#いつでも、君といられるのは、この密室の特徴だね♡

沼津平成

第1話

 ホテル・オーラ―沼津は和風の明かりがついていた。しかし天井を見上げれば無数のシャンデリア。入口の自動ドアに入るなり、太郎男爵はまずそのことを指摘した。返事を聞くなり不愉快そうに顔をゆがめた。


「私はこんなホテルは嫌いだよ」


「そうですか。失礼いたしました」項垂れた新人の冴木さえきの後ろで、高野七重たかのななえはスタンバイをしていた。受付の八代冴子やしろさえこが横目で高野を見やった。高野は平然とした顔をしている。

 

「627号室にご案内いたします」


 高野は太郎男爵に、なるべく自然そうにそう告げた。


「そうかい。わかったよ」


 男爵は高野を見ながら「君のような人のことを『凄腕』というらしいね」といった。そしてもう一度冴木を見やって、軽蔑したように鼻を鳴らした。

 冴木青年は凄みを帯びた太郎男爵にひるんだのか一目散に駆け出した。

 高野はさりげなく受付の初老の女のほうを向いた。八代冴子は仏頂面を保ちながら愛想なく鍵を渡し「お似合いでございます」と告げた。


「どういうことだ? 皮肉かね?」

「いえ、さしてそんなつもりは……」


 いやな予感がして高野が割ってはいった。男爵は安心したようにフロントから消えていった。冴木が戻ってきながら「なんであの男爵はこんな沼津のホテルを選んだのですか」と聞いた。


 別に沼津を軽蔑しているわけではないが、片田舎の沼津、それもホテル激戦区の沼津駅周辺からどうしてうちを選んだのか? それは経験を積んだ高野でも難解だった。

 八代冴子が口を開きかけて閉じた。冴木は太郎男爵の態度を思い出したのか、またぶるぶると震えはじめた。

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