一日目
一時間目は国語の授業だった。海亀の甲羅に乗って竜宮城へ向かう浦島太郎の様子を、指がところどころ欠けたクラスメイトが教科書を握って朗読している。頬肉が削げて少し読み辛そうだったけれど、その子は気にしている風ではなかった。
窓に近い席で、水面下に
騒ぎにはならなかった。巨人の頭蓋骨が再浮上して視界から消え、滞りなく授業は進行された。この町では当たり前の光景なのだ。
放課後、魚に食われたのか、四肢のいずれかが欠損した友達と別れた。帰路に就く。通学路には昆布が漂い、公園の砂場にはヒラメが身を潜めていた。目の前を、傘を膨らませては萎ませて
遠い雄叫びが響いた。水に沈んだ空を見上げると、理科室の人体模型によく似た、下半身のない巨人の骨が腕を広げていた。伸びた脊髄の尾を揺らめかせて、水面を透過する日差しを遮る。束の間頭上を影が通過していった。
あれは生きている。時折雄叫びを上げ、傍らに内臓を食い破られた鯨の死骸が浮かんでいることもあった。どこに胃袋があるのだろうか、と疑問に思った。
少年はランドセルを背負ったまま家路を急ぐ。水の空を漂う巨人の骨にはもう目もくれず、児童公園を通り過ぎた。遊具のドームの穴からウツボが顔を覗かせ、黒い穴に似た目でその背中を見送った。
家に帰ると、台所で夕食の支度をしていた母親が出迎えた。下顎が欠落し、上唇だけで笑みを
悪友の
帰らなければ。ふとそう思った。
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