超動可動~かつての変身ヒーロー、異能力を得て参戦す~
タカナシ
リアニメイト
第1話 再動
モノを大切にしなさい。
大切にしない子の前には、もったいないオバケが出るよ。
そう母から言われて育った。
モノを大切にすること、それがいつだって僕の中で一番大切なことだった。
正義のヒーローとして戦ったのもそのときの想いがあったからだろう。
果たして、それが正しかったのかどうかは分からない……。
だけど、あの全てを破壊し尽くすような脅威は倒せたはず。少なくとも、あの街は救えたとは思っている。僕らの戦いは少なくとも、あの街は救えたのだと。
もう変身できないなんて、大した犠牲ではなかった。心からそう思えるくらい、僕は満足していた。
※
「ねぇ、おじさん、直せる?」
「はっ、あ、そう、そうだったね。んっと、ちょっと待ってて……、うん、これなら、ここのギアを取り換えてあげればっと、確か、この前の余りが……、あった、あった。良し。はい。これで直ったよ」
「ありがとう、おじさん!!」
男の子は変身アイテムのおもちゃが再び音と光を出すのを見ると、目を輝かせ、ガシッと掴むと、空へ掲げながらお礼と同時に走り出した。
「うんうん。子供は元気が一番。転ばないように気をつけなさい」
ここはとある田舎でも都市部でもない、ちょうど間くらいの発展度合の街。そんな街の昔ながらの、おもちゃ屋さん『チャーミング』。
尾花の父の代から続くおもちゃ屋で、三十歳で店を手伝うようになってから、もうそろそろ二十年は経とうかとしている。
そんなおもちゃ屋『チャーミング』で毎週日曜日にだけ、尾花はおもちゃの修理屋さんを開いているのだ。
「さてと、そろそろ組合の時間だから、ここらで今日は仕舞うかな」
おもちゃ屋さんにクローズの看板を出し、エプロンを外す。
ドラゴンが描かれたTシャツが姿を現す。これは尾花の趣味だが、子供たちからのウケも抜群だった。
皺が増えてきた手で修理キットを片付け、店内の電気を消し、戸締りを確認すると、裏口から外へ出る。
剣にドラゴンが巻き付いたキーホルダーが付いた鍵で施錠する。
表通りは盛況とは言えないがそれなりに人通りはあるものの、こうして裏から出ると、ほとんど人通りのない路地が続く。とはいえ、一本隣にはすぐ人が歩いている道がある訳で、多少の薄気味悪さはあるものの、ここで事件が起きたことは20年程は聞いたことがない。
その路地をそのまま、慣れた足取りでスタスタと歩いていくと商工会の施設が目に入る。
「まいど~」
商工会の扉を押しながら入ると、先に1人だけ来ていた。
「タナ君が親父さんの代わりに来たんですか?」
名前を呼ばれた少年はコクリと頷き、
「お父さん、いや、親父はまだ仕事だから、俺が代わり。でも、いずれ継ぐから」
タナの家はお寺をしており、今は黒のブレザーを着ている学生だが、普段は
控え目な性格をしていたはずだが、最近は何かに影響されたのか、割と粗野な物言いをすることがある。それでも、あまり自分から話すほうではないが、幼いころから知っている尾花に対しては比較的自分から口を開くことが多い。
「あ、そうそう、ショージキさん。親父からなんだけど、うちの干し柿が出来たから、商工会の後にでも取りに来てって」
本当は正直と書いて『まさなお』なのだが、昔からおもちゃ屋さんに来ていた子たちは皆一様に尾花のことはショージキさんと呼ぶ。そのことに対して尾花は特に訂正をいれるでもなく、親愛の表現だと受け止めていた。
「それから、指名手配犯が潜伏しているかもしれないから、気をつけてだってさ。確かにショージキさんが居なくなったら、おもちゃ買う子供が困るからな。気をつけろよ!」
「ええ、ご忠告ありがとうございます。でもそれを言うならタナ君も気をつけてください」
「もう俺は立派な大人だぜ。大丈夫、大丈夫。むしろ指名手配犯くらい返り討ちだよ」
「いや、でも、腕を怪我しているようですし」
