第3章〜動物農場〜⑩
その日の午後、僕たち放送・新聞部は、それぞれ取材した生徒会選挙立候補者の情報を持ち寄りつつ、今後の紙面の方針を決めるため、放送室に集まった。
こうして、土曜日に集合するのは、生徒会選挙の期間中以来、三週間ぶりのことだ。
メンバーが揃ったところで、ケイコ先輩が僕らにたずねる。
「さて……それぞれの候補者の反応は、どうだった?」
先輩の言葉に真っ先に反応したのは、トシオだ。
「石塚陣営は、お祭り騒ぎでしたね。男子バスケ部の部員以外も集まってバンザイ三唱してましたよ。SNSで当選に協力した生徒も大勢来てる感じでした」
これは、塩谷が話していたことからも、その光景は、おおよそ想像がつく。
一方、落選した候補者の反応は、さまざまだったようだ。トシオに続いて、ミコちゃんが発言する。
「陣内さんのところの会見は、あっさり終わっちゃいましたね。落選しても、あんまり落ち込んでない感じでしたし……当選しなかったからかも知れませんが、ほとんど人も居なくて、ホントに生徒会選挙に立候補したの? って感じでした」
下級生女子の報告に、ケイコ先輩は、うんうん、とうなずきながら、「佐々木くんのところは、どうだったの?」と、僕に話しを振ってくる。
「みんなの想像どおりかも知れませんけど、光石陣営が集まっていた音楽室は、まるで、お葬式の会場みたいな雰囲気でしたよ。光石候補自身は、どうなのかわかりませんけど……前の生徒会長の
「それで、ちゃんと取材はできたの?」
先輩の質問に対して、僕は首を縦に振って答える。
「光石候補の敗戦の弁は全部レコーダーに記録しています。そのあと、この放送室で、光石陣営のSNS担当をしていた1年生の天野さんの独占インタビューをさせてもらいました。彼女が話してくれた内容と、今朝、僕のクラスメートと話したことが気になっているので、あとで聞いてもらって良いですか?」
僕が、自分自身の取材結果を報告し、今日の議題内容を投げかけると、メンバー全員が大きくうなずいてくれた。そして、「ケイコ先輩の方は、どうだったんですか?」と問いかけると、上級生はニンマリと笑みを浮かべながら返答する。
「私の取材先は、面白かったわよ!
楽しそうに取材の感触を述べる先輩に、僕は続けてたずねた。
「それは、ある意味で予想どおりの反応ですよね? 降谷候補の会見で、なにか興味深い受け答えでもあったんですか?」
僕の問いかけに、ケイコ先輩は満面の笑みでうなずく。
「降谷も今回の結果に満足しているんでしょうね。こっちが質問をしたら、普段以上に自分語りをしてくれたわ。自分の配信した動画が過去最高のアクセス数を稼いだこと、学校の外部の人間も今回の生徒会選挙を取り上げて動画配信をしていたこと、それら他人の動画から自分の動画視聴が集中していたこと、それに、自分が石塚候補を支援しようと思い立った
「降谷候補が立候補しようとしたキッカケって、なんなんですか? あの怪しげなヒトが、純粋な気持ちで石塚さんを応援するようにも思えないんですけど……」
僕たちが感じていた疑問をミコちゃんが代弁する。すると、ケイコ先輩は、その質問を待っていた、とばかりに雄弁に語る。
「そう! それが、今回の生徒会選挙の大きな疑問の一つよね。はぐらかされるのを覚悟で、『今回、石塚候補を応援しようと思い立った要因はなんですか?』って聞いてみたのよ。そうしたら、意外にもアッサリと答えたのよ。『石塚が通っていた
「
今度は、僕がたずねると、先輩は首を横に振った。
「そうじゃないの。地球塾の出身者は、石塚くんの方。そして、
「それって、
僕が声を上げると、ケイコ先輩は満足したように笑みを浮かべて、ゆっくりとうなずいた。
「その地球塾の元代表である
「じゃあ、今回の石塚候補の躍進は、その銀河万乗ってヒトが関わっているんですか!?」
ミコちゃんが問いかけると、先輩は「その可能性は大いにある」と、うなずいたあと付け加えた。
「そして、二宮高校の生徒会選挙にもね。これは、降谷が会見で『銀河さんは、
そして、ケイコ先輩の言葉を継ぐように、親友が会話に割って入った。
「というわけで、オレとケイコ先輩は、このあと、地球塾に取材に行くことになったんだ。それと、ノゾミも気がついているかも知れないけど、オレたちの学校の生徒会選挙に関して、動画制作を依頼する求人広告が出ていたことも気になるしな」
トシオの言葉に、活動の自粛中、《アンサーズ》と《クラナド・ワークス》というネット求人の企業から、「H県内の高等学校の生徒会選挙の応援動画作成」という不思議な求人広告が出ていたことを思い出しながら、僕は、今回の事態が思わぬ方向に進んでいることを感じはじめていた。
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