かつて天才麻雀少年と呼ばれた男、麻雀に絶望し辞めていたが、復活し大会で無双する

新条優里

第1話元天才麻雀少年

『本日MJリーグ最終戦が行われています。選手たちの気持ちはどうでしょうか? 岩淵さん?』

『そうですね、この試合で優勝チーム、さらには最下位のチームが決まります。選手たちは悲喜交々でしょう』

『選手たちの表情からも伝わってきますね。さてオーラスです。あーっと、ここで羽村、国士無双をテンパイしました。二巡目という早い巡目です。アタリ牌の中を風間が引いてきました。これは止まるのか!?』

『難しいでしょうね。風間選手は守備に字牌を使わないタイプです。浮いているのなら切るでしょう』

『ロン。48000』

『やはり止まらなかった! 風間、中を切りました。親の役満放銃だー! 48000点です。MJリーグは飛びなしで、親のアガリ止めもないので続行しますがこれは厳しいか……』

『そうですね、点数状況的には厳しいですが、風間選手には頑張ってほしいですね』


 ”下手すぎ”

 ”素人の放銃”

 ”俺だったら止めてるね”

 ”これでプロとか笑わせる”

 ”早く辞めた方がいい”


 コメント欄は心無い言葉で埋め尽くされていた。二巡目で他家が役満をテンパイしていることなどほとんどない事態でそれを止めるには困難であるが、それでも厳しい言葉が飛び交っている。

 MJリーグのルールで二年連続同じメンバーでセミファイナルに出場できないと、メンバーを入れ替えないといけないというルールがある。

 この試合が一人のプロ雀士の運命を変えることになるのであった。






「ねえ、麻雀教えてよ」

「は? いきなりなんだ? 遠藤」


 こいつは遠藤芽衣。腐れ縁だ。全然麻雀のことになんて興味ないと思ってたのに。これから帰宅して勉強をしようと思っていた矢先に声をかけられた。


「私、麻雀部入ったんだけどね、ルールもよくわかってないし、全然ついていけないんだ。ウチ強豪じゃん。天才麻雀少年と呼ばれた清人なら上手く教えてくれるんじゃないかと思って」


 小学生や中学生の時、学生大会やプロアマ大会で活躍し、メディアに天才麻雀少年として取り上げられて当時はいい気になっていた。

 麻雀を辞めた今となっては、天才麻雀少年と呼ばれるのが苦痛でしかない。


「その呼び方やめろ! 恥ずかしいんだよ。ルールがわからないってどの程度だ? 知ってる役は?」


「天和でしょ、地和でしょ、大三元に四暗刻に、字一色に緑一色、清老頭、小四喜、四槓子、国士無双と九連宝燈くらいかな。結構知ってるでしょ?」

「全部役満じゃねえか! リーチは知ってるのか?」

「リーチね。知ってるよ。日常生活でピンチやチャンスまで後一歩の状況でリーチって言うよね」

「それ、麻雀と関係ない文脈で言ってないか?」

「まあ、いいじゃん」


 俺たちが通う翆玲館高校は強豪ひしめく東東京で20年連続優勝、全国大会も13年連続優勝の超名門校だ。ルールもわかっていない素人が入ったらおいて行かれるのは自明だろう。その超強豪というのも女子部だけで、男子部は存在しているのかもわからない。俺が麻雀を忘れるのには都合が良かったが。


「で、どうなの? 教えてくれるの? くれないの?」

「もう俺は麻雀しない。前にも言っただろ? 兄貴から全てを奪った麻雀が俺は憎い。もう麻雀という単語を聞くのも苦痛なんだ」

「お兄さんのことは辛かったと思うけど、それは麻雀じゃなくて麻雀に携わる人たちが嫌になっただけじゃないの? 麻雀自体は嫌いになったわけじゃないよね?」

「どっちも嫌いだ。麻雀の残酷さが嫌になったんだ。尊敬する兄貴に心無い言葉を浴びせる奴らも嫌いだし、麻雀の神は兄貴に微笑まなかった。今は兄貴も幸せそうにしているし、俺たちの生活に麻雀は必要なかったんだよ」

