第2章〜宣伝的人間の研究〜⑩
親友の声に反応した僕は、すぐに大型モニターを《YourTube》を視聴できる動画モードに切り替える。
トシオの読み上げに従って、
「風紀委員会をぶっつぶ〜す! はい、
空き教室を使っているのだろうか? 僕たちが見慣れた黒板を背景に語りだした降谷通は、教師さながらにチョークを取り出し、黒板に向かって人物相関図を書き始めた。
「正直なところ、ボク自身も石塚雲照という人は、部内のイジメから退学までしてしまった生徒が二人もいたり、業者から色んなモノをいただいたり……悪い奴やな〜、と思ってたんですけど……どうも、そうでないことがわかりました! いま、どんなことがわかって来たかと言うと……名前はあかせないですが、生徒会直轄の十条委員会のメンバーの一人が独自の調査で調べたところによると、部内イジメは無かった! 業者から物品を受け取ったこともなかった! 凱旋パレードで、特定の業者から資金を得たという事実はなかった! そういうことがわかって来たんですね」
あまりに突拍子もない発言に、モニターを見ていた僕たちは、動画の中の語り手に対して、
(この男子生徒は、ナニを言っているんだ?)
と、お互いに顔を見合わせる。そんな放送・新聞部の部員一同の困惑をよそに、動画の人物は語り続ける。その内容は、僕らの活動を指摘するものだった。
「これを連日、一宮新聞ですか? 校内に貼り出されている壁新聞や動画の公式チャンネルで、連日報道されました。ボクたちは、何を見せつけられたのか? これは、大人のイジメだ、ということを主張していきたいな、と」
降谷のこの発言には、真っ先にミコちゃんが反応した。
「はあ? 私たちが、石塚さんをイジメた? なにデタラメ言ってるんですか、この人!」
バンッ! とテーブルを叩きながら、憤りをあらわにする後輩女子だが、当然のごとくモニターの中の人物は、意に介さずに持論を展開し続ける。
「まず、先日、学校を退学された生徒、仮にNクンとしますけど……このNクンが、クラブ連盟から放送・新聞部から、色々なところに石塚クンの悪口を言いまくった、と。世間一般では、こういう内部告発を公益通報者保護というカタチで守らないといけない、ということになっていますけど……この、いわれの無い告げ口を行うこと、これが公益通報に当たるのか、ということですね」
僕らの活動に対する指摘の次は、すでに自主退学の道を選んだ部員のことまで言及しはじめた。このNくんと名指しされているのは、間違いなく、元バスケットボール部の部員である
自分たちの活動が批判されるのは仕方がない、と僕は思う。実際、石塚雲照が、どこまで関わっているのか厳密には明らかになっていない疑惑で、男子バスケ部の活動を糾弾するような紙面を提供していたのだから。
それでも――――――。
学校を去ってしまったことで反論の機会を持つことが出来ない元生徒に対して、「いわれの無い告げ口を行う」というレッテルを貼る発言に、僕は嫌悪感を覚えた。
それは、親友にしても同じだったようで、トシオは苦虫を噛み潰したような表情で、
「ひでえな……仲尾は、なんも悪くないだろ……」
と、つぶやく。
そんな僕らの憤りをよそに、降谷は締めの言葉を語る。
「こうして、慎重に調査した結果、石塚クンはメディアによってイジメられただけである、と。そうして、その背後にいるのが、いわゆる既得権と言われる人たち。石塚クンは、クラブ棟の建て替えに反対を表明しているんですけど、このことが、クラブ活動をしている人たちにとっては面白くない。そこを嫌われて、彼はクラブ連盟から男子バスケットボール部の部長の職をクビにされたんじゃないか……と、ボクは考えているんですね。これが、ボクが今回の選挙戦を通じて訴えて行きたいことです」
語り終えた降谷の背後には、彼が話しながら続けた板書の文字が、黒板にところ狭しと書き殴られている。漢字はところどころ誤字だらけで、よく、偏差値62を誇る一宮高校に入学できたな、と思うけれど……。
ここまでジッと目を凝らして動画を見つめていたケイコ先輩は、ちょっと感心したように、「ふ〜ん」とつぶやいてから、フフッ……と笑みをこぼして、独り言のように語る。
「詐欺師みたいなヤツだと思って舐めていたけど、なかなかやるじゃない降谷通……大衆を煽動する術ってのをちゃんと理解してるじゃん」
そのどこか、この状況を面白がっているような表情を僕は、不思議なモノを見る想いで見つめていた。
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