二年間付き合った彼女に突然振られたのだが、その理由というのが冗談としか思えないので、とりあえず僕は足掻いてみた

@JULIA_JULIA

第1話 突然の別れ話

しょうくん、ゴメンね」


 恋人である幅木野はばきの 佑奈ゆうなが俯いた。いや、【元・恋人】というべきだろうか。つい先程、僕は彼女に振られたのだから。






 佑奈ゆうなと付き合い始めたのは、中学二年生の秋からだ。そこから二年間、僕たちは仲睦まじく交際していた。なんとも清い交際をしていた。手を繋いだり、唇を重ねたり。そういうことはしてきたが、そこから先には進まなかった。そして、もう進むことはなさそうだ。


 高校生活も半年を過ぎ、今日もいつものように学校の中庭で昼食を共にしていた僕たち。しかし昼食を食べ終えると、いつものようには、いかなかった。


 普段なら弁当箱を片手に二人で手を繋いでグラウンドの方へと歩みを進め、手洗い場で一旦離れる。そうして、それぞれが口をすすぎ、その後は人目もはばからずに口づけを交わす。なんとも甘い一時ひととき。さしずめ昼食後のデザートといったところだろうか。


 しかし今日は、そういう風には、ならなかった。佑奈ゆうなから別れ話を告げられたのだ。どうやら今日の昼食が、最期の晩餐だったようだ。






 そうして佑奈ゆうなは僕に謝罪をし、俯いた。その顔は、なんとも悲しげである。そんな彼女の顔を見るに、どうやら僕のことがキライになったワケではなさそうだ。まるで、抗い難いなにかに従わざるを得ないような雰囲気を纏っている。だから僕は、別れる理由を聞くことにした。すると佑奈ゆうなは顔を上げ、一呼吸ののちに、口を開く。


「・・・実はワタシ、巫女なの。だから、をしちゃうと、チカラが失われちゃうの」


 ・・・はい?


「それなのにしょうくん、ってば・・・。最近はワタシの体をジロジロと見てくるし、なんだか求めてるみたいだから・・・。でもワタシ、は出来ないし。だから、別れるしかないの」


 ・・・いや、まぁ。たしかに僕としては『そろそろかな』とか思って、ジロジロと色々なところを見ていたけど・・・。だけど別に焦ってはいないし、佑奈ゆうなの心の準備が出来ていないのなら、まだ暫くは我慢できるけど・・・。


 って、巫女? 巫女って、なに? 佑奈ゆうなの家って、神社なの? それに、って、なに?


「だから・・・、ゴメンね、しょうくん!」


 その直後、佑奈ゆうなは走り去っていった。僕はそのあとを追い掛けるでもなく、遠ざかっていく彼女の背中をただただ眺めながら、思考を巡らせていた。


 って、なに?






 放課後になり、僕は急いで自分の教室をあとにした。行き先は、佑奈ゆうなのいる一年六組の教室だ。慌てて廊下を走り、階段をで駆け上がる。そうして程なくすると、六組の教室へと辿り着いた。すぐに中に入り、教室内を見回す。しかし佑奈ゆうなの姿はない。もう既に昇降口へと向かったのだろうか。僕はまたも急いで、そちらへと駆け出した。






佑奈ゆうな!」


 昇降口の下駄箱の前で靴を履き替えている佑奈ゆうなの姿を見つけ、叫んだ僕。すると彼女は驚いた顔をこちらに向けた。間髪を入れずに、僕はまたも叫ぶ。


「話があるんだ! だから───」


「翔くん、やめて! ワタシたち、もう終わったのよ!」


「そんなこと───」


 慌てて佑奈ゆうなに駆け寄り、彼女の腕を掴む。しかし、佑奈はそんな僕の腕を振り払った。


「やめてって、言ってるじゃないの! ワタシは・・・、この体は、抱かせてあげられないの!」


「そんなことは求めてない! 僕は佑奈ゆうなと一緒にいられれば、それでイイんだ!」


 そう。たとえ、この先がなくても。先に進めなかったとしても、僕は佑奈ゆうなが傍にいてくれれば───。


「ワタシはイヤ! 抱いてもらえないのに、これ以上・・・、しょうくんと一緒には、いられないよ! そんなの、我慢できない!」


 ・・・ん?


「ワタシはしょうくんと、ヤりまくりたいの!」


 んんっ?


「だけど一回でもヤっちゃうと、チカラが失われるの! だからしょうくんとは、別れなくちゃいけないの! そうじゃないと、ワタシ・・・。欲求不満で可笑おかしくなっちゃう!」


 お、おう・・・。


 佑奈ゆうなの突然の告白に僕は勿論のこと、周りにいる生徒たちも動揺を隠せない。とりあえず場所を変えた方が良さそうだ。こんな赤裸々な話を聞かれるワケにはいかない。


佑奈ゆうな。続きは、別のところで───」


「続き? まさか、この前の続きを今からするの!? 三日前にワタシの胸を勝手に揉もうとして、失敗したところから続けるの!? 今日こそ、揉むつもりでいるの!?」


 気づいてたのか!?


 そう。三日前、僕と佑奈ゆうなは一緒に下校していた。そして、その途中で人気ひとけのない脇道へと逸れ、キスをした。そのとき僕は佑奈の胸を揉もうとして、寸前でやめた。


 っじゃなくて!! そんなこと、ここで言わなくてイイだろ!!


 周りを見ると、多くの白い目が僕へと向けられていた。


 なんだよ、胸くらい揉もうとするだろ! 僕たちは付き合ってたんだから!


 いやいや、そうじゃない! そんなことじゃなくって!


佑奈ゆうな、話だよ! するのは、話の続きだよ!」


「・・・話の続き? えっと、たしか・・・。しょうくんがキスをしながらワタシの胸を揉もうとして、怖気おじけづいて腕を引っ込めてから、何事もなかったかのように振る舞って、それから目を泳がせてた───よね?」


 そうじゃない! その話の続きじゃない! 別れ話の続きだよ!


 っていうか、言わないでくれ!! やめてくれ!! 僕の思春期丸出しのドキドキな話をしないでくれ!! それにしても、全部、分かってたのかよ!! 気づいてたのかよ!!


 心の中で懇願するも、そんなことに意味などなく、周りの生徒たちの目は更に白くなっていた。


 オマエら、早く帰れよ! いつまでいるんだよ!



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