第3章〜動物農場〜④
11月5日(水)
クラブ連盟の代表者一同が共同会見で、
「おい、佐々木! 放送・新聞部が、
その興奮したようすに、少し驚きながらも、
(塩屋は、たしか、先週辺りまで元バスケ部部長の名前を呼び捨てで呼んでいた気がするんだけど……)
なんて冷静に考えながら、僕は「いったい、なんのこと?」と、問い返す。
「これだよ、この動画!
あまりにも突拍子のない主張に、いったい、ナニを言っているんだ……? と、なかなか理解が追いつかない自分がいることに気づく。
「いや、ちょっと待って……! 石塚候補が立候補を表明した直後に、僕は石塚に『放送・新聞部の公式チャンネルで政見放送の視聴が可能になるから、良ければ、収録の予定を合わせたい』と声をかけたんだけど……そうしたら、彼は、『政見放送? そんなもの必要ない。オレは、自分のSNSのアカウントで情報発信させてもらう』って言って断ったんだよ?」
「なんだよ、それ! じゃあ、降谷が完全にデタラメを言ってるのか? 佐々木が、石塚に伝えたって証拠でもあるのか?」
今度は、食って掛かるような勢いで、塩谷は、問い詰めてくる。その予想外の剣幕に
「証拠ならあるぞ? 石塚の立候補会見は、あいつが話し終わったあとも、オレが録画をしていたからな。塩谷、気になるのなら、放送室で確認するか?」
僕らの会話に割って入り、クラスメートの言葉に返答したのは、トシオだ。
放送・新聞部のメンバーが、キッパリと答えたことで、塩谷は、いったん落ち着いたようだ。
「証拠があるなら、良いけど……放送・新聞部は、特定の候補者を応援したりはしてないんだろうな? 特に佐々木は、光石と……」
「それはない。昨日のクラブ連盟が行った会見も、オレたち放送・新聞部は、中継を手伝っただけだ」
トシオの言葉に対して、クラスメートは、まだ何か言いたそうだったけど、「わかったよ……」とだけ答えて、そのままそっぽを向く。
僕は、親友と困ったように顔を見合わせたあと、彼が送ったアイコンタクトを受けて、二人で廊下に出る。
教室から出ると、トシオは声を潜めながら、語りかけてきた。
「ノゾミ、どうやら降谷たちは、オレたち放送・新聞部もターゲットにしているみたいだ」
「そう、みたいだね……生徒会選挙のことを考えると、僕が活動を自粛しているのは正解なんだろうね」
僕が、自嘲気味に笑みを浮かべて答えを返すと、親友はうなずいて、
「それも、あと二日の辛抱だし、いま、オレはケイコ先輩と一緒に
と、僕を励ますように語る。
前向きな言葉をかけてくれたトシオと、この状況を把握して、僕に活動自粛をうながしてくれたケイコ先輩に感謝しつつも……僕は、これまで親しく話していたクラスメートの言動が一変したことから、いよいよ、選挙情勢が予測不能な事態になってきたことを痛感する。
この日の放課後も、取材活動を自粛している僕は、自宅に戻って情報収集を行うことにした。
トシオから聞いた話しを元に、「一宮高校 生徒会選挙」のキーワードで、ネット検索を行うと、たしかに、気になるページが見つかる。
「なんだこれ……?」
思わず独り言を口に出してつぶやいてしまったが、アンサーズやクラナド・ワークスという求人サイトに、
「H県内の高等学校の生徒会選挙の応援動画作成」
という求人が見つかった。
しかも、要求される動画制作の日程を確認すると、どう見ても、僕たち一宮高校の生徒会選挙のスケジュールとピッタリと一致するのだ。
(これが、トシオの言ってた
僕は、困惑しながらも、その他に、降谷が、放送・新聞部について語っている動画を確認したあとは、前日までにチェックできていなかった、校内の《フリーボード》のようすを見ることにする。
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【悲報】石塚おねだり報道、捏造だった
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石塚雲照のパワハラ、肩に触れただけ
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【悲報】十条委員会さんデマを拡散
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凱旋パレード事件、真っ赤なデマと判明
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【悲報】光石さん新聞部部員にワイロ?
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【生徒会選挙情勢】石塚氏当選へ猛追へ
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石塚雲照駅前演説限界突破wwwwww
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《フリーボード》では、
掲示板の書き込み全体の反応を見る限りでは、石塚候補の勢いが上回っているとは言えない状況ではあるけど……。
一宮高校の現役生ではなく、卒業生だと言われている
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