第2話 いじめの矛先

小学3年生に進級した春、彼女にとって学校は、安心できる場所ではなくなっていた。チック症状が少しずつ頻繁になり、クラスの誰もが彼女の声や動きを「おかしなもの」として注目するようになっていた。


「ねえ、また声出るの?」

隣の席の子が、わざとらしく彼女を見つめながら聞いてきた。周りの生徒たちがクスクスと笑う。その瞬間、彼女はまるで透明な壁に閉じ込められたような感覚を覚えた。どんな言葉を返しても笑われる、どんな態度をとってもからかわれる。その状況に、彼女はただうつむくことしかできなかった。


授業中も、彼女の声が出るたびに教室の空気が変わった。教師が注意するのではなく、クラス全体が「まただ」と冷たい視線を向ける。時には教師自身がため息をつくこともあった。誰にも頼ることができない孤独感が、彼女をさらに追い詰めた。


「ねえ、何でそんな変な声出るの?」

休み時間にクラスメイトの一人が問い詰めるように聞いてきた。彼女は何も言えなかった。答えを持っていないというより、自分の症状を説明するための言葉を知らなかったのだ。


ある日、体育の時間、彼女の症状はさらにいじめの対象になった。走り出すときに体がピクッと動いたり、声が漏れたりする様子をクラスメイトたちが真似し始めたのだ。「ほら、こうやるんだよ!」と声を上げて彼女を嘲笑する姿に、彼女の心は砕けた。


家に帰ると、母親に「学校に行きたくない」と小さな声で告げた。だが、母親は「頑張らなきゃ。みんな乗り越えているんだから」と背中を押した。それが彼女の負担をさらに重くしていることに、母親は気づいていなかった。


彼女は「学校」という言葉が嫌いになり、自分自身の存在さえ否定するようになった。毎朝、登校するために玄関のドアを開けるたび、胸の奥に鉛のような重さを感じた。


しかし、それでも学校に通い続けたのは、わずかな希望の光を求めていたからだ。誰かが理解してくれるかもしれない、自分を受け入れてくれるかもしれない。その期待が、彼女の小さな心を支えていた。


※次回、第3話では、彼女が初めて支えとなる存在と出会う瞬間を描きます。

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