「こ、これは……。くっ、静まれ俺の右腕」
タナはブレザーの袖から除く包帯を尾花から見えないようさっと隠す。
「な、なんでもない。大丈夫だから」
「そうですか? あ、皆さん集まってきましたね」
徐々に人が集まり、定刻になると、デブとマッチョの中間くらいのなんとも言えない体系の50代後半の初老男性が前へ出て、ホワイトボードに汚い字で本日の議題とお知らせを書く。
彼がここらた辺の商会をまとめている商会長、
怪しいがやり手の頼りになるおっちゃんというのが商会長という男を現すのにピッタリだろう。
商会長が議題に上げた内容は、山道のがけ崩れ、新店舗が商店街に出来る、そして、さっきタナが言っていた、最近物騒だという事件のこともあった。
なんでも、指名手配犯が潜伏しているのではないかという事。さらにその指名手配犯の犯行か、殺人事件が起きているというものだった。
ただ、その殺人事件は奇妙な点があり、洋服がどこかしら無くなっているのだという。
肌寒い季節なのに、上着を着ていなかったり、ズボンがなくパンツ姿だったり、靴下が片方だけなかったりと奇妙な状態で死んでいるという。
さらに、共通しているのが、体が水浸しになっていることだという。
どんな殺され方なのかは秘匿されているが、先に述べた奇妙な状況ですら本来ならば警察によって秘匿されており、一般市民には知らされていない情報となっている。
それにも関わらず、そこまでの情報を持ってくる商会長はいったい何者なのだろうかと誰もが一度は思うのだが。
下手に詮索するものは消されているという怪しい噂もあるだけに、ついつい、彼のことについては消極的にならざるを得ない。
注意喚起と、子供は特に明るい時間に返すようにというお達し、それから夜の見回りの志願者を募る。
おもちゃ屋という商売柄、子供と触れ合う機会が多い尾花には特に念を押すように商会長から言われる。
「もちろん、子供たちの安全が一番だからね。それと――」
尾花が全てを言う前に商会長は頷き、
「ああ、ショージキに任せたいと思っていた。ちょうどこちらからお願いしようと思っていたんだが、申し訳なさもあったところでね。いや~、やってくれるなんて助かるよ。さすがヒーロー」
もともとその志願をするつもりでいた尾花だったが、たぶん商会長の強引な説得に負けてどの道見回りに参加していただろうというのは長年の付き合いで予想できた。
「もちろん。そのつもりだよ。子供が安心して遊べないなんて、間違ってるからね。それと、もう僕はヒーローじゃないよ」
尾花は肩をすくめながら、自分のおもちゃ屋に訪れる子供たちが残念そうに早い時間に帰っていく姿を思い浮かべた。
「まぁ、そう言うなって。力だけがヒーローの証明じゃないだろ」
商会長の藤原は脂ぎった顔を似合わない笑顔に歪めた。
「あ~、その、ショージキさんがやるなら、俺も手伝う」
いつの間にか尾花の隣にはタナが立っており、商会長へとぼそりと宣言する。
「清澄寺さんとこの、確かにあそこの息子さんなら、頼りになるな。うん、もとより一人だけでは危険だと思っていたし、2人にお願いしようじゃあないか!」
他の人々は自分がやるのではなく、ほっとしている者も多く、志願した2人に心から拍手を送る。
「それじゃあ、ショージキさん、今日からよろしく」
「ええ、では、夜の10時に迎えに行きます」
こうして、商工会の話し合いは幕を閉じ、見回りの準備の為、一度家に戻った。
尾花はおもちゃ屋の店内から、よく光る懐中電灯を持ち、電池も確認。
護身用に昔どこかで買った警棒もどきも手にする。
それと、尾花は古ぼけたリュックを掴むと、中身を一瞥だけする。昔から変わらず入れっぱなしの荷物をそのままに懐中電灯を投げ入れる。
「準備はこれくらいでいいでしょう。何も使わないで済めばいいですが……」
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