第3話 見た目は黒髪ロングの清純系
そんなこんなで、日々コツコツと地道に働いていたら、ある日、なんか偉い人の命令で、普段は一般人は入れないところに呼び出された。
「特務です。出頭を命じられました」
近衛かな? という感じのゴージャスな制服の見張りの人がいるところを通してもらって、控えの間っぽいところに案内される。
うん。うちの本邸の客間より豪華だね、この控え室。
こういう部屋の椅子とか買い替える機会があったら、お下がり安く譲ってもらえないかな。後で管理している人を探して聞いてみよう。
そんなことを考えていたら、急に扉が開いて、女の子が駆け込んできた。彼女は何者かに追われているような切羽詰まった様子で、慌てて扉を閉めると、室内を見渡した。そして、たいして物のないこの部屋で、かろうじて身を隠せそうな長椅子の後ろに隠れようとしたところで、そこに座っていた私に気がついたらしく、ハッとした顔をした。いや、室内に入った時点で気付いてよ。
彼女は口の前に人差し指を立てて、「しーっ」というと、椅子の背の後ろに隠れた。
えー? 何だこの状況。
彼女から事情を聞き出す間もなく、扉が勢いよく開けられた。
「リーナ!」
扉を開けたのはやたらに体格と顔のいい男だった。ついでに身なりもいい。これは偉い人だ。下手をすると王族。なんか祭りで出回る絵姿で見たことがあるような金髪碧眼だ。
「なにかございましたでしょうか」
立ち上がって、扉に近づき礼をする。
「なんだ貴様は」
「特務です」
便利な肩書に感謝しつつ、本日の出頭命令書を見せようとすると、煩わしそうに不要だと手を振られた。
「ここにリーナが来たか」
「いえ?」
心底不思議そうな顔で、首を傾げて見せると、偉い人は私を押しのけて室内に押し入り、あちこち見たあげく、チッと舌打ちして、踵を返して立ち去った。
扉ぐらいは閉めて行ってほしい。
静かに扉を閉めた私は、椅子に戻って座った。そのまま何事もなかったかのように待機していると、窓の外から蚊の鳴くような声がした。
『……助けて』
仕方がないから立ち上がって、窓を開けに行った。
窓の張り出しの隅でガタガタ震えていた令嬢は、私が窓を開けると転がり込んできた。
「なんでさっさと降りて逃げなかったんですか」
『こ、怖かったよう〜』
2階の窓程度で大げさなと思ったが、高所恐怖症か何かなのかもしれないと思い直した。だとしたら、逃がすつもりでしたこととはいえ、窓の外に出したのは悪かったもしれない。
「すみませんでした。もう大丈夫ですよ」
すがりついてくるので、できるだけ優しく聞こえるような声をかけて、震える背中を擦ってあげる。
困ったな。これ、どうしよう。
トラブルの匂いしかしない。できれば関わりあいたくない。さっさとどこかに行って、二度と来ないでほしい。
自分と会ったことは誰にも言わないで速攻で忘れてほしい。
保身だけを考えていたら、彼女が顔を上げた。
「アリガトウゴザイマス。アナタ、オナマエ?」
彼女のカタコトの喋り方を聴いて、初めてこれまでは彼女が”日本語”で話していたことに気がついた。
顔がまるっきり日本人だから、日本語で話されてもなんの違和感もなかったわ。やべぇな。コミュニケーション取っちゃったよ。まだ会話らしい会話はしていないからごまかせれるかな?
「ここで働くものです。名乗るほどの身分ではありません」
名乗りたくないです。
「あなたは?」
「愛染理那です」
あー、ヤダヤダ。日本人確定だよ。
「はじめまして、リナさん。事情はわかりませんが、あなたが安全になれる場所の心当たりはありますか?」
「ゴメンナサイ。コトバ、スコシ」
面倒くせぇ! 早くこいつの保護担当者に引き渡したい!!
「あなた、帰りたい、ところ、私、連れて行く。どこ?」
できるだけわかりやすい発音で、ゆっくりそういったら、彼女は泣き出した。
面倒くせぇ〜っ!!
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