第11話 ホットサマードライ
今回は別の理由で空気が悪い。その理由の大半は調達から逃げたという理由だが、最初に逃げた連中に関しては私は問題ないと思う。
シシーが逃げた理由が私を恐れてと言うものなのがまたセーフルームで問題視される。
「俺とナナミちゃんが調達できた流れの説明は大体出来たと思う」
他のセーフルームもどきに灰色の怪物がいたこと。食料が集まりかけの住処があったが場所が場所なだけに全部持って帰ったこと。それらを説明したら大体の人は納得している。
「最初の怪物に関してはどう説明するんだよ」
「俺も驚いたが、ナナミちゃんの説明に納得もしている…食事中だったから会話できると思って接近したのはナナミちゃんだ、そしたら食べられていたかもしれないが、俺たちがその後危険なく探索できたのはナナミちゃんのおかげだ」
タロウが全面的に私の味方をしてくれるので大丈夫だとは思うがシシーとは今後一緒に調達へ行くのは無理なくらい関係性に亀裂がある。
こっちの話しは最初の件以外は普通なのでそれに対して文句を言うのもシシーくらいだから他の者はばつが悪そうな顔で俯いている。
ムイ達の方は絵画や罠などがあったがクシンを先頭に問題なく拠点型の怪物がいたが静かに食料を調達できたのだという。
犠牲者一人で獲得できた分は豊作と言っていいだろう。
「それってさぁ。実質シシーは不参加だったわけでしょ?配給減らすべきだと思うよ私は」
「なっ!そもそも二手に分かれなけりゃ一人も死なずに豊作だったろうが!」
「零番と二十八番交代したら?命懸けで情報を手に入れることをしたナナミの方が戦力でしょ」
「交代したからなんだって言うんだよ、それで何が買わんなのか言ってみろよムイ!」
「二人とも黙ってくれるか?」
タロウの心境は穏やかではないだろうな。元々中立だったのにムトウが居なくなってから判断を仰がれれば決めないといけないのは心労が絶えない。
私はオレンジを食べながらやり取りを見てるが、この話の終着点は結局シシーの配給を少し減らすだけでいいんだからさっさと終わればいいのにずっと無駄に言い争ってる。
零番が優遇されるのは調達に毎回参加するという危険を冒すから…なんて言い出したのは誰か知らないが、各番号のリーダーはもうメンバーがいないため強制参加だ。なんなら一人になってる人達は零番ということになってもいいのにそうはしないし、本人たちもそうなろうと思わない。
理由はなんとなく見てれば分かるが、零番は先頭に立たなければいけないのが一つ。もう一つは零番の連中と絡みたくないのだろう。
あとは食糧管理が面倒くさいとか地味なことで嫌がる人もいるかもしれないがそんなの大した問題じゃないだろうこの場所なら。
ムイが味方になってくれるだけでオクラとクシンも私サイドで発言してくれる分シシーが孤立してるのを彼は自覚してるだろうか。してないのだとしたら毒殺するまでもなく信用が無い者に先頭を任せたいと思う人は少なくなる。
「ナナミちゃん…今回はナナミちゃんのおかげで調達できたと思う。最後全部調達するかの判断もナナミちゃんが選んだ。だからナナミちゃんはどうしたほうがいいと思う?」
そこで私に振ると、私がまたシシーから恨みを買うことになるから発言はしたくなかったんだが…。
「食料の数が少なかったので二人でも良かったです。けど私はリュックで、タロウは両手でした。もう一人いればタロウの負担は減っていたでしょうしもう少し冷静になれたと思います。他の人は逃げても仕方なかったと思いますし。シシーの配給を少し減らせばいいのかと」
出来る限り無難な発言をするように意識はしたが、案の定シシーから睨まれてしまう。
ただシシーだけに責任を押し付けたことで周りが少し重かった空気が軽くなるのを感じたので、今回に関しては必要悪みたいなものだ。
「今日も調達しようと思う。メンバーはシシーが居残りでオクラがこっちに来てくれるか?他は同じで」
「ええ?またナナミはそっちなの?実質零番が三人じゃない?」
「あぁ…それもそうか…ムイ達も居残りを頼めるか?」
「どういうこと?少人数で行くって言うこと?どうせ行くなら満足に食べれるくらい集めた方がいいんじゃないの?それにまたあいつらが逃げたらタロウとオクラとナナミの三人で調達することになると思うんだけど」
「まだ少人数に慣れてないうちに人数を入れ替えるのは得策じゃないと思うんだ。オクラにも慣れてもらいたいと思う」
「いいよー!」
「それなら私達も行くよ…ただ次からはメンバー入れ替えさせて」
「わかった。今日はそれでいって次からメンバーを検討しよう」
話しがまとまったのか、今回も調達に行くとなるとまた運試しだ。
絵画の対応には少し慣れてきたが、予想外の生き物がいたら対処の仕方がどうなるかまた迷うことになるんだろうな。
リュックを枕に少しでも休んで、今度は水分の調達ができたらいいなと思うのと同時に、ヴィクトリアのような魔除けになりそうな存在が徘徊した後であればいいなと思う。
人間を食べると言うのはどの怪物も共通してるのか、共存できそうな怪物がこちらの味方になってくれたらそれだけでかなり心強いんだが。
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連日の調達というのもあって疲労がまだ残っているが、リュックとカーディガンで多少のクッション性があるからここに来たばかりよりかは幾分か寝やすくなったことを思いながら日がもう少しで変わりそうな時間に近づくのを待つ。
「集合しよう」
前回とは違ってタロウが先頭で私の前にいるのはオクラだ。一応見知ってる関係だが挨拶をして。
後ろは前回と同じハッパという男。
「ナナミ…昨日はすまない…」
「別に、私はあの位置だから逃げれなかっただけですので」
「そうか…」
口数が極端に減ったな。恐怖されてるわけではなさそうだし気にしなくてもいいか。
日が変わるのを見てからタロウが扉を開けるが、その時点で異様な熱気がセーフルームに入ってくる。
一旦扉を閉めてタロウが無言で固まっている。死んだか?