「じゃあさ、じゃあさ、教えてくれるだけは? 打たないでいいから」

「無理だよ。麻雀牌や麻雀卓を見ただけでイライラや吐き気が襲ってくるんだ。それにもうルールも忘れた」

「その言い訳は流石に無理があると思うけど……そっか……そんなに嫌になったんだ麻雀が……前はあんなに楽しそうに麻雀のことを語ってたのに。私はルールもわからなかったけど、清人が楽しそうに麻雀のことを話しているのが好きだった。メディアにも取り上げられてキラキラしてた。有名人が身近にいるって誇らしかった。そっか……そうなんだ」

「悪いな。それ以外のことなら相談のってやるよ。腐れ縁だしな。麻雀は誰か別の人に教えてもらってくれ。ウチは強豪なんでいくらでもいるだろ強い人が」

「いないんだよ……」

「ん?」

「ウチ凄いランキング重視のシステムを取っていて、上級生はずっと麻雀を打っているだけで教えてくれないんだ。専属のコーチもいるけど、ほとんどレギュラーメンバーに付きっきりで一年生のことなんて全く見てくれないんだよ。ルールもよくわかっていない状態で飛び込んでランキング下位の人達にも全く歯が立たないよ。悔しくてさ……清人に教えてもらおうと思ったわけ。まあ、自分で勉強しなかった私も悪いけどさ……」


 確かに本を呼んで勉強をした方がいい。でも、何も知識がない状態で麻雀の本を読んでも中々理解はできない。色々難しい内容が書いてあって理解に時間がかかる。

 俺が麻雀を続けていたのは兄貴が優しく教えてくれたからだ。最初は沢山吸収できて何をしていても楽しかった。兄貴とコミュニケーションをとる最高のツールだった。それもいつからか辛くなってはきたのだが。

 強豪というのはそこまでしないといけないのか。ランキングシステムか。競争を煽って成長させようという試みだろう。付いていける奴はいいが、付いていけない奴はいずれ辞めることになるだろう。

 麻雀は楽しく打ちたいという俺からしたら価値観が違うな。まあ、そいつらからしたら俺は甘ちゃんに映るのだろうが。

 可哀想には思うが、俺に出来ることなどない。


「頑張れよ、芽衣」

「うん、ありがとね。でも、いつか戻ってきてくれたら嬉しいな……」


 こんな言葉しかかけることが出来なかった。力になってあげたい気持ちはあるが、俺はもう二度と麻雀に関わらないと決めたんだ。





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 麻雀基本ルール・用語解説


 萬子・筒子・索子・字牌と呼ばれる牌を用いて、四面子一雀頭(じゃんとう)を作るゲーム。面子は三枚で一組、雀頭は二枚で一組。三三三二という組み合わせを作るのが基本的な手組(一部例外有り)面子は一一一の様に同じものを揃えるか、一二三の様に階段状になるように揃える。

 四面子一雀頭を揃えても、役がないと和了(あが)れない。そのため、初心者は役を覚えるのが第一歩。

 麻雀牌は各四枚ずつ、計34種類あり、計136枚を使用する。

 同じものを揃えることを刻子(コーツ)といい、階段状のものを順子(シュンツ)という。

 萬子・筒子・索子には一から九までの数牌があり、呼び方は一(イー)、二(リャン)、三(サン)、四(スー)、五(ウー)、六(ロー)、七(チー)、八(パー)、九(キュー)

 これに萬子ならマン、ワンと付け、筒子ならピンと付け、索子ならソーと付ける。

 例えば一萬ならイーマン、イーワン、一筒ならイーピン、一索ならイーソウと呼ぶ。

 字牌には風牌と三元牌があり、風牌には東(トン)、南(ナン)、西(シャー)、北(ペー)、三元牌には白(ハク)、發(ハツ)、中(チュン)がある。

 字牌は東南西のように階段状(順子)にすることが出来ず、東東のように雀頭にするか、東東東のように刻子にするしか出来ない。

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かつて天才麻雀少年と呼ばれた男、麻雀に絶望し辞めていたが、復活し大会で無双する 新条優里 @yuri1112

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