第1章〜彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず〜⑩
副部長の
「説明になってないぞ〜!」
「バスケ部は、どうなるんだ〜!」
「石塚〜、出てきて、なにか説明しろ〜!」
全国大会に出場(二回戦敗退だったけど……)するくらいなので、
それだけに、今後の大会の結果に直結しそうな中心選手の退部には、納得いかない生徒も多いのだろう。
彼らの言うように、一方的に自分のことを話しただけで、男子バスケットボール部の現状について語ったわけではない。チームとしての一宮高校バスケ部を応援している生徒からすれば、現在のクラブの状況について、責任者に何らかの説明を求めたい、と考えるのは理解できる。
放送・新聞部としても、自分たちの管理する投稿フォームに、部員と思われる生徒から、部内の不正について、『調査と報道をお願いしたい。』というメッセージをもらっているので、見過ごすわけにはいかない、という事情もある。
ここは、僕たちの出番だ――――――!
そう考えて、目の前に立ちはだかるバスケ部の部室のドアをノックする。
「石塚部長、なかに居ますか? いま、男子バスケ部には、数々の不正疑惑が持ち上がっています。ファンのためにも説明をお願いします」
なんだか、テレビ局や週刊誌が問題のある人物を直撃するときに、相手を煽りながら行う報道みたいだな……と自覚しつつ、部室の中にいるであろう部員たちに向かって声をあげると、しばらくしてから、ゆっくりとドアが開き、中から、その疑惑の中心人物が出てきた。
「これ以上、部室前で騒ぐと、バスケ部の活動に影響が出るということで、クラブ連盟と職員室に訴えるぞ?」
思ったより口調は穏やかなものの、口から出た言葉に悪びれたようすは無い。
ただ、こうして、部長本人が出てきたということは、彼の見解を聞き出すチャンスだ。
手にしていたハンディカメラをトシオに預けた僕は、アイコンタクトで撮影開始の合図を送ったあと、僕は、男子バスケ部の部長である
――――――石塚部長、放送・新聞部の佐々木です。仲尾選手に続いて、副部長の荏原選手も退部するという異例の事態ですが、男子バスケ部の中でなにか問題があったのでしょうか? バスケ部には校内のファンも多いので、見解を聞かせてください。
「まず、仲尾の退部だが……これは、バスケ部の一部の部員を
――――――怪文書というのは、バスケ部の不正を訴えた告発文書のことでしょうか? その内容の真偽について……
「あの投書に書かれた内容は、すべて嘘八百だ! 部内の備品である共有パソコンを使って、クラブ活動中にあんな文書を作って送信したことこそ、大問題。活動中に、他の部員を批判するような文書を作るのは、部員として失格だ」
――――――その中身については、なにが書かれているのでしょうか? 石塚部長が考える問題点とはどんなことですか?
「文書の詳細な中身については、部員のプライバシーの問題もあるので公表できないし、するべきじゃない」
――――――男子バスケ部については、部内イジメや凱旋パレードの企画に関する不正疑惑、一部の部員による業者からの物品の受け取りがウワサされていますが、このことについては?
「どこで、そんな情報が出回っているのかは知らないが、すべて事実無根だ」
――――――これらの話しが、事実無根だという根拠はありますか?
「退部した仲尾は、試合での選手起用や部内での待遇について不満を抱いていたことを認めている。その結果、自分が快く思っていない部員を貶めるニセの告発をするという卑劣な行為に出たというのが、男子バスケットボール部の見解だ」
――――――それは、男子バスケ部の公式見解ですか? 内部からの通報を第三者の検証なしに、一方的に不正だと決めつけるのは、一般的な公益通報の観点から見て、大いに問題があると思いますが?
「一般的な公益通報の定義が良くわからないが、外部に渡った怪文書は、公益通報と呼べるようなモノではないというのが、男子バスケットボール部の考えだ」
――――――では、副部長を務めていた荏原選手の退部については? 荏原選手も怪文書の作成に関係していたのですか?
「各部員の個別の事情には答えられない」
――――――荏原副部長は、先ほど、『部長にも、一緒に責任を取ってくれ、と言ったけど……』と言った趣旨の発言をしていました。石塚部長も、なにか責任を取らないといけない事情を抱えているのでは? 荏原副部長の発言について、石塚部長はどう考えていますか?
「部員の個人的な発言については、部長として答えることはできない」
――――――クラブ連盟に文書が届いているということは、連盟内部で問題視された場合、バスケ部の部員に対する聞き取りが行われると思います。このことについては?
「クラブ連盟からの要請があれば、連盟に所属するクラブとして、適切に対応していく。以上だ」
石塚部長は、それだけ言うと、質疑応答を打ち切って、さっきの副部長と同じように部室に戻って行った。
彼の回答した内容は、これまた副部長と同じく、要領を得ないモノだったけど、こちらとしては、聞くだけのことは聞けたという満足感もある。
トシオに、「どう、撮影できた?」と、たずねると、親指を立てて、「バッチリだ!」という返事が返ってきた。
二つの映像素材という成果を得た僕らは、意気揚々と放送・新聞部の部室に戻ったんだけど……。
そこで、さらに、衝撃的なニュースが飛び込んできた。
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