「みんな。今日は行くべきか再度確認しよう」
生きてたか。
さっきの熱気は今もセーフルームに残っていて、開けた瞬間に暑いというのが分かる。私は念のためカーディガンを脱いでリュックに納めてから背負って、零番の意見交換が始まるのを見る。
ただ一人居残り組と決まってるシシーが私に対して煽るように喋りだす。
「ナナミが決めればいいじゃねえか。得体の知れないものに詳しいんだろ?」
その言葉にムイが腹を立ててるが、私の意見でどうにかなるとも思えないので無視に限――
「ナナミちゃん…どう思う?」
タロウが私に意見を聞いてくる…反感を買うかもしれないことは私は言えないし選ばないんだが…。
「…扉を開けて廊下は見れましたか?」
「いや、見れてないな」
「廊下を見て食料が見当たらなかったら今日はやめましょう。喉が渇けば貴重な水分が減ります」
「そうか…それじゃあ俺一人で廊下を見てくる。全員後ろに下がって熱気を浴びないようにしておいてくれ」
言われるがまま全員が下がると、タロウが扉を開けて廊下の様子を左右確認して扉を閉める。
離れていても暑いから相当な熱気だろう。長時間の探索を続けれる状態ではない。
「えほっけほっ…あー…食料らしきものはあった…」
あったのか。てっきり無いと思っていたが…しかも近くに目に見える範囲ということは近くにあるということでこれはかなりの豊作なのではないだろうか。
「ただ…食えるか分からない。干からびた肉みたいなものだ」
「肉…」
果物ばかりの生活をしている私達からしたら是が非でもほしいが、なんの肉なのか怪しいのにそれは食っても大丈夫なのか?
人肉という線も捨てきれないが、それ以上に熱気で乾燥されただけの肉が食えるかの知識は私には無い。
「どれくらいの量があったんですか?」
「ああ、ナナミちゃんのリュック二個分くらいかな」
取りに行くだけ行ってみるか…。全員で行くとそれだけ水分も減ると言うのなら私が行って大目に水を貰うようにすれば二回の往復で済む。
「私が二回行きます。右と左どっちですか?」
「本気かい?右にあったが、罠が無いとも限らないよ」
「人数を割けば水が減るので…あとは一回取りに行ってそもそも食べられるものなのか確認もしたいですし」
「私も行こうか?ナナミ一人に行かせるの不安だしさ」
「もし本当に来る気なら誰かから服を借りて一括で運びたいですね」
こんな風に相談しているが、シシーだけ狂ったように私が喋るたびに合いの手を入れるように「ナナミが行くってよ!」「一人で頑張るなんてすげえよなもう俺たちいらねえな」なんてそんな風に言ってきている。
これ以上自分の評価を下げて何の意味があるのか分からないが開き直ってるにしては煩いだけで気が散る。
「服借りてきたよナナミ」
「それじゃあ上部分を縛って袋に出来るようにしてから行きますか…慎重に行きましょう」
ムイがいれば罠に関して安心を得れるが…。私も改めて、リュックの中身をカーディガンと乾パンを出して外に行く準備をしてからムイが先頭を行ってくれるようで、扉を開けて熱気を感じる。
真夏よりも暑い空気に肺が息苦しさを感じる。
「ムイ…冷気は下に集まりやすいのでしゃがみながら行きましょう」
「おっけ」
扉を閉めようと思ったがドアノブが熱くて、閉められそうにない。
もう少し相談してから出るべきだったか。
「ドアノブが熱くて触れません!そっちで閉めてください!戻ったらノックします!」
仕方ないので扉は向こうに任せてムイに付いていく、後ろから閉まる音が聞こえたので大丈夫だとは思うが、肝心の肉に関しては近づいてみると乾燥された肉が小山のように盛り上がって置いてある。
近くにあるのが嬉しいとは思ったがあまりにも不自然だ。
「ナナミ、パッと見、罠は見当たらないよ」
ムイがそういうなら罠は無いのだろう。乾燥肉なら多少蹴っても問題はないだろうと思って山を崩すように蹴ると、中からサソリのような虫が私のローファーのかかとを刺してきて削るような音が聞こえる。
サソリの存在に気付いたムイがサソリを蹴り飛ばす、その間にこの肉に他のサソリがいないか確認して居ないのを見てからリュックに詰めて、今度は私がサソリがこっちに来ないか警戒する。
不意打ちが外れてやる気を失くしてるのか、こちらに来る様子はないが…この肉本当に食っていいものか…。その私の迷いを察してくれたのかムイがこちらに笑顔を向けてくる。
「これ、最初にシシーに食べさせようよ」
「え?」
「あのサソリ毒持ってるかわかんないしさ、この肉が不安なのはナナミも一緒でしょ?それならサソリのこと黙っておこうよ。私達はただ暑い中肉を集めただけ…それで良くない?」
「…そうですね。そうしましょう」
どうしてムイが率先してきてくれたのかなんとなく分かった。同じ班で行動したがるのもこういう相談がしやすいからだ。
ただムトウの時と違うのは明らかに存在していても邪魔な存在になってるシシーに対して私が思うところが何もないので死ぬなら勝手に死んでほしい。
サソリの行動だけ気を付けながらノックをムイに任せて、しばらくすると扉が開き、中に入って扉を閉める。
案外簡単に済んだなと安堵するが、サソリの尻尾に当たったローファーを見て、もしかしてと思う。
「良く戻ってくれた。何もなかったか?」
「何にもなかったよ平気平気ー!暑かったけどねぇ」
タロウとムイが喜んでいるところ申し訳ないが中央に行く前に私はリュックを降ろして、乾燥肉を一枚サソリに刺されたかかとに擦り付けてその一枚を、ムイに近づいて袖を引く。
「どうしたの?」
「私のかかとにサソリが針を刺して来ました。もしそこに毒が入ってるならと乾燥肉を一枚かかとで擦り付けた物を用意しましたけど…使います?」
「あはっ…ナナミはやっぱり一緒にいて頼りになるなぁ。でもそれは残しておこう?最初に毒で死んだら毒見の意味ないし」
ムイに毒を擦り付けた部分に触れないように乾燥肉を一枚渡して、それをムイは大事そうに空き缶の中に入れる。
今回はほとんど乾燥肉だったわけだけど、食料が結構溜まってきたこともあって中央がなんと言うか絵面的に汚いことになってる。
「使ってない角に食料を寄せようか。新しい物や古い順にも並べていこう!」
タロウや他の連中が無邪気に喜んでる中、人を殺そうとしてる奴らがいるなんて思いもしてないんだろうな。
みんなが今回は調達に参加しなかったこともあって私とムイはペットボトルの水を二人で飲みながら食料を移動してるのを眺めている。
「ナナミが居てくれてよかったぁ…」
「そうですか」
「そうやってつれない所も好きだなぁ」
そして、ムイが立ちあがってから乾燥肉を一枚持って、シシーに投げつける。
「ナナミに感謝しなよ?それと配給はみんな少しは暑かったんだろうからシシーは水を制限して、果物は一個…それでいい?ナナミ?」
「いいんじゃないんですか?水は貴重だと再確認できましたから」
様子を見る限り、毒見だとは本人も分かるとは思うが言い方だろうな。サソリのことも話してないし。
そんな気にすることなく乾燥肉を苛立ちながら齧って、シャワー室で水を飲みに行く。
ムトウと同じように死んでくれてもいいが、せめて毒見だけはちゃんと完遂してから死んでくれと思いながら、私はオレンジと乾パンとカーディガンを手に取ってオレンジを食べながら待つと、シシーが出てきて中央に座って元気そうにしている。
三日ほど様子を見たいな。ムイがこっちを見ていたから指を三本立てると頷いていたので多分伝わってると思い。今回の調達はすんなりと終わりを迎える。
さすがにこれだけの量があれば調達は数日くらいは休んでもいいだろう。
ありすぎても腐るだけだろうし、病気になったら薬が無い環境の方が最も危険だ。
それとも…体の変化があったようにこの館では病気というものが無いのかな?
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