈です。しかも、トト様の場合、全て一瞬で勝負がつく戦いじゃなくて、全て接戦。殆どの挑戦者は、力尽きて物凄く消耗してました。それに引き換え、トト様は疲れた様子も無く、どれだけ腕相撲を続けてもピンピンしてらっしゃいました!」


「トトは、腕相撲は弱いけど、持久力があるって事?」


「違います。本当は腕相撲が物凄く強いんです!しかも、お客さんを惹き付ける為に、わざと負けたりもする。本当は、もっと儲けれる筈なのに、敢えてしない」


「何で、そんな事するの?」


 サクラ姫は、首を捻る。


「それは分かりません。トト様には、何か思う所があるのでしょう」


 まあ、見る人が見れば分かるよね。これで俺が大勝しててら、イカサマだー!て、なるけど、俺は、そんなに儲けてない。

 だって、1000回も腕相撲して5000マールの売り上げって、アホでしょう。

 場所代の500マールを引いたら4500マールしか儲けれてないし。


 今回は言うなれば、この場所で商売する為の布石。

 思いのほか盛り上がってたので、近くの場所で商売してた人達も気になって、何人か腕相撲に挑戦しに来てたのである。


 そんな、ご近所さん達には盛大に負けて、もれなく1万マールを進呈していたのだ。

 だって、明日から手相占いを始めて盛大に儲けるから。余りに儲け過ぎると、ご近所で商売してる人達に僻まれて、嫌がらせなんかされたら面倒臭いしね。

 それなら、最初から仲良くなってしまえばいいのである。金の力って偉大なのだよ。


 たまに腕相撲大会を開いて、近所で商売してる人に儲けさせとけば、気持ち良く商売させてくれるという寸法なのだ。


「じゃあ、売り上げで何でも好きなものを買ってやるぞ!」


「やったーー!!」


 先程まで膨れていたサクラ姫の機嫌が途端に直る。本当に現金なお姫様であった。


 多分、お嬢様過ぎて、お金の価値が分からないサクラ姫にとって、お金を儲けただけでも嬉しかったのだろう。


 因みに、ご近所さんので腕相撲に来てた、串肉屋さんで、串肉を4500マールで買えるだけ買ってやったら、サクラ姫は大量の串肉にホクホク顔。


「お嬢ちゃん! たくさん買ってくれたから、1本オマケな!」


「ありがとう!おじさん!」


「おじさんじゃねーやい! お兄さんと呼びな!」


「ありがとう!お兄さん!」


「おお! どう致しまして!」


 多分、先程、腕相撲で1万マールを進呈した効果もあるだろう。串肉1本負けてくれたし。

 ご近所付き合いも、上々のようだ。

 サクラ姫も、おまけ貰って嬉しそう。


 まあ、こういう屋台で買い食いなどした事など無さそうなので、新鮮だったのかもしれない。


 本当に、安くつくお姫様である。


 ーーー


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