第2章~宣伝的人間の研究~⑭
10月26日(日)
「ノゾミ、起きてるか!?
翌日からの授業や取材活動に備えて、午前10時過ぎまで自室のベッドでゴロゴロとしていた僕は、部活動仲間にして、親友でもある男子生徒からのLANE通話で飛び起きた。
「いま、ライブ配信が始まったばかりだから、降谷の《YourTubeライブ》の動画を見てみろ!」
そう言ってトシオが通話を切ったあと、僕は、すぐにスマホの《YourTube》のアプリをタップして、取材のためにチャンネル登録していた降谷通の動画チャンネルにアクセスする。
「風紀委員会をぶっつぶ〜す! いま、ボクは罪の無い人間を陥れようとしている不届きな人間の自宅近くに来ています」
カメラに向かって語りかけている人物は、数十名の支持者(?)を引き連れて、住宅街を歩いている。
秋晴れの空の下には、閑静な住宅地が広がっているが、日曜日ということもあって、いつも以上にのどかな雰囲気の朝に、十代の男子学生が、ぞろぞろと連れ立って歩く光景は異様と言っても良い。
「これから、疑惑のド真ん中にいる、風紀委員会の代表にして、クラブ連盟と運営委員会の屋良優作さんの自宅を訪問しようと思います。生徒会長選挙の候補者として、我々が考える既得権益の保持者には、責任を持って質問に答えてもらわないといけない!」
住宅街で気勢を上げる降谷通に呼応するように、周囲の支持者たちが、一斉にシュプレヒコールを起こす。
「キトクケンエキは〜ぶっつぶ〜す!」
(いったい、なにが起こってるんだ……?)
僕は、困惑しながらも、自室のタブレットPCを取り出して起動し、《YourTube》にログインしたあと、降谷通のチャンネルで、ここ数日、彼がアップロードした動画を確認する。
そこには、『校内でウソを撒き散らし! メディアに圧力をかけているのはこの男! 一宮高校十条委員会委員長・屋良優作』というタイトルで、サムネイルの画面が表示されていた。
スマホの画面を横目で見ながらボリュームを落とし、タブレットPCの音量をアップして、前日にアップロードされた動画を確認するため再生する。
そこでは、僕たちが十条委員会の模様を撮影した際の映像を映し出したノートPCがアップになっており、PCの動画再生に合わせて、降谷が独自の解説を被せている。
「いま、『当委員会に出席くださり、ありがとうございます。』とあいさつをした人、この人が、屋良優作さんです」
「で、この人が、バスケ部の内部告発をしたとされる退学した生徒について聞かれたら、『自分は、なにも知らない』と答えているんですね。『証言者を守るために答えられない』とも言ってます。おかしくないですか? 内部告発と呼ばれるものが正しいかどうかは、告発した人間が、本当に信用できるのか、どんな性格だったか知らないとダメじゃないですか!」
「ボクは、このことを十条委員会で委員を務める某委員からの情報で知りました! 本来、外部に漏らしてはいけない情報ではあるんですけど、あまりにもデタラメな内容なので、勇気を持って、ボクに教えてくれました。こういう権力者がウソを言ってることを教えてくれる、これが、本当の内部告発です! 石塚くんを告発した退学生徒のしたことは、内部告発でもなんでもありません。あれは、ただの犯罪。名誉毀損という犯罪です」
さらに、動画の中で降谷は、「これは
自分の知る限り、
そして、言うまでもないことだけど、放送・新聞部のメンバーの中で、ここ数日、降谷と接触を持った人物はいない、と断言できる。
これだけで、前日にアップロードされた動画で語られた内容が、まるで信頼できない
スマホの画面の中で、リアルタイムに屋良委員長の自宅に向かっている降谷の支持者たちは、そうした、冷静に事象を分析する判断力を持ち合わせていないようだ。
タブレットPCの動画を視聴し終えた僕は、ふたたび、スマホの音量を上げて、ライブ映像の確認に戻る。
「屋良優作、出て来〜い!」
「出て来〜い!」
と、声を上げ続ける
タブレットPCの画面を降谷が配信中のライブ動画に切り替え、先輩がまとめた10か条を再確認した。
・大衆は愚か者である。
・同じ嘘は繰り返し何度も伝えよ。
・共通の敵を作り大衆を団結させよ。
・敵の悪を拡大して伝え大衆を怒らせろ。
・人は小さな嘘より、大きな嘘に騙される。
・大衆を熱狂させたまま置け。考える間を与えるな。
・利口な人の理性ではなく、愚か者の感情に訴えろ。
・貧乏な者、病んでいる者、困窮している者ほど騙しやすい。
・都合の悪い情報は一切与えるな。都合の良い情報は拡大して伝えよ。
・宣伝を総合芸術に仕立て上げろ。大衆の視覚聴覚を刺激して感性で圧倒しろ。
この中のいくつの項目が当てはまれば、ライブ映像で声を張り上げ続ける支持者たちのようになるのだろう――――――?
僕の背中に冷たいものが流れるのを感じる。
そして、ついに……その熱狂は、親しくしているクラスメートたちや僕自身に対しても、キバを向き始めることになる。
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