第3話
世界で初めてダンジョンが現れたのは札幌 、仙台 、東京 、名古屋、大阪、広島、福岡の7ヶ所である。現在はそのダンジョンの上にギルドが設立され、各ダンジョンを管理している。
そのうちの一つ、広島ダンジョンにやってきたセンシ。彼は最も危険度の高い気配を見つけると誰にもバレない様に中に侵入し、最深部に向かって突き進んでいた。
「此処にあるのか?」
『さぁ、どうだろうね。完全にアイツに所有権を奪われているから我々でも反応は追えない。でも中身を弄る事はできないから安心して欲しい』
「全く安心できないんだが」
道中襲い掛かって来るモンスターを避けながら星の意志の呑気な発言に対して突っ込みを入れる。
異界の神はセンシに対して全力で嫌がらせを行う。
意味深な場所で豪華な装飾された宝箱に入れているに違いない。さらに危険度の高い場所なら、探索者たちは「これは何か凄い物なのかもしれない」と思ってしまうだろう。と彼が内心危惧する。
『実際そうだよ』
「クソが!」
彼の最悪を想定した予想が肯定されて、思わず感情が表に出てしまう。すると、それまでセンシを襲おうとしていたモンスターたちは途端に逃げていった。それを見て内心謝るセンシ。
中に入って1分後、彼は最深部に辿り着いた。すると空間の奥に鎮座する巨大なゴーレムが動き出し、その身の丈以上の石剣を持ち襲い掛かる。
「はい邪魔!」
それを一発の拳で剣ごと粉々にした。
『A級ダンジョンを僅か2分で攻略。またギルドは大騒ぎだろうね』
「いつか謝るよ。それよりも!」
星の意志の言う通り、ダンジョンの反応を観測していたギルドでは突然の事態に慌てふためいていた。
センシはガラガラと崩れていく岩の残骸に突っ込み、ドロップされるアイテムを一つ一つ確認する。
凄く固そうな鉱石。綺麗な鉱石。魔力を込めると無限にエネルギーが生成される鉱石。加工すればどんな形にも変形する鉱石。どれも売れば1億単位の値が付く超レアなアイテムだ。しかしセンシは全く興味を示さない。
「無いじゃん!」
『無いねぇ』
目当ての物がないと判断すると、彼は外に飛び出し次の反応に向かう。
ちなみに、ドロップしたアイテムは放置されたまま一定時間経過すると回収できなくなってしまう。後日、ボスモンスターが倒されレアドロップアイテムが消失している事を知ったギルドは発狂したとかしていないとか。
その後もセンシは様々なボスモンスターを撃破していった。
太陽と同じ温度の肉体を持つ魔獣。雷と同じ速さで動く精霊。全てを溶かす液体でできたスライムの王。無限に分裂する影でできた不定形のモンスター。ありとあらゆる攻撃を弾く概念を持つ黒龍。
その全てをセンシは拳一つで粉砕していった。そして超レアなドロップアイテムを放置し、黒歴史を発見できず、ダンジョンの奥深くで阿鼻叫喚する。
広島にある危険度の高いダンジョンを全て人知れず攻略した彼は、意気消沈した様子で帰路に着いていた。ダンジョンギルドでは突如起きた天変地異の原因究明によって地獄絵図となっているが、今の彼にそれを気にする余裕は無かった。
幼馴染から【ダンジョンで異変があったから、待機の為に近くの友達の家に泊まる】とメールがあるも気付けない程であった。
「何で無いんだ?」
『多分小出しで出すつもりか、単純に広島以外のダンジョンに設置しているのかもしれないね。確実に言える事は、君の焦燥感を煽る事に全力を注いでいるね』
「いつか絶対に素手でぶん殴ってやる」
異界の神に対してぶちキレながらも、探索は明日からだと判断するセンシ。
家の前に辿り着くと彼は未だに肩の上に乗っている星の意志に対して、素っ気なく帰れと言う。
『冷たいじゃないか。君の言う黒歴史拡散の事を教えたのは我々だよ?』
「そもそもお前が作らなければよかった話じゃねーか、ふざけんな」
諸悪の根源である星の意志に対して不満を零すも、どうやら彼から離れる気は無い様だ。
厄介な存在に見つかってしまったな、とセンシがため息を吐きながら家の中に入る。
心労によりクタクタなってしまった彼は、今日はもうさっさと寝てしまいたかった。食後に程々の運動をしたからか、良い感じに眠気が襲い掛かっていた。
「ん。おかえり」
「ただいま……」
「もう寝るの?」
「うん……」
帰宅した彼を出迎えたハヤテにそう返事をし、自分の部屋に戻るセンシ。そんな彼の後ろを彼女は着いて行き、ベッドの前で上着を脱ごうとしていた彼を手伝う。
「ありがとう……」
「ご飯、美味しかった。ウサギ肉久しぶりだった」
「そう……」
ハヤテの言葉に何処か心あらずといった風に返すセンシ。彼の頭の中では黒歴史の事でいっぱいだった。これから他の6ヶ所のダンジョンに探しに行かないと思うと気苦労が絶えない。
さらにセンシは学生である為、どうしても探索に回せる時間が限られてくる。
センシが脱いだ服を受け取り顔をうずめながら思いっきり匂いを嗅ぎ、しかし不満そうな顔を浮かべるハヤテ。
「あまり汗かいてない」
「そこまで動いていないから」
「残念」
彼にとって攻略困難と言われるボスモンスターも食後の運動程度の労力にしかなりえなかった。
パジャマに着替えたセンシはベッドに潜り込み、それにハヤテが続く。そしてセンシの胸元に顔を近づけて思いっきり深呼吸を繰り返し始めた。
それに対してくすぐったいなぁと思いながら、しかし彼に体に変形して当たるHカップの乳の柔らかさに何処か安心感を覚えた。だからか、センシはハヤテに対して苦言を零す事無く目を閉じた。
「おやすみ」
「ん、おやすみ」
しばらくしてセンシの意識が闇の中に落ちていき――。
「――いや、誰だよ!?!?」
【え、知り合いじゃないの?】
一気に意識が覚醒したセンシの発言に、星の意志は至極当然の突っ込みを入れた。